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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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それぞれのバレンタイン 4

なんやかんや話しているうちに、2年7組に着いた。

「あら、見ないと思ったら後輩連れ回してたの。悪いわね、うちの者が。」

「いや、むしろ自分が小熊先輩にお願いことをしている立場ですので。」

前に図書館であった時の穂積は結構強気な印象があったが、今はかなり柔らかい印象を受けた。穂積も大鵠の支配から解放されて慣れてきたのだろう。あとは小熊などリーダーが冷たい視線を浴びることがなくなったこともあるか。ともかく知り合いから俺を嫌う人が減ってよかった。

「紆余曲折あったがあそこに座すのが乱獅子(らんじし)字将(あざまさ)だ。とは言え君がこの教室に入り初めての人間と話すのは些か困難であろう。暫し待ちたまえ。」

「その必要はない。」

「「「!!!」」」

乱獅子と呼ばれていた男は先ほどまで窓際の席で座っていたにも関わらず、今小熊のすぐ後ろに立っていた。髪型は俗に言うツーブロのような髪型だが、真ん中の髪の毛は長く、後ろでまとめられている。少し怖いと聞いていたが想像以上だ。何よりも目を引くのはやはりその体格。身長も勿論とても高く185cmくらいあるのではないのだろうか。それに体もいかつすぎる。腕なんか俺の太ももくらいあり、シャツ越しにもその筋肉量が凄まじいことが容易に見て取れる。多分だけど、禦王殘や、伽藍堂、明石とかよりも強いんじゃないか?というかこいつの名前は生徒会長選挙の時に言った気がする。そうだ、後になって調べたんだ。

乱獅子字将。大鵠が扱えきれなかった、極一部の異端児らの一人。身体能力が異常なまでに高く、既に警察学校の訓練の指導を頼まれていると聞く。生まれた国はここではないらしく、紛争地帯で過ごしていたところを日本人に拾われ今ここにいると噂されている。当の本人は噂など全く気にするタイプではないので真意は確かではない。

「これは珍しいものを見た。屈強な人間と白花小石以外の人間に興味を示すなんて。」

白花?

「あぁ、こいつの服から僅かにだが小石ちゃんの香りがする。しかもそれなりに強い。さては貴様、今朝辺りにでも小石ちゃんと接触したな。」

うそだろ、家帰ったら手洗いして2時間ぐらいつけ置きしてから洗濯機かけよ。それで芳香剤は通常の2倍は入れよう。てか今こいつ白花のこと小石ちゃんっつったな。

「俺には許せない事が2つある。1つは才能ある者がそれを発揮しないこと。そしてもう1つが……。」

目の前の化け物から放たれる殺気に気付くのが一瞬遅れた。


「大切な人を傷つけられる事だ。……どうして庇う?焔。」

明石に突き飛ばされ地べたに転がった俺は一瞬何が起きたか分からなかった。俺が今立っていたところを見ると、そこには小熊と穂積が変わらず立っており、向かいの壁には明石が倒れていた。

しかし明石はすぐに立ち上がると、今まで見たことの無いような真面目な顔で乱獅子と対峙していた。その腕は痛みからだろうか、小刻みに震えていた。

「一度は共に戦った仲間ですから。後は師匠が人を傷つける

ところを見たくないからですよ。」

師匠という言葉の理解は難しくなかった。明石の強さは何度か見せてもらったから知っている。恐らくは学年でもかなりのものだ。それを教えたのが恐らくは乱獅子ということだろう。成り行きまでは勿論知らないが。

「なるほどな。……ならば守ってみせろ!」

「逃げろ!!狐神!!」

乱獅子のあまりの殺気に体が硬直していると、俺の目の前で凄まじい速さの拳と、それを受け止める腕が伸びる。「パァン!!」と炸裂音が響くと、固まっていた体がビクつき、硬直が解けた。何とか走り出したが2発目で明石が2年7組に吹き飛ばされたのを後ろで見えた。

「今までにも何度も貴様を叩き潰したかった。しかし小石ちゃんが『復讐なんて望まない』と言ったから何もしなかった。俺の個人的な恨みで小石ちゃんの願いを壊す訳にはいかない。……だがぁ!!」

デカい図体の割にその速度は凄まじく、俺の3歩分ぐらいの距離を1歩で潰してくる。後ろから来る殺気は本当に獅子のように感じた。

「俺が小石ちゃんに嫌われるだけで今後貴様のような悪漢が近づかなくなるのなら!!あの報酬を手に入れられるのなら!!今俺の目の前に現れた貴様を潰してくれる!!」

あの報酬?なんだそれ?意味わかんない。ていうかもうダメだ死んだわ。

事情があってもルールはルール。規則は守らなくてはいけない。

曲がり角を曲がると上機嫌に見える白花が歩いていた。しかしこちらは出せる全力で走っている。今更急に止まることなどできない。誠に不本意だが、白花を押し倒すような形になってしまった。

「あ、……えっと、ごめんなさい。」

何とか白花の後頭部は腕を回して衝撃から守れたが、そのせいでお互いの顔の距離がとても近い。白花はゆっくり閉じた瞼を開けると一瞬殺意マックスの顔をし、すぐにいつもの顔に戻る。

「こっちこそごめんね。ボーッとしちゃってて。すごい急いでる感じだったけどどうしたの?」

「いや、今化け物に襲われてて……」

言いながら思った。この状況どう考えてもまずいのではないか。乱獅子の大好きな白花を過去に襲ったことになっており、そして今現在事故とはいえ白花に跨っている。傍から見れば襲っているとも見えなくもない。二度と見たくない景色をまた見てしまった。不幸中の幸いは、今の彼女は泣いていないことか。

しかしすぐ後ろの気配は襲いかかってくる感じはない。人の気配には敏感な白花もすぐ乱獅子の存在に気づき、首を傾け俺の後ろの人物を見る。

「あ……タオルくれた先輩。お久しぶりです!あの時はありがとうございました!!」

「……タオルってあのおっさんの加齢臭を濃縮させたような臭くて耐えられないようなやつか?怖くて気持ち悪くて虫唾が走ったっていう……あ。」


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