思い出の少女 2
肝心の自由研究の方が全くアイデアがわかない。パソコンで調べてみたけど正直あんまりやる気は出ない。確かにただ作業として自由研究を終わらせるのならそれでいいと思うんだけど、なんかダメな気がする。将来やりたいことなどあればそういうことを調べればいいと思うんだけど、俺にはそんなものはないし。
「まぁまだ時間はあるべ。ゆっくり考えんしゃい。」
ゆっくり考えても何も思いつかないから困ってるんだけどな。考えれば考えるほど何を考えてるか分からなくなってくる。目の前の簡単な宿題さえ分からないほどに。
そんな様子を横から眺める此方を見る。
「......お前暇なら俺の宿題代わりにやってくんね?」
「?」
ダメだ、何を言ってるのかすら理解出来てない気がする。この年だとまだ宿題ってなかったっけ?さすがにあると思うけど。
「此方は何かやりたいことあるか?もう俺の自由研究もそれでいいと思うんだ。」
「......お母さん、お父さん、笑う欲しい。」
「......は?」
ダメだ、やっぱり何言ってんのかさっぱり分からない。こいつわりと本気で頭悪いんじゃないのか?少し心配だぞ。
結局その日も何も思いつかず庭先で遊んでいた。適当な木と穴を掘って、ボールを打つゲートボールのようなもので遊んだ。本当にこの辺りは土地が余っているので、ひとつひとつの家が持つ土地が広い。小さな野球ぐらいなら十分にできるほどだ。
「なんかつまらない夏休みだな。」
このまま何となくで何日も過ごすようなら、適当な自由研究をして帰るとするか。家に帰ればゲームだったり、友達と遊ぶこともできる。
勉強で数少ない嫌いではないもののひとつに星があった。理由は単純、かつてここで見た星空があまりにも綺麗だったから。他にやりたいことも結局思いつかず、決して面白いとは思わないが、星空のスケッチにすることにした。しかし今夜は雲がかかり星は見えなかった。天気予報によると明日は晴れるとのことだった。
課題が決まれば事前準備が始められる。画用紙に色鉛筆、一応カメラ、天体望遠鏡はないので望遠鏡を一応持ってってみる。おじいちゃんとおばあちゃんに言ったら夕飯を豪勢に作ってくれると言ってくれた。気のせいかもしれないけど、一瞬寂しそうにも見えた。
その日の昼は今の季節はどんな星座が見えるか調べた。どの本やネットでも、夏の大三角形というのが書かれていた。わし座とこと座、それとはくちょう座というのが作り出すらしい。他にも色々と見えるそうだが、まずはそれを見つけるとしよう。それで他にも見えたら調べてみよう。何だがいざやろうとしたら、すごいわくわくしてきた。
「おおー!!」
「!!」
その日の夜空は今までにないほど綺麗な夜空だった。月が見えなくなる新月という日らしい。そのおかげでより星が綺麗に見えるらしい。おじいちゃんに頼んで写真を撮ってもらったが、この夜空程でもないが、とても綺麗に写った。夏の大三角形を見つけるのも全然苦労しなく、直ぐに見つかった。しかしそれをいざ描けと言われてもただの3つの点にしかならなかった。周りを黒くしたり、星のキラキラを増やしてもこの夜空には遠く及ばなかった。
「写真を一番最初のページに載せて、後ろは彼方が描いた星座のイラストを挟めばいい感じじゃないか。それでその横にその星座の説明とか書けばいい感じだべ。」
おじいちゃんの意見はいいと思ったけど、何となく嫌だった。こんな綺麗な星空を、俺の下手な絵で描きたくない。
結局その日星空を描くことはなかった。
小学生の夏休みは長いもので、まだ時間的余裕はあった。自由研究以外の課題は徐々に終わりを見え始め、同時に自由研究が全く進まずに焦りと余裕が入り交じる変な感じになった。
そういえば最近、此方がちょこちょこ1人で出かけることがあった。てっきり1人で河原などに行ってるのだろうとおもったけれど、考えてみれば此方が一人で外を出歩くことは危険だからそれはないはずだった。おばあちゃんに聞いたらどうやら最近仲良くなった女の人がいるらしく、その人と遊んでいるらしい。そういや前に『こし』さんという女の人と一緒に遊んでいたと聞いた。その人だろうか。もしそうなら一言ぐらい挨拶しておいた方がいいのかな。こんな田舎でもし年が近い人がいたら一緒に遊びたいし。
今日も此方がおばあちゃんに何かを伝え、外に向かおうとしていた。俺も最後の宿題を終わらせる為にスパートをかけていて疲れたので、こっそりその後をついて行くことにした。
少し離れたところから追跡したが此方は全くこちらに気づかず、トテトテと歩を進める。と思ったら急にこちらを振り返りバレた。どうやらこういうのには敏感らしい。獣みたいだな。しかしバレてしまっては仕方ない。
「あー......その、こし?さんのところに行くのか?」
此方は大きく頷く。その表情からしてどうやら本当に楽しみにしている様子だった。どこかにモヤっとした感情が湧いたが、その気持ちが何なのか、自分でも分からなかった。
「俺もついてっていいか?」
その問いには首を傾げた。それは何を言ってるのか分からないというものではなく、連れてっていいか分からないと、ちゃんとした会話での傾きだった。
「あなたが此方ちゃんのお兄さんですか?」
その笑顔は夏の太陽よりもずっと輝いて、あまりにも純粋だった。その時の俺にはなんて形容すればいいか分からなかった。けれど思ったは覚えてる。『きっと幸せな人はこういう顔をするんだろうな』と。弾けたその笑顔に俺くらいの年頃の少年が惚れるなというのが土台無理な話だった。恋というのが落ちるものだと初めて知った。どうしようもないくらい、抗うことなんてできない、理不尽な程に。
それがあいつとの出会いだった。




