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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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アイドル事変 7

白花の腕が俺の首を優しく絡む。アイドルともいつもの顔とも違うその顔に戸惑う。なんというか、妖艶な感じ。

「……やめ「何であなたはそんなにも頑ななの?多分ほとんどの男がこんなことすれば喜ぶのに、あなたは今も必死に抑えてる。女の子から誘って……恥をかかせるつもり?」

白花の蕩けるような声がすぐ耳元で響く。いつの間にか、キスが出来そうな程に近づいていた。あと俺がほんの少しでも近づけば。

「……何のつもりだ。」

「あなたの本心が知りたいの。前は半裸の私に跨ってくるくらい積極的だったのに。」

確かにそんなこともあったな。そしてそれが強姦未遂と言われるようになったな。確かにあの時の俺は少し……いやかなり疲れていたからな。でも俺以上にお前の方がやばかったろ。

「……舐められたものだな。俺が何されてもお前を襲わないような善人に見えたか?」

白花のリアクションを待たずに白花の服に手を入れる。そして背中を流すように触れていく。結ってある髪を解き、今度は俺の方から顔を近づける。

「家族の人には早めに寝るって伝えてあるわ。……意味わかるわよね?」

「あぁ……」


カーテンの外がやがて明るくなり始め、開けてみると眩しい日の出が山の向こうから顔を出し始めた。隣で静かに寝息を立てる彼女の顔まではもう少し距離がある。

「ったく、夜通しぶっ通しでとかふざけんなよ。」

まだ朝食まで時間があったので、もう一度キッチンに向かった。

本当に、演技ばっかり上手くなりやがって。しかも昨日から2着ぐらい服変えるとか、どんだけ冷や汗掻いてるんだよ。無理しやがって。……言うて俺も今回はかなり無理したか。

「……理性吹っ飛ぶわ、あんなの。」


朝食は味どころか匂いさえしなかった。きっと徹夜のせいだろう。そうに決まっている。それからは私服に着替えて準備が整うと早速目的地へと向かった。元々子どもの足でもつける場所だ。そこまで急がなくてはいいと思うが、やはり白花の両親の事を考えるとつい足が早まってしまう。

「因みに昨日お前は寝落ちしてたぞ。相当疲れてたんだな。直ぐにいびきかいて爆睡してたぞ。腹をボリボリかきながら『豚骨ラーメン、爆臭ニンニク特盛脂ギトギトで。』なんて言いながら。」

「そんなわけないでしょ。寝起きドッキリみたいな感じの番組でそんな姿晒したら放送事故よ。……でもたまにはこういう田舎も悪くないのかもね、案外。」

まぁ1つは言葉は悪いが本当なんだがな。やっぱり体は正直だな。

やがてここら辺では大きな川に着いた。去年の合宿で永嶺を助けた場所にちょっとに似ていたりもする。ここの川は澄んでいるから泳ぐことも出来る。まぁ今日は泳ぎに来たわけじゃないから特に関係ないが。

「……で、ここに何かあるわけ?」

「いや、別に何もない。」

「は?」

昔も何もなかった。何事も最初はいつだって何もないところから始まるのだから。ちっぽけな勇気と、少しの憧れさえあれば、どんな夢にだって挑める。

「もう一箇所行きたいところがある。」

「また何もないところ?」

「綺麗な花と可愛らしい石とささやかな「もういいわ。早く行きましょ。」」


そして車道から少し逸れた砂利道へ入る。後ろのアイドル様はこういう道に慣れていないのか、何度も転びそうになる。しかしここで手を伸ばしたところでどうせ握りはしないのだから、そこら辺に落ちてた杖にちょうどいい感じの木を拾い渡す。この先は下り坂になっているから今よりもさらに危ない。

「……」

バシッ。

「痛っ?!何で俺今叩かれたの?」

「え、叩いて欲しかったんじゃないの?」

「んなわけないだろ。お前が転んだらめんどくさいから杖代わりに使えってことだよ。わかったかババァ。」

「ハイハイ、で、ホントはどこを叩いて欲しかったの?何、あたしとあなたの関係じゃない。今更恥じらうことはないわよ。やっぱりお尻かしら。」

「お前楽しそうだな……。」

「そうね。案外こういう時がリラックスできていいわ。なんていうの?マイナスイオン?」

「出たよ、とりあえずこれを言っておけばなんとなくいい感じ第3位。」

「ちなみに1位と2......お父さん、どうしてここに?」

急いで振り返ると今来た道から白花の父親がゆっくりとこちらに向かってきた。そしてその後ろから白花の母親も出てきた。小石の両親からしたらそれはこの先にある木には何としても近づけたくはないだろう。

「小石。もう気分転換は済んだろう。帰るぞ。」

白花の反応など気にもせず、強引にその手を取る。白花は先程までとは打って変わって「ごめんなさい。」とか細い声で呟いた。

「待って下さ「そこから1歩でも動いてみろ。この辺りは人が来ないから目撃者すらいないぞ。」」

確かに、確かに俺は白花の彼氏でも友達でもない。むしろただの疫病神でしかない。ましてや家族間に入っていいわけない。これから俺がやろうとしてることも白花を傷つけるだけだ。だけど真実を知らないで生き続けるよりはマシだ。

「それでもっ……っ!?」

白花の手を掴もうと手を伸ばした。そして1歩を踏み出そうとした時、後ろから強く拘束された。

「なんでここにあんたもいんだよ。白花に命令されたわけじゃないだろ。」

「私は確かに白花小石のマネージャーですが、まだ彼女は未成年です。子供はまだ正しく判断が下せない時があります。そしてその両親から命令があればそちらに従いますよ。」

渾身の力を出すが、ビクともしない。流石は有名アイドルのマネージャーをしてるだけはある。護身術や拘束術はある程度身につけているというわけか。そういや前にもこんなことされて水飲まされたな。

やがて白花は父親に連れられ姿を消した。そして車のエンジン音が聞こえると、それも遠ざかっていく。

「なんで......なんで俺はこんなにも弱いんだよ。」

「......驚きました。前押さえつけていた時よりも強くなっていますね。あなたの努力が窺えます。」

結果の実らない努力なんて何の意味のない。

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