最後の証明 5
地学講義室は鍵が空いていたのですんなり入ることが出来た。しかし肝心の白花の姿がそこにはなかった。めちゃくちゃ忙しい白花がわざわざ俺を呼び出してちんけなイタズラなんかする訳ないだろうから、どこかに隠れてでもいるのか、何か急な用事でも入ったかそのくらいだと考えた。この後に具体的な用事などなかったから近くにあった椅子に座って待つことにした。天文部は思いの外汚く、足の踏み場もあまりなかった。
「......なんかくさい?」
緊張からか汗が噴き出しているのだろうか?わずかだが不快な匂いがした気がした。料理部が何か蒸し料理でも失敗したのだろうか。
30分後。
夏至に向かい日は伸びてきているが、そろそろ本格的に暗くなってきた。単純に白花に遊ばれたのかな、と思い初め、席を立ち教室の扉から顔を出してみる。しばらく座っていたせいか、立った瞬間おぼついた。そして扉を開けて遠くに男女2人見えたが白花の姿は見えなかった。
「確かうちのクラスの......」
名前をなんて言ったか。忘れた。
「ごめんね、待ったよね?」
「うぉ?!」
どこにおってんワレ。水槽にどっからか湧く小さな貝か。......いや、ほんとにどっから出てきた。後ろから声をかけてきたはいいが、後ろは壁だし、反対は勿論今さっき確認したばっかだし。ここに隠れるってのは......俺が来る前に隠れておけばいいのかそうか。納得。
でも何のために?
「じゃあ早速話聞かせて貰っていいかな?時間も取らせちゃったし。」
「それは気にしてないけど、いつからいた?全く気付かなかったけど。」
「普通に今扉から入ってきたよ。寝ぼけてたんじゃないかな」と言われたが、過去のことも大人気アイドルからの放課後の呼び出しのことも踏まえて俺が寝るなんてことはないと思うんだが。まぁいいや、向こうも時間があんまりないだろうし、協力してくれるというのであれば申し訳ないがご助力いただこう。
とりあえず俺は白花に窃盗も強姦もしていないと話した。みんなにも話そうとしたがその大半は最後まで聞かずに去ってしまっていた。でも今この状況は違う。白花は俺の話を聞きたいと言ってくれて、事実今しっかりと頷いてくれている。もし白花が俺の言うことを全面的に信用してくれて、それをみんなに広めてくれれば、きっと俺の冤罪は消えるはず。......もしかして、白花の記憶が戻ったのか?だから俺にこんなに親切にしてくれるのだろうか。だとすれば俺と二人きりで話したいという理由もわかる。学校外で男と二人でいたら怪しまれるもんな。こんな人がいない場所を選んだ理由だって、過去のことを他の人に聞かれるわけにはいかないもんな。なるほど、そうだったのか白花。
藁にも縋るという言葉は本当に言いえて妙だと思う。人間追いつめられると何もかも自分に都合のいいように勘違いする。そしてそれを強要する。それが2人しかいない教室で両人とも溺れているとなれば2人揃って沈んでいくだけ。
「そうなんだ。そんなことを一人で背負っていたんだね。つらかったよね。」
「......信じてくれるのか?誰も信じてくれなかったのに?」
「信じるよ、だって今の狐神君の目、本気ってわかるよ。」
.......神様は本当にひどいと思う。諦める直前で希望をくれるのだから。しかも愛の力的な感じで記憶が戻った最かわ幼馴染の復活とか。こっから逆転劇の開始が始まるのかな。
「......だからね?」
「うん?」
「そんな私があなたを慰めてあげるよ。」
「お、おう?」
慰めるの意味がよくわかっていない俺を置いて、白花が背中を掻く仕草をする。そしてシャツの中で手を動かしていると、やがて白花のワイシャツの中で何かが落ちた。そこでようやく俺は白花が何をしようとしているのかが分かった。
「え、何してんの。よくわかんないが、その手を止めてくれないか?」
「私ね、あなたに期待しているんだ。あなたが私のことを襲ってくれるんじゃないかって。」
「いやいやいや、意味わかんねぇよ!だから俺は痴漢なんてしてないって言ってるだろ!!というかお前今何してんのかわかってんのか!?なんだよ襲ってくれるって。お前何言ってんのか分かってんのか!?」
俺の言葉なんてまるで届かず、その手が止まることはない。シャツをスカートから抜くと白花の下着がポトンと音を立てて落ちた。そして今度がスカートの中に手を入れるとなんの躊躇いもなく下着を下した。
「私ね、もう疲れちゃったの。モデルとかアイドルとか。いつからかいた芸能界だけど、頑張る理由もよくわかんないし、そのストレスを吐き出す場所すらないの。家だって両親に笑顔でいるにはいい加減つらいし、少し休憩が欲しいんだ。だから『強姦されました』みたいな事実があれば私は少しでも休むことができるんだ。」
自分の下着をこちらに持ってきて俺につかませる。耳元で蠱惑的に話す声にはまるで神経毒みたいに体の自由が利かなくなり、欲望が理性を殺しにかかってきてた。
「狐神君の活躍を聞いて特別なものを感じたよ。他の人はまるで私を神聖視してそれに私は応えなくちゃいけない。だけど欲に堕ちた憐れな豚さんなら、私のことなんて考えもせずに汚してくれるんじゃないかって。」
「......信じて......くれるって......」
「信じてるよ。あなたがあんな馬鹿みたいな言い訳をして、自分の罪を他人に押し付けようとする救いようもないクズってね。」