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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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それぞれのバレンタイン 13

「つまらん話をしたな。まぁただの爺の戯言だ。そう気に留めてくれるな。」

そう言って伽藍堂はいつもの笑顔で戻っていった。しかしその言葉を鵜呑みに出来るわけもなく、きっとこれから伽藍堂はど接する時はどうしても不安を感じざるを得なくなると考えた。

「やはり幾つも障害を超えた者か……。」


バレンタインの放課後は気のせいか、男子生徒がいつもより多く残っている気がした。そんな中、「早く帰らねばバレンタイン限定ボイスを録音せねばっ!!」と足早に帰っていった吉永はある意味勝者だった。

そんな中、部活に向かおうとする京を止めてあの始業式の事を話した。伽藍堂の動機については伏せたが、やがて納得したように「そう……なんだ」の呟いた。確かに乱獅子が京を助けたことは事実だが、それは結果としてそうなっただけで本当に助ける気などなかった。それを俺は「助けたのは乱獅子だよ」と伝えてしまった。

「本当にすまん。いくらめんどくさかったとは言えちゃんと確認すべきだった。」

「!!そんな......謝らないで。碌に動かなかった私が......全部悪いんだよ。......ありがとね。」

.......そうだな。そもそも何で俺がここまで京の為に動かなくてはいけないんだ。京の事を手伝ってやる義理なんてないし。

「.......夢、見すぎって話だよね。私少女漫画とか好きで......憧れちゃったのかな。......多分本気で好きじゃなかったんだよね。」

「部活の方はどうするんだ?決定的な動機が無くなったわけだが。」

夢の王子様に会うため意を決して入った部活だったが、その王子様が夢だと気づいたんだ。元々だいぶ無理をして入った部活だ。続ける必要はないと思うが。

「......続ける。最近、少し.......声が出るようになったから。」

「そっか。」

別に京がこれから部活で何を目指して頑張ろうが知ったこっちゃないから、特に止める理由もない。俺に面倒が回ってさえ来なければどうでもいい。「じゃあね」と笑って走りだした京は初めて会った時とは見違えて見えた。

「なぁ、狐神、今京さんと何話してたんだ?返答次第ではタダじゃおかねぇ......」

京が去り、いきなり両肩に腕が回され、見ると車谷と旗本が真剣な面持ちで俺を睨んでいた。そして前から3馬鹿リーダーと言われている天羽がゆっくりとこちらに向かってくる。合宿の時の下らないことがあったから、どうせ大したことではないだろうと思い、また、今京と話していたからそのことかと理解した。

「京が誰かにバレンタインのお菓子をあげるって噂は知ってるか?」

「いや、初めて聞いた。」

「でだ。そんな京は今日全くと言っていいほどそのような行動を起こさなかった。だがしかぁーし!!」

「うるさい。」

「俺の言いてぇこと分かるよなぁ?」

「京からお菓子欲しかった、とか?」

「あぁそうだ。.......いや違う。」

どうせあれだろ。俺と京の先ほどの会話を勘違いしてんだろ。確かにあいつの最後の笑顔は一般男子を誤解させるぐらいの感じはあるのかもしれない。とんだいい迷惑だ。笑うな。

「確かにさっき京とはあいつの好きな人について話していた。でもそれはあいつのただの勘違いで、あいつに今好きな人はいない。間違っても俺なんかじゃない。」

それを言うと「あ゛ぁい゛!!」と理不尽にビンタされた。どうして。

「んなもん分かりきってるわ!!でもよかった、好きな人はいねぇのか。」

つい最近似たようなセリフ聞いたけどこいつだとなんか腹立つな。

「だがしかし!!たとえ好意はなくても、普通に京みたいな超かわいい子と話せるお前が憎い!!なんで......俺何も悪い事してないのに。可愛い子と話したい......そんな妄想さえ『いや、どう考えてもありえないな』と現実に立ち返ってしまうんだ。......こんな気持ちがお前に分かるか!?」

分かるわけないだろ。


じゃあ俺の気持ちが分かるのか?

下駄箱に入っていた『好きです』と書かれた紙と一緒にラッピングされた箱みたいなが入っていた。それを手に取り床に落とすと、さらに上から踏みつぶす。しかしその箱は頑丈にできており、ラッピングだけが破れた。

「お前らのおかげで人の視線には敏感になってな。......こんなんで俺が喜ぶとでも思ってんのか?誰だっけ?......本坊だ。」

「ひどいよ......折角時間かけて君の喜ぶ顔が見たかった「死ねブス。」」

味覚は死んでいるがその分嗅覚はこの9カ月くらいで少しは敏感になった気がする。これは前にも嗅いだことがある。死んだ動物の腐敗した匂いだ。それにラッピングが破れて分かったが、これは前に大鵠を倒した後あたりにこいつらに奪われた俺の弁当箱だ。もう新しいものを買ってしまったから今更返されてもいらない。まぁそんなことはいい。

「お前の手に持っているものは一体何だ?」

本坊の手には何やら手紙が握られていた。それは2枚あり、遠目からはあまりわからないが、柄が違うことから多分本坊のものじゃない。

「あんたこそ死ねよ。性根まで腐ってるカス野郎が。これ?これはそれを入れる前に入っていたものよ。こっちはちゃんとしたお菓子だったわよ。それについていた手紙。」


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