最後の証明 9
「てなわけで彼女のお前ならなんか知ってんだろ?」
「もう彼女ではないし、何も知らないから失せなさい。」
「え、別れたんすか?短いお付き合いでしたね。あ、俺なんかしちゃいました?」
「そんな安い煽りをしてあなたが楽しいならそれでいいけれど、もし私が何か知ってたらいよいよ話す理由はないわね。」
別れた女友達に掛ける言葉なら前見た少女漫画で予習済みだぜ。
「あいつも馬鹿なやつだよな。お前の魅力に気付かないなんて。」
「ゴキブリに好かれてあなたは嬉しい?」
「好いてないわ。」
こんな馬鹿な会話をするために俺はこいつに話しかけてるんじゃない。おかげで周りからは変な目で見られる羽目になってる。あまり聴衆の前で離したくはない内容だけれど、俺が場所を変えようと言って変えてくれる程優しい女でもない。
「『あの人に渡せ』なんて安川から言われたらお前くらいしか思いつかねえの。だからもらえ。」
「除菌殺菌もしてない不純物を私に近づけないで頂戴。訴えられたいの?」
「アルコール除菌済み。そのくらい俺だって配慮してる。」
「その程度であなたの持つ菌が死ぬとでも?あなたは少し自分の事を過小評価しすぎだわ。あなたはもっとすごい人なのよ。」
なんなんこいつ?久しぶりに出てきたと思ったらイキリやがって。こっちだって嫌々お前と話してんだぞ。我慢はお互い様だろ。
「はぁ......その『あの人』というのが誰かは知らないけれど、文化祭の時に来て一緒に回ったって安川先輩が言ってたわよ。あなたもいたと。これで満足かしら?」
「......俺と一緒に?」
文化祭の時に回ったって、俺と安川はずっと警備だの、落し物拾いだの、迷子のジジイの案内など......。もしかしてあのジジイとか言わないよな。なんで今自分が思い出せたのかよく分からないレベルで忘れていた人だぞ。もう顔なんて覚えていない。多分孫とかの文化祭を見に来たんだろうが、名前なんて知るはずもない。
その後五十嵐に色々聞いたが、それ以上は何も知らなかった。こっちは強姦や窃盗の件もあるからあまりこれだけに時間も割けない。とりあえず落ち着いて1回情報を整理しよう。まず、残す冤罪は次樫野に会うまでに答えを見つけださなくてはいけない。そして今俺の手にあるこれを早急に返したい。こんなの持ってるの見られたら学校の連中は勿論、両親にもなんて言われるか。つまり、1回落ち着いて情報を整理しなくては。
まずは強姦の際の情報を白花と話し合った。とはいえ白花もかなり時間がないらしく、やっと休憩時間をもらえた5分だけ電話することができた。
「まず最初に、あの時私を襲ってくれなんて言っていたが、あれは本当にお前の意思だったのか。」
「あの時は本当にきつかったからあんまり覚えていないけど、思い出してみれば誰かに唆されたような気もするのよね。悪いけど誰かまでは覚えてないわ。あの時は寄ってくる連中が多すぎて誰が誰かもわからなかったし。」
それはそうだ。なんたって入学当初は全校生徒1800人の大半が休み時間毎に来ていたのだから。さすがの異常事態に先生たちも防衛線を作っていたが、そんなのものあんまり意味をなしていなかったし。でも例えば全く関わりのない3年生が周りにうじゃうじゃいる中で、そんな白花を唆すような時間も真似もできるとは思えない。容疑者も多いが、その分目撃者も多いから関わりが浅い人では恐らく難しいだろう。犯人は体育のペアとかで二人きりに慣れるタイミングとか、グループ単位で事に当たったとか、そこらへんだろう。
「次に気になったのは、やっぱり地学講義室に集合した時だよな。鍵はなぜか掛かってなかったし、白花は30分ぐらい遅れてきたし、前の扉から廊下を眺めていたら後ろから声かけてきたんだ。」
地学講義室の簡単な地図を書きながらそう伝えた。
「私は普通に話しかけたような気もするけど、悪いけどやっぱりあまり覚えてないわ。」
確かあの部屋は天文部の部室だったよな。ならまず天文部、尚且つ俺のクラスの連中に当たってみるか。動向からして何かしらのことは知ってそうだし。......確かあの時に見た男女2人は。
「そんな前のことは悪いが覚えていない。」
俺ももうあんまりハッキリ覚えていないけれど、確か委員長がこんなところで何してんだろうな、と思った気がするんだよな。坂上楼なんて名前を知ったのはかなり後だが。
因みに坂上は天文部に所属している。天文部は特に目立った功績はないが、週末に宇宙航空開発の現場に赴き、現場で勉強しているというのは聞く。それだけでも俺はすごいと思うが。
「でも天文部だよな。だったら可能性は全然あるよな。」
「あぁ、だが今言った通り、俺はそんな前のことを覚えていない。残念だかお前の力にはなれない。」
「じゃあ少し話を変えるけど、天文部だったら多分日誌とかはつけてるよな。それを見せてもらうことはできるか?」
勿論天文部には坂上以外にも生徒が在籍してるだろうから、こいつが部長と言うことはあるまい。けれど、そのくらいなら第三者に見せても問題はなさそうだと思う。俺だから見せたくないという気持ちはとりあえず置いておいて。
「部長に相談してみる。」
「お、おう。ありがとう。」
絶対嫌がると思ったが、答えは案外あっさりしたものだった。
「ほら。」
放課後、坂上と一緒に天文部に訪れた。昼休みの終わりに坂上と話し、放課後すぐに天文部の鍵を受け取ってここに来た。誰かがノートを改竄することは恐らく出来ないと思う。そしてその日の記録の文字を見た感じも、また同じく改竄はないと思う。
『本日はかねてより希望していた近くのプラネタリウム展の手伝いのため、部活は校外にて行う。なお、時間が限られているため、授業後直行。』
「あぁ、そういえば俺は確かクラスの誰かに話しかけられて遅れたな。」
校外の活動の印鑑とその時の記録は綿密に書かれており、プラネタリウム展の印鑑も押されているところを見ると、事実で間違いないだろう。そして欠席した人数は0だった。




