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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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アイドル事変 12

「そうですね、白花小石さんとしてはどういう考えですかね。」

今までずっと黙っている白花に話題を振る。この話し合いにおいて白花の意見は何よりも重要なことだ。「やはり許さない」と言えば俺は退学の方へ話は進むだろうし、「許してる」と言えば両親が何か言って退学にしようとするだろう。

みんなの視線が白花に集まる。そしてゆっくりと口を開いた。

「私は......私は......えっと......その......」

白花が(ども)るなんて珍しい。多少は俺の言葉が届いたのだろうか。

「ち、ちょっと!!そこの男が威圧して小石が思うような事が言えないじゃない!!いつも気丈に振舞ってもやっぱりその男をこんなにも怖がってるのよ!!早く退学にして下さい!!今すぐ!!」

今度は白花の母親がごちゃごちゃ喚く。白花が俺なんかに臆するような人間かよ。きっと前もって両親が植え付けた台詞と自分の感情に迷いが生じてるんだろ。であれば決して悪い展開ではない。

「本人からの言葉がまだ何も聞けてないです。少なくても学校では俺なんかにも積極的に話しかけてくれました。それどころか、学校で居場所がないと悩んでいたら、仕事の手伝いといって放課後などにも付き合ってくれました。」

たとえ動機は違くとも、白花といる時は独りじゃなかった。当たり前のことだけれど、当然の事と考えてはいない。2人だったから寂しいとは思わなかった。それは決して間違いではない。

「あの......もし、私があの事件の事でまだ許していないと言ったら、狐神君は......どうなるんですか。」

「そんなもの退学に決まってんだろ。なぁ、先生様?」

「それは......まぁ、そうなりますね。」

このままでは校長は押されて負けるだろうな。一度この人が首を縦に振ってからの逆転は無理だろうし、やはり俺らしく場をめちゃくちゃするか。

「先生、下手な芝居やめましょうよ。学校側は俺の冤罪に関して何もしなかったじゃないですか。」

「なっ、何を「じゃあ事の次第を今ここで全て言えますか?因みに私は言えますよ。まず生徒の知り得ないだろうところまで。何ならそこら辺の生徒の捕まえて確認とってもいいですよ。誰が俺の冤罪を証明したか。」」

この発言によって白花の両親が苦虫を噛み潰したような顔をした。それもそのはず。先程の発言が全て嘘だと言われたのだから。しかしこうなれば都合がいい。憎しみが俺1人に向いていたのが、学校にも分散したのだから。後は白花の両親さえ苦しい状況にさえなればみんな不幸になれる。みんな平等でいい世界ではないか。

「小石、お前もまず気づいてると思うが、ずっと両親に利用させられてるんだぞ。そのストレスはきっと俺なんかには測れないものだ。だから、せめて俺にできる全てでお前に償いたいと思ってる。お前がやりたいことも、知りたいことも、全て。」

恐らく両親は気づいていないが、白花は自分自身の違和感にもうとっくに気づいてる。そしてその理由は両親からは当然教えて貰えない。けれど俺は知っている。だからその理由を話すことが俺を学校に留めるための交換条件だ。たかが情報ひとつだけと言われてしまうかもしれないが、俺にはこのくらいしかない。

そんな話し合いの中、急に3回のノックの後に「失礼します。」とここの学校でない制服を着た人が入ってきた。俺は知っていたことだが、他の人からすればびっくりするだろうな。

「......そらちゃん?」

「こんにちは、小石先輩。それと狐神先輩もこんにちは。他の皆様、お初にお目にかかります。私、今年の4月にここに入学する榎本そらと申します。白花さんとはよくお仕事でお気遣いいただいております。そして狐神さんとも年齢は違えど仲良くさせていただいております。」

お手本のような綺麗なお辞儀をする。

そんな自己紹介などしなくてもみんな知ってるけどな。でも例え有名人であろうと最初の挨拶は必要か。最初に好印象をつけといた方が話し合いもしやすいし。そしてその一歩後ろには深見も来てるのか。

(うやうや)しい榎本の態度に校長もお辞儀をする。

「これはどうも。しかしなぜこの場に榎本さんが?失礼ですが、これは校内での問題。例え自分の入学する学校の仲の良い人の話であろうと、この場には相応しくないかと。」

「実はお二方に別々に相談を受けておりまして。内容が内容なだけに気軽に公言は出来ないと思ってましたが、狐神先輩からこのような話し合いの場があると聞かされまして、私も二人のお話し合いに協力できればと思いまして。」

「そんなこと知ったことか。校長、早くこのガキを退学にしてくれよ!」

新たな不安材料が降って湧いて白花の父親はまたも不愉快な顔を浮かべる。

しかし次の瞬間、そんなものはどうでもいいと感じた。俺は一瞬榎本が白花の父親に向けた凄まじく冷たい目を見てしまった。それはゴミを見るものよりももっと酷く、形容し難いものだった。けれどそれはほんの一瞬。瞬きをすればそこに先程の榎本はいなかった。

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