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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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一進一退 6

その後は普通に生地を探し歩いた。そしていい感じの物があるととりあえず俺に金を払わさせ、それら全て俺が学校に持って帰った。2人はホットケーキを食べて帰るらしいので別れた。

学校に戻ると案の定教室に誰の姿もなく、オレンジに染まった空が教室を映し出す。荷物を置き、散らかった部屋をざっと片付ける。自販機で買ったコーヒーをの飲みながら水平線に沈みゆく太陽を眺めていた。

「こんな時間まで働いてたのか、お疲れだな。」

振り返ると式之宮先生が2本のコーヒーを持って扉に寄りかかっている。「決まらんもんだな……」と小さな声も聞こえた。先生の顔を立てないとと思い必死に自分のを飲むと()せた。決まらんもんだな。

「……先生のそれ、1本貰っていいっすか。」

「すまないね。」

先生とこんなふうにして過ごすとは思わなかった。柄にもなく『この人と出会えて本当に良かった』と思ってしまう。

「君が文化祭に意欲的になってくれて嬉しいよ。」

「ひたすらこき使われてましたけどね。」

「あの時の君のままなら話しかけられることも、ましてやそれに答えることもなかったろう。もう昔の君ではないよ。……君を生徒会に入れてよかった。」

あー、これが女子高生なら胸踊る展開何だが相手が式之宮先生なのが惜しい。普通に尊敬で終わってしまう。いや、いいのか。うん。これでいいんだ。

「助けてくれたのが先生で良かったです。」

「私はただ説得しただけだ。前にも言ったろ、私にはなんの権力もない。本当に助けてくれたのは別の人だよ。」

え?誰だそれ全く知らんぞ。確かに俺を非難せず遠目に見ている人達が何割かいたことは知ってる。でもそこまで明らかにこちら側についてくれた人なんて式之宮先生や生徒会の人くらいしかいないんじゃないのか。

「残念だがその人物については私も知らないんだ。水面下で進んでた話でな。どうやらその人が狐神の退学を1か月の停学にしたらしい。」

一番先に頭に過ったのは瀬田会長だった。未だあの人の実力は全くわからない。権力的に考えても生徒のトップなのだから少しはあるだろう。でも例え瀬田会長にしてもいまいちその動機が思いつかない。式之宮先生はそういう性分だとしても、瀬田会長が好奇心のために多大なリスクをおかしてまで助けるとはあまり考えられない。

出来る限り考えてみたが、結局その答えに辿り着くことはなかった。


うちのクラスは申請通りにメイド喫茶をやることにしたが、少し問題が起きた。ホールは何とかなるが厨房で作るほうがまずいらしい。勿論名前の通りメイドを客に出すのだから必然として多くの男子が厨房に入る。けれどそもそも料理をできる人がクラスにほとんどいない。それでいてメニューばかり豊富にしてもうその材料も予約済み。さらにキャンセルはできないらしい。現アイドルがメイドとして奉仕するんだ、客が少ないわけがない。生半可な知識と経験でさばけるものではない。そんなわけでクラスは完全にブルーになってしまった。まぁクラスがどんな悲惨な末路を辿ろうと売り子で出払う俺は痛くも痒くもないが。さて、俺は当日着るマスコットをレンタルするため隣町のお店まで向かうとするか。

「ねぇ狐神君。」と後ろからいつもの嫌な声がする。こいつが俺に話す時、どうせ碌な事が起きない。

「前屋台で焼きそば作ってたけどさ。すごい手際良かったよね。もしかして普段から料理やってたりするのかな?」

ここで「家事全般は俺の担当だからな」などと言ってしまえば間違いなく嫌な方へ話は進む。多分俺がみんなに料理を教えるまではいかずとも、キッチンにいれられるのはほぼ確実。そんなのは嫌だ、俺は着ぐるみを着て校内を徘徊するのがお似合いだ。

「あの時は太陽にしこたま教えてもらったからな。普段は料理なんかしないしカップ麺で過ごすのが普通だ。」

けれど俺の言葉に何故かすごいしてやったり顔の白花。そして嬉しそうな顔で携帯を見せてくるとその理由は明白だった。

『太陽君、突然ごめんね!!いきなりでわかんないかもだけど狐神くんて料理できたりするのかな?』

『ん?おう。全然できるぞ。この前は確か魚介と野菜のテリーヌとか作ったって言ってたな。お菓子だとマカロンとかシュークリームとかも作ったことあるって言ってたかなー。』

「いつの間に連絡先交換してたんだな。」

「えへへ。嘘はよくないなぁ。これには何か罰が必要だと思うんだ。」

ハイハイカワイイカワイイ。にしても罰ですか。もう十分罰なら受けてると思うが今回は厨房にでも入れとか教えろとかかな。でも俺に指示されるとかまるで俺の手足になったみたいじゃないか。今まで蔑んでいた奴の下で言いなりか。それで逆らったら人員が減り一人の負担が増えギクシャク……そして仲間割れに……ええじゃないか。

「とりあえずメニューはこんな感じだって。」

そう言って渡されたメニューを眺めてみる。なるほど、これがもし全部作れるとしたら本格的なお店にも引けを取らないだろう。都会に何店舗か出せるレベルだ。

「とりあえずこの虹色ロールアイスとガロンオブタピオカ、五重のパンケーキあたりは全部却下な。カスみたいな意見採用しやがって。」

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