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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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それぞれのバレンタイン 5

バレンタインまであと2日。

「どうしてくれんのよ!?他の人には聞かれてないだろうけど、私の印象悪くなったじゃない!!」

「痛った!?痛い痛い痛い!!ごめんなさい!つい口が滑っちゃって。おかげで助かったっちゃ助かったが。」

朝っぱらから白花に呼ばれて誰もいない旧校舎でいつものことが始まる。しかし昨日のこともあり、教室に入るなりすぐに始まった。お気に入りのお店のコーヒーを片手に、顔に付けられた半分くらいの洗濯バサミを一気に取ると、俺はあまりの痛さにそこらへんを競歩で駆け回る。そして俺の鞄を乗せた机の小指をぶつけ態勢を崩し倒れる。「うぐぇ」と倒れた衝撃で残り半分の洗濯ばさみが弾け飛ぶ。鞄の中身がそこらじゅうに散乱する。白花は冷たく「何してんの?」と言う。何してんだろうな。

あの後乱獅子は絶望した顔で来た道を帰って行った。その後ろ姿は子猫のように小さく見えた。あの様子だとしばらくは立ち直れないだろう。乱獅子を恐れた周りの生徒はかなりの距離を取っていた為、傍から見たら白花を見て逃げたという感じだろうか。小熊の口ぶりからも乱獅子が白花を好きなことは周知の事実らしい。そのため『好きな人の前で暴力を振るう姿は見せたくない』なんて勝手に誤解してくれるから平気だろうが。

吹き飛ばされた明石の方も大きな怪我はなかった。「受け身は死ぬほどやらされたからな!」といつも通りに戻った大声が響いた。師弟関係についてと訊いたが、大体は予想通りだった。しかしその詳しい理由までは「大したことではないぞ!」と言われた。

にしても『報酬』という言葉は気になった。白花は全く知らない様子だったし、本人に確認出来ればそれが一番手っ取り早いのだが。しかし前に白花から言われた言葉が頭を過ぎった。

『無実を証明する為に動くことをよく思わない生徒はいる。それは教職員とて例外じゃない。』

例えば多額の金を積んで報酬と称し、俺を退学させようなんて者が出てきた可能性は否定しきれない。


「とりあえず、お前を助けたヒーローは多分2年7組の乱獅子字将って人だと思う。」

そう言って乱獅子の写真を京に見せる。

「……あ、ありがと……ね。」

男性ホルモンが強すぎるあいつの写真を見て絶対『うわぁ』みたいな顔をすると思っていたが、京は至って真面目な顔で「乱獅子……さん」と呟いた。苦手意識は最初にあった頃と比べればかなりマシになったと思う。しかしどうだろう、京と乱獅子は付き合ったりするのだろうか。乱獅子は白花に夢中だが前に太陽とこういう話をされた際、「好きなモデルとか女優とかと実際本気で好きになる相手って結構違うと思うんだよ。こう言っちゃ悪いが、心のどっかで諦めてるんだろうな。『別世界の人間だ』って。」なんて話をされた。ぶっちゃけ意味はよく分からないが、恋愛的な好きと、趣味趣向の好きと言うことだろうか。

「ともかく、お前を助けたのは乱獅子だ。後はお前の努力次第ってとこだな。じゃ。」

そう言って別れを告げたのに、何やら京は俺の服の袖を弱い力で握る。気付かないふりして振り払っても良かったんだが、理由も訊かないのは失礼か。

「……その……ありがと……」

「はいはい。」


「確か3組なはずだよな?」

空いた時間3組を訪れると、クラスメイトと話している、と言うよりかは話しかけている明石の姿が目に入った。相手も面倒くさそうな顔はしているが、特に嫌という感じではなかった。とりあえず廊下から呼んでみたがその声は届かず、仕方なく教室にお邪魔させてもらった。気づいた人間からは睨まれる位のことはされたが、特にそれ以上の事はなく、明石のとこまで無事たどり着いた。

「明石、少しだけ時間もらってもいいか?」

「おお!!まさか狐神から僕の所へ来てくれるとは!!全然構わない!!さぁ話したまえ!!」

俺としては教室で話すことに抵抗を覚えたので、「ちょっとこっち」といって教室から連れ出した。昨日助けてくれた人に多少強引な態度は取りたくなかったが、あの場にいては視線が気になってまともに話をできる自信がない。

「改めて、昨日は助かった。ありがとう。」

「はは!!気にするな!!それよりも体の方は本当に大丈夫か?少し伽藍堂から話を聞いてな。しかしなんでまたあんなことになっていたんだ?何か師匠が気に障ることをしてしまったか!?それならば俺が師匠の代わりに頭を下げる!!」

その場でいきなり土下座を始めようとするから全力で止めた。明石は頭を下げる必要は本当にない。

その後何があったのかをまとめて言うと「それはそうなるな!!」と言われた。乱獅子の白花への愛は本物で尚且つめちゃくちゃ重いらしく、むしろ今までよく無事だったと褒めてもらえたほどだ。しかしそれと一緒に忠告も受けた。

「師匠を止めるためにも早く冤罪を解決するしかないな!!言ってくれれば可能な限り手は貸すぞ!!」

次の授業も始まってしまうため、ここで明石とは別れた。明石には事情も説明していないし、頭がキレると言う訳でもないから分からないかもしれないが、それを解決することは今までのどんなものよりも難しいことだ。

因みに今日一で驚いたことは、乱獅子がアイドル研究会に所属していることだった。一回あそこいったことあったけど会わなくて心底良かった。

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