思い出の少女 10
「お前のせいで......失せろ!!このクソガキが!!!」
「折角得たチャンスなのにねぇ。......もしこれでダメになったらあんたを一生憎んでやるわ。」
その後何があったのかはあまり覚えていない。ただすぐに救急車が来て、小石の両親が来て、散々怒鳴られ殴られて帰らされた気がする。お前のことをもう考えたくもないから、とっととここから消えろ、そういわれた。家に帰ってそのまま寝て、翌日迎えに来た両親に連れられ俺はそのまま帰った。此方とはその何年後かに話したが、かなりショックを受けていた。しかし不幸中の幸いは大けがを負ってもやはり生きていたことだと思う。「会えばまた前みたいに一緒に遊べるはずだから」と言って聞かせたが、その保証はなかった。最初は否定していたが、もし本当に俺のせいで白花があんな目にあってしまったのだと思うと、俺はどんな顔をすればいいのかわからなかった。
その1年後、小石は懸命なリハビリと努力の結果、1年越しでのオーディションを受けることができた。結果はその中でぶっちぎりで1位、命がけの大事件もいい感じのスパイスになって客や審査員にいい感じに受けた。もちろんお腹の怪我と狐神彼方という存在、そしてあの時の笑顔は完全に消えていた。
「まぁ俺と白花の出会いはこんな感じかな。白花の方は......思い出せてはいない様子みたいだが。」
「悪いわね、さっぱり思い出せない。でも辻褄は合ってるわね。」
白花はお腹をさすっていた。それはきっと無意識だろう。祖父の家で寝ているときもそうだった。記憶にはなくてもやはり体は覚えているのだろう。
「それで?過去のことを知ってお前はどうするんだ?前にも言ったけど今のお前と過去の白花小石とはもう完全に別人と分けて考えてる。確かにあの子は好きだったが、今のお前にその感情は全くない。」
「別にどうもしないわよ。ただそんな話が合ったのねって、そう思っただけよ。まぁっそれならうちの両親があんなにあなたに対して怒るのもわかるわね。目障りな子供がお金をかけて育てた道具を連れだして死にそうになったのだから。......でもなんで私は上から落ちたのかしらね。誰かに襲われでもしたのかしら。」
そこは話してる俺も今から思えば不思議だと思った。誰かの血が俺の頬に落ちてきて、次に小石が落ちてきた。普通に考えればそれは小石の血だと思うが、そうなると小石は落ちてくる前にすでに怪我を負っていたということになる。
「多分その誰かに頭かどこかを強く殴られたんだろ。一気に意識を持ってこなきゃ悲鳴上げられて彼方が気づかないわけないからな。それに多分白花さんはその時のショックで彼方と此方ちゃんのことを忘れちまったんじゃないか?」
頭を強く殴られその血が俺の頬につく。そして小石が落ちてきて木に刺さる。そこで小石が残ったわずかな意識で俺にあのミサンガをくれた。その後白花は意識を失い、俺たちのことを忘れてしまった、か。記憶喪失なんて漫画みたいな話だけど、白花の表情を見るに正解かな。
「確かにあのあと病院で目覚めて、何か記憶を失っていたらしいのよね。そういうことだったの。」
「一体だれ......もういい時間だし、そろそろお暇するとするか。」
そこで明らかに太陽が話を切った。そして俺に一瞬の目配せをした。意味までは分からなかったが、何か思うことがあったのだろう。女子2人はまだ時間的にも問題なさそうだったが、ここは従っておくか。
「それもそうだな。アイドル二人があんまり夜まで外にいるのはよくない。今日はお開きにしよう。俺も夕飯作らないとだし。」
時間はまだ7時を過ぎていない頃だったし、決して夜遅い時間というわけではないが、その場で解散となった。もちろん太陽にも一回帰ってもらったが、すぐにまた帰ってきた。
「で、何に気づいたんだ?」
ここからは人間の姿の此方も交えて話し合いが始まった。
「もう一つおかしな点がある。誰が救急車を呼んだか、だ。お前さんの言い方だと救急車はすぐに、それも白花さんのご両親が来るよりも前に来たというふうに感じた。でもその時はお前は携帯を持っていない、家にも帰っていない。ともなれば、近くにいた誰かが呼んだと考えるのが普通だわな。」
あんな時間にあんな場所に人がいることは考えにくい。それにもしたまたま通りがかって救急車を呼んでくれたとしても、何も言わないで去るのは正直考えにくい。それなら何らかの目的があって小石を突き落とした犯人が救急車を呼んだ可能性の方が高い。......でもなんのために?殺すつもりはない、でも死んでもおかしくないような怪我を負わせた。頭を殴るだけの予定がたまたま小石が足を滑らせたとか?いやでもあそこにはガードレールもあるから、犯人が落としたのは明白。