短い祭り 5
後の結果として盗みは俺が行い、深見はそれを目撃し、また個人的な恨みから暴行に及んだという結果になった。深見が学校にいた理由は最後に文化祭をみたいと同情の余地があるものらしい。
「文化祭で大切な物が無くなっていることは聞いていて、それを狐神が旧校舎で隠してた。だからこいつがまたみんなを困らせていると考えたら……後は想像通りに。」
そう自白した深見の口からは安川という単語は出なかった。恐らく安川の名前を出さない代わりの協定だったのだろう。変なとこで義理堅い男だ。結局安川の一人勝ちというわけか。そして俺は更なる汚名『泥棒』を手に入れたのだ。
怪我のおかげでと言うべきか、別の意味でか、翌日の片付けには参加しなくていいと言われた。今日は自宅療養というサボりをしてやろう、なんて余裕はなく多分代休明けからみなからは白い目で見られ、また教頭に怒られる、もしくはもう本当に退学だろうな。
ピンポーン、とインターホンが鳴る。
誰だ?我が妹が出たのでそっちの友達かと思ったが、見た感じそうではないらしい。でも顔は知ってる、と。いや、知ってはいるらしいが多分自分ではないらしい。ということはまたあいつか。
「怪我って聞いたからサボって来ちゃった。今家に誰かいる?女の子の靴があるけど。」
「……妹がいるが部屋で寝てる。」
「そっかぁ……じゃあしょうがない。上がってもいい?」
「帰ってくれと言ったっけ帰らないだろ。」
よくわかってるね、と全く帰る気がないのでとりあえず俺の部屋へ通す。靴を丁寧に揃えちゃんとお邪魔しますというあたり、一応礼儀はあるらしい。俺はお茶と申し訳ない程度のお菓子を用意した。こういうのって客人としては食べた方が礼儀がいいのだろうか。
「なんか普通にきれいなお部屋だね。変に片付けてるというよりかは使いやすいような配置って感じ。うん、いいね!」
何がいいのかはよく分からないがなんか褒められた。とはいえ雑談を楽しむ気は無い。学校の今の状況について教えてもらおう。
「何となく狐神君の想像通りだよ。みんな狐神君の話ばかり。多分休み明けにでも退学書書かせられるんじゃないかな。一応学年最優秀賞は取ってお菓子の詰め合わせはもらったけど、そんなのは些細なことだね。」
やっぱりそうなるよな。どうにかして安川を引っ張りださない限り俺が犯人のままか。それは困るんだがあいつの連絡先など知らないし例え呼んでも来ないだろう。何か餌みたいな、有効な手段があれば……。
チラッ。
「ニコッ」
……いやいや、こいつを使うのは流石に。
「なぁ、白花ってどこまで知ってるんだ?」
「……ニコッ」
「……。……あー、いや。……うわー、でもな。えー……。しゃあないか。白花、すまんちょっと力を貸してほしい。」
「うんうん全然いいよ!!じゃあとりあえず狐神君の知ってること教えて欲しいな。」
一体お礼には何を要求させられることやら。だがしかし自身の退学には変えられまい。こいつから安川の連絡先を聞いて、何か逆転できる材料を代休のうちに集めなければ。
とりあえず一通りの事を話すとそのタイミングで白花のとこへメールが来た。どうやらもう安川の連絡先を手に入れたらしい。すごい人脈だなほんと。
明日までにどういう作戦を練るか考えとくと言い白花を玄関まで見送る。あまりこの家に長居はさせたくない。
「ねぇ、私たちは今日文化祭の片付けだけど妹さんは学校じゃないの?それとも本当は家に誰もいなかったの?」
「さぁどうだろうな。答えは想像に任せるよ。」
適当に言葉を濁らせ白花を帰す。そしてため息を1つするとまた自分の部屋に戻る。
思いついた作戦の1つに『白花と楽しい会話をしてうっかり大事なことをこぼしちゃう大作戦』なんていかにもバカみたいな考えが浮かんだ。けれどしないよりはマシだと思うと笑われながら白花に言われ、代休1日目はとりあえず3人でレストランに集まった。
「貴様……また白花さんに近づいて。」
開幕ブチ切れ寸前。まぁそりゃあそーなりますよね。さすがにこうなることは分かっていたのでここは大人しく白花に任せる。
「あ、違うんです。私が勝手にしたことなんですごめんなさい。でももし狐神君の言うことが本当ならやっぱりクラスメイトだし助けてあげたいなって……。別に狐神君の味方って訳じゃなくて2人の意見を平等に聞ければと。」
そう言われれば話し合う他ない。ドリンクバーを頼むと「お前が持ってこい」と指示されたので仕方なくみんなの分を持ってくる。
「後夜祭に遅れて来た理由を聞いてもいいですか。狐神君の言い分だと旧校舎に一緒にいたと聞いたんですけど。」
「後夜祭の前に最後の見回りをしていたんだ。有終の美ではないが最後まで何も無く終わるためにもな。アリバイを証明できる人は残念ながらいないな。みんなには後夜祭を楽しんでもらいたかったし。」
予想通りの答えだな。本当に実行委員長というのが嫌な仕事をしている。何をしていてもだいたいそれで通ってしまう。多分俺がそれを否定したところでさほど相手されないだろう。崩すには無視出来ないような何かを見つけなければ。
「上手く深見を切り捨てましたね。最後まですごいいい働きをしてましたよ。」
「そういえばそんなやつが紛れ込んでいたそうだな。全く、警備員は一体何をしているのか。」
「こいつも含め、この学校には金の卵が沢山あるんですよ。警備がサボっているとは思えません。むしろ誰かが手招いた方がよっぽど考えられる。それもそれなりの権力を持つ者。深見言ってましたよ。狐神を退学させられなかったら許さないと。」
「深見という人物は危険思考なんだな。早めに退学して良かったのではないか?」
このあともいくつか引っ掛けては見たがそのどれもが上手く躱される結果となった。