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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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アイドル事変 21

榎本を眠らせたはいいが、俺もそろそろ限界が近い。視界が歪み、足元がおぼつかない。それでも白花の元まで歩いて来れたのは我ながら褒めてあげたい。だったら最初からこんなことになる前に行動しろよとも思ったが。

マスクを白花に付ける。

俺がマスクを付けて助けを待っていると、俺が犯人と言われかねない。それなら白花にでも付けておけば少なくても俺が犯人とはならないだろう。

緊張の糸が一気に解けて疲れと眠気が全身に巡る。何かが倒れた音がして視界が暗くなっていく。


「ここは......」

部屋を見渡す限り、病室ではないらしい。かと言って俺の部屋でもない。どこか見た事のある部屋だが、いまいち考えがまとまらない。頭がぼーっとする。

「よ、随分と長い間おねんねしてたなー。」

「?......あぁ、随分と迷惑かけた。」

「気にすんなや、今更。」

太陽は「飲めるか?」とお茶を出してくれた。それが体によく沁みる。因みにめちゃくちゃ腹も減った。尋常じゃないほどに。

「俺何日くらい寝てた?」

「まる1日だな。」

となると本日は金曜だから最悪だな。しかも外の景色からして今更学校に行っても間に合わない。というか行く必要もないのかもしれないが。でも確認せずにはいられない。

「俺も学校についてっていいか?」

別に俺は構わないので頷いて急いで準備を進めた。

1回うちに帰り軽くシャワーを浴びた後、軽くご飯を食べ歯を磨き、制服に着替えて家を出た。その間に太陽から大まかな事態を聞いた。

まずあの現場にたどり着いたのは白花のマネージャーだった。外で彼女が行く場所で考えられるのは限られてるので割と直ぐに着いたらしい。そこではガスで充満した部屋に有名人たちに榎本、俺、深見、そしてマスクをつけた白花が居たらしい。とりあえず救急車を呼び全員の無事を確認した後、白花に事情聴取を行ったらしい。白花は俺の持っていた携帯の動画を見せた。それは何よりも確たる証拠となり、それ以上は何も聞かなかった。白花もかなりやつれていたらしい。誰が主犯かは調査中の事だが、それも時間の問題。恐らく醜い責任の押し付け合いの後判明するだろう。あの言葉を聞くまでは榎本が主犯だと思っていたが。


学校に着く頃には既に日は沈み、辺りは夜に包まれていた。それでも学校の先生は残業ウェルカムなので、煌々と職員室の明かりはついていた。俺は上履きを履き、太陽には来校者用のスリッパを勝手に履かせた。そして職員室の扉を開けると目の前に遠井先生が驚いた表情をしてこちらを見ていた。そしてこちらが何か事情を説明する前に「こっちへ」と行って俺の手を握って職員室から遠ざけた。太陽は「強引な女教師の(いざな)い......いいなぁ」などと意味不明な言いながら、俺はそのまま歩を進めた。

やがてもう何度目かの会議室に俺は連れてこられた。先程職員室の後ろの方に教頭がいたのは辛うじて見えた。ということはこの話し合いは恐らく遠井先生の独断で行っているのだろうか。「ちょうどいいところにいたからから捕まえてきたわ」とまるで俺をなんかの動物のように扱う。太陽は「犬のように扱われる......それはそれでなかなか......」などと意味不明な事を言う。まぁそんなことは置いていおいて。

「......」

白花が何も言わないから俺の方も別にないも言わない。多分それは向こうも同じことを考えているのだろう。白花は目線を直ぐに外して、遠井先生の方を見る。

「では私に言えることはもうこれ以上ないので失礼致しますね。後は本人から聞いてみて下さい。」

「あ......いいの?」

「はい。では失礼します。」

遠井先生に一礼すると俺の方は一切見ずに部屋を出る。太陽も違和感を感じたらしく、背中をトトっと突くがあえてそれを無視する。立って話し合いもなんだから席に着く。そして遠井先生と太陽も座る。

「一応自分がグースカピーしていた時に起きた話は太陽から聞きました。そのうえで俺にどういう判決が下ったのかを知りたいです。」

「グースカピーって最近使わないぞ。大丈夫か?話し相手いないのか?」

うるせぇよ。

余程俺に心許せる存在がいることが意外だったのか、単純に歳のせいなのか、俺のギャグがあまりにも惨憺たるものだったのか、反応までに少し時間を要した。

「結論から言えば、少なくても今回の件は、あなたが彼女を助けるために動いたのは認めます。先程まではどうしても白花さんに確認したいことがあったからです......あなたと白花さんの関係性について。」

「あいつはなんて言ってましたか?」

遠井先生は首を横に振った。

「分からない、と。でも私は彼女が何も知らないとは思えませんでした。混乱していて、まだ確信を持てていない、そんな感じに見えました。少なくても被害者と加害者の関係だけには見えませんでした。」

ミサンガをぶちぎって目の前に投げた時のあの目で思い出したと思ったんだけどな。このままこの人に変に詮索されるよりかは少しは本当のことを話した方がいいか。

「昔少しだけあいつのお世話になったことがあるんです。それで向こうはそんときのことを覚えてませんでしたけど、俺はその恩を返そうとしただけです。今回助けたのはそれだけです。」

もうこれで俺があいつを助ける理由はない。あいつもそれは十分に分かっただろう。だから今後俺とあいつが関わることはなくなる。だけどそれでいい。

遠井先生はまだ完全には納得いってない様子だったが別にどうでもいい。

「話の流れ的に俺の退学はとりあえずなくなったと考えていいんですか。」

「そうですね。白花さんの両親は「あいつが仕掛けて助けたフリをしただけ」と言ってましたが、あなたじゃなくてもあんな有名人を集められるなんてこと普通出来ません。白花さん、深見さん、榎本さんの証言もありますしね。」


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