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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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思い出の少女

バスさえ数時間に1本しか通らない、しかもそのバス停までなかなかの距離を歩かなくてはいけないそんな田舎。外に出ても人さえろくに見えず、見えても顔見知りがほとんど。観光地でもないのだから人がこのような辺境な場所に来る理由がない。強いて言うのならば緑が豊かで山あり谷あり川ありなど自然が豊かなところ。しかし現在ではそんなものよりもカラオケやゲームセンターなどの方が余程需要がある。たまにこういうところを訪れる分にはもってこいだが、そこに住めとなると話は違う。

かくいう俺もそこに住んでいるわけではない。祖父母の家がそんな場所にあるだけで、夏休みに帰る程度だ。俺もたまの帰省には悪くないが、そこに何年も居たいとは思わない。叔父のとこにいる女の子もそのタイミングで祖父の家に集まるが、どうも上手く会話が出来ない。俺よりも少し年下と聞いたことがあったが、話せないという年齢ではないだろう。しかも俺たちと会うとやたら嬉しそう......とは何か違うが、安堵感のようなものを感じた。両親に話しても「彼方に会えて嬉しいんじゃないか?」だけで終わってしまうが。


夏休みの自由研究は嫌いだった。明確な課題を出されれば嫌でもやるしかないが、自分でそれを見つけて結果を出さないといけないなんてめんどくさいことこの上ない。「前も同じものじゃなかった?」なんて言われたら変えざるを得ない。さらば、川の生態。

「自由研究が終わるまではここにいなさい。」との命を受けた。今回も此方がセットで付いてきた。お前は宿題は をやらなくていいのかと訊いても「?」としか帰ってこないのでそれ以上は質問しなかった。

「自由研究ってみんなどんなことしてんのかな?」

「彼方は何かしたいことはないのかね?」

「あったら苦労してないよ。いっそおじいちゃんになんか課題を出してもらった方が楽まである。」

「自由研究というのはそこまで自分で考えてやるのだろう。」

結局何も助言は頂けなかった。

とりあえず外でも歩いてきたらどうだ、と言われたので適当に外を歩く。トタトタと玄関辺りから足音がついてきてるのも聞こえたが、それが誰なのかも想像に固くないのでわざわざ振り向くこともしなかった。そのまま毎年の癖で無意識に川に向かっていた。雑木林では様々な蝉がけたたましく叫んでいる。異性に好かれるためにそんなに必死になれるのはすごいと思うが、迷惑だから死んで欲しい。自由研究のテーマは蝉をどのように絶滅させるかにするか。みんなうるさいと言ってるし、絶滅しても困らないだろう。食べれる訳でもないし、見て癒されるわけないし。人類にメリット無し。

そんなことを考えているうちにいつもの川に着いた。それなりに水量が多く、いつもゴォゴォと音が響いている。夜中に来ると割とマジで怖い。けれど日が高い位置にあるうちはその壮大な景色が好きだ。自然の......なんというか.......勇ましさ?っぽいのがある気がする。

ずっとその景色を見ていても全然飽きない。夏の田舎だけあって大きな虫などが何度か体にぶつかるが、別に放っとけばいい。やがて日が沈み始め、星が煌めき始めて、いとおかし。強い光を放つ星もいいが、淡い光のものもまたいとおかし。

「おかしじゃねぇ!!此方帰るぞ!!熊が出るかも......此方?」

しかし後ろを振り向いてもその姿はなかった。その瞬間、額から汗が一気に溢れるのが分かった。こんな時間にあんな年の女子がこんな場所で迷子にでもなったら危険極まりない。急いで探しに行こうとしたが、前に父さんに言われたことがある。「もし此方が迷子になったら真っ先に家に帰って誰かに知らせろ」と。二重遭難?とか言ってた気がする。意味はよく分からないけど、確かにそう言ってた。

家からそんなに離れていない場所とはいえ焦りから体力は最後まで続かなかった。それでも可能な限り早く家に向かった。今この瞬間にも此方がピンチなのかもしれない。

「おじいちゃん!此方がいなくなった!!」

「お前さんがいつまでも帰ろうとしないからだろうに。声をかけてもつついても反応がないから先に帰ってきたわ。」

おじいちゃんの後ろの方に料理を手伝う此方が見えた。此方は一瞬ビクついたが、とりあえず俺の早とちりだったので、此方の方へスマンと手を合わせる。虫だと思ってたのは此方の手だったのか。


「というかその様子だと此方をずっと1人にしてたのか。お兄ちゃんとしてそれはどうなんだね。」

「別に実の兄って訳じゃないし。それに此方全然話さないから面白くないんだもん。」

「久しぶりに会うと何話していいか分からないのよねぇ?此方ちゃん。」

おばあちゃんはそう優しく言っているが、前に盗み聞きをしたことがある。何やら言語能力?が少し低いとかなんとか。

「ひとり、違う。」

珍しく此方の声が響いた。それに俺だけが驚いた様子だった。

「おや、誰かと一緒に遊んでたのかな?」

その問いに大きく頷く。未だにフォークを上手く使えずにハンバーグをほっぺたにベトベトつけながら。

「女。」

口の悪さよ。なんで女の子って言えないんだよ。にしてもこの近辺に此方と遊んでくれるような女の人なんかいたかな?

「こし。」

「こし?」

腰に手をやり聞いてみる。しかしその腰ではないらしい。じゃあどの腰だというのか。

「もしかしてその女の子の名前なんじゃねぇのけ?」

腰なんとかさんか。確かに苗字は色々あるからな。今度会ったらお礼を言おう。

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