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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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敗者の末路 2

先述の通りうちは様々な部活が全国レベルの為、帰宅時間が比較的遅めにされている。大会前の部活なんて言えばさらにだ。そんな訳でもうお外はとっくに真っ暗で良い子は帰る時間だが、悪い子の俺は帰らせてはもらえない。

「は?甘えんなよ。こっちは『この部に入りました』って報告以外待ってないんだよ。どこも入れてもらえなかったって、お前の態度が悪かったんだろ。」

それが仮にも教頭の言うセリフか。見てもないくせに偏見だけで決めやがって。確かにこいつが俺に対してこんなに言う理由は分かるけれども。......さてどうしたものか。

「あの、明日も引き続き頼み込んでみますので、今日は一回帰らせてもらってもいいですか。」

「お前さ、そう言って早く帰りたいだけだろ。『このクソジジイ早く帰らせろよ』って思ってるんだろアァ!?」

そんな叫ばんでもこの距離なら十分に聞こえてますよ。机を蹴るなうるさいな。でもそらそうでしょ。こんなのとはよおさらばしたいよ。あぁー......だるい老害帰りたい、あつい後悔果てしない。


そんな光景を見兼ねてなのか、1人の女教師が近づいてくる。

「あの教頭先生?他の先生方もいますし、確か本日はこの後ご予定があるのでは?」

その言葉に教頭も周りを見て軽く頭を掻くと「もう今日は帰れ。」と荷物をまとめ俺の肩をどつき帰っていった。そして俺も帰るため出口に向かう。

「待ちなさい狐神。」

「......ありがとうございました。さようなら。」

「そうじゃない。ちょっと来い。」

そう言うと一足先に職員室から出ていった。俺も仕方ないので渋々その後ろをついていく。


そして着いたのは会議室。いくつかの椅子と机が並べられた小さな部屋だ。ここに来るのも久しぶりだが来た回数は多い。電気をつけカーテンを閉める。そして施され真ん中の椅子に腰かける。その対面に先生も座る。

「......復帰直後で散々な言われようだったな。すまない、別の用事があって戻ってきたらあの状況でな。大丈夫か?」

式之宮しきのみや先生はそう言うとそっとお茶を出してくれた。それが程よく温かく、体に染み込んでいくようだった。

「ジャスミンティーには抗不安作用や鎮静作用がある。それが体に染みたのなら君が傷ついてしまっていたという事だな。...すまないな、私にもっと権力や度胸があればな。...こんなのの何が教師だ。」

式之宮先生は俺が入学してすぐ起きた事件で唯一味方になってくれた先生だ。俺が謹慎1か月で済んだのもこの先生のおかげだと思う。感謝してもしたりない。

「先生が教師じゃないというなら、あのジジイは何になるんですか。あと、先生に足りないものは女子力とか庇護欲とか......すんません。」

「別に続きを言っても構わんのだぞ。因みに私は黒帯だ。」

そういうところだと思います、とは言えなかった。


結局その後「もう遅いから」と式之宮先生の車で送ってもらった。「これ若干アウトじゃない?」なんて思ったが「責任は私が持つ」と無駄にカッコいいセリフを言われた。

車中、明るい感じの曲が終わり切ない感じの曲が流れ始めた。少しだけそれを自分と重ねてしまった。高校生活に期待を寄せていた時、そしてそれが急にどん底に落ちた時。柄にも合わずセンチメンタルに浸かる。窓に頭をコツン、と預けその振動の度軽く窓にぶつかる。

「運転中は目を話せないから、こんなしんみりした音楽変えてもいいぞ。」

気を利かせてくれたのだろうか。それともそんな湿気た顔をしていただろうか。......それとも見てないから好きなだけ泣いてもいいということだろうか。

「...男が簡単に泣くわけにはいかないでしょ。」

「......。あんまり私はこの曲が好きじゃないんだ。」

「うっす。」

俺は最近流行りのJ-popに切り替えた。


家に帰り真っ暗になった部屋の中に入る。

「ただいま」

帰ってくる言葉もなく手探りに明かりのスイッチを探す。パチンと音を響かせ明るくなると飼っているカメがご飯を寄越せとバタバタしている。俺は一摘みの餌を放るとしばらくその様子を眺めていた。


翌日、今日もまた意味もない部活探しの旅に出かけた。まぁ結果は言わずもがな。最後の方はもう面倒だったので名前を先に言い自分から門前払いをくらいに行った。そして全部の部活を回る頃にはすっかり夜に。今日もまた教頭のお叱りかー、と憂鬱になっていると部屋から出てくる式之宮先生と会った。

「その顔だと今日もダメだったんだな。」

「もう全部の部活回ったんですけどね。教頭には明日からは委員会に行くと言うつもりです。」

特例として委員会と生徒会の生徒は部活に入らなくてもよいとしてある。勿論理由は掛け持ちがきついから。している生徒はいるらしいが相当な体力バカか穏やかな部と掛け持ちだろう。とはいってもこっちも入れてはくれないだろうが。

すると式之宮先生、少し考えた後何かを閃いたように「よし。」と言う。嫌な予感。

「ちょっとお腹痛いのでトイレに。」

「まぁまぁまぁ。」

「ちょっと話聞いてます?聞いてないですよね。」

「まぁまぁまぁ。」

思いっきり「生徒会」の文字が掲げてある。確か式之宮先生は生徒会の担当をしていたな。それはつまりそういうことなんだろうな。

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