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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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それぞれのバレンタイン 3

「嗚呼、そのような事もあったな。それよりも体の方は平気なのか?まだ完全に癒えてはないのであろう?」

「ん。もうほぼほぼ平気。心配どうも。じゃあ話はそれだけなんで。」

特にそれ以上話すこともなかったので、「じゃ」と短く言うとそこを去る。

「まぁそうくでない。確かに儂はあの場にはおったが、その女子おなごは助けてはおらんぞ。」

「?」

勝手に奴らが逃げ出したんじゃ、儂すごいじゃろ?みたいな?

「考えればわかるであろう。入学式の直後にそのような事があってすぐに保健室に運べると思うか?」

「あー、保健室の場所を知らないか。......いやそんなのそこらへんの人に訊けばいいんじゃないの?少なくても部活勧誘をしてる上級生はたくさんいたんだし。」

「もしその女子を運んでいるところを見られたら若い衆は噂の一つや二つ立てたくなるものであろう。現にそれが儂や狐神殿には届いてなく、恐らくは京殿にも届いてない。それは考えにくかろう?」

つまりもし伽藍堂が気を失った京を背負い、上級生に保健室の場所を訊き、そこまで連れてったとなれば絶対噂の一つや二つは立つはず、と。確かにそんな話は聞いたことがない。となると別の誰かが京を助けた、ということになるのか。京の話を聞いた限りだと、伽藍堂が声を掛け、京が気を失い、その直後にその誰かさんが助けたという感じか。......なんか違和感がある気もするがまぁいいや。

「伽藍堂はその人が誰か知ってる?名前は分からんでも性別とか特徴とか。」

「相済まない、名は訪ねてないのだ。だが校章は今の2年のものだったな。そして性別は男だ。」

2年の男子で同学年、もしくは先輩を複数人相手にできる人物。そう多くはなさそうだが、それだけで特定できるだろうか。多分伽藍堂を連れて2年生のクラスを回れば分かるだろうが、それだと時間かかりそうだな。……こんなめんどくさいことになるなら「俺にできることなら協力する」なんて言わなきゃよかったな。

「因みに体の動きとかから空手部とかサッカー部とか分かったりする?それが分かればかなり楽なんだけど。」

そう訊くと一瞬何か考えたような顔をしたが、すぐに結論に至ったらしく、首を横に振った。

「その者は決して力で捩じ伏せたのではない。近づいた。それだけだった。すると彼奴きゃつらはすぐに去っていった。」

そこだけ聞いて真っ先に浮かんだのは大鵠だった。あの人なら同学年なら当然、先輩だって黙らせられるだろう。でもそれなら伽藍堂が分からないはずがない。2年のリーダーだった者というのも少し考えづらい。同じ理由で伽藍堂が気づかないとは思えない。大鵠やリーダーでなく、それでいて同学年もしくは先輩を黙らすことのできる人物となると探すのはそう手間じゃなさそうだな。


部活にも所属せず、元生徒会役員にも2年生がいなかったため、俺の知っている2年の先輩というのは必然的に限られてくる。......そういえば現段階で部活にも生徒会役員にも所属していない俺の立場はどうなっているのだろうか。まぁ3月を迎えたら新たな生徒会に入るのだからあと1カ月くらいなら、という判断だろうか。

そして小熊を呼び出した。

「そんなことでこの先輩である僕を招集したのか。正直に言って微塵も好奇心そそられないな。たかが一人の後輩少女の恋路など僕の知ったことではない。全く、君に呼ばれたから今度はどんな謂れなき罪を被ったのかと思ってこの胸を弾ませてきたというのに。」

そういって自らの胸を触る。こちらをちらちら見ながら。恐らく俺の恥ずかしがる姿を見て楽しみたいんだろう。せめてそれなりの物を持っていればここまで虚しくならないのだが。

「逆セクハラで訴えますよ。そんなことと言うくらいならその2年生の名前くらい教えて下さい。できれば小熊先輩の口からその2年生の情報を教えていただきたかったんですけど、けち臭い先輩にそこまで求めるのは諦めます。もう先輩には何一つとして期待しません。お時間をさいて申し訳ありません。さようなら。」

「そ、そこまで言わなくてもいいんじゃないかな?先輩ちょっと傷つくなぁ。その2年生について話せばいいんだよね?だからもう少しだけ先輩の好感度や信頼度を上げてくれてもいんじゃないかな?」

どの面下げてそんなこと言えるのか。ほんとにこの人は今が楽しければなんでもいいのだろうか。この前の件もまるで反省していないし。

「別に小熊先輩が勝手に婚約者を名乗り、その上同学年女子を全裸にして傅かせようとしたと流布してもいいんですよ?」

「ぐぬぬ、それを出されると……まぁ思い当たる節はある。しかし彼は決して人を助けるような感じではないと思うんだけどな。確かに実力は確かだ。身体能力は恐らくこの学校で一番だ。加えて少し怖い。けれどリーダーには選ばれなかった。理由は単純。人の下につく気はない。」


口で説明するよりも実際に見てもらった方が早い、とのことで俺は小熊に連れられ、2年7組に連れてこられた。今回の件とは全く関係ないが、2年生の教室は大鵠退学後に比べてだいぶ活気を取り戻しているようだった。各クラスのリーダーも小熊の様子を見るからにもう過去のものとなっていると感じた。とはいえやはり俺が2年生の教室付近をウロチョロしてると自然に視線が集まってしまう。

「いやはや、他学年の生徒の視線まで独占とは君も罪なものだ。」

「実際俺の今の学校の立場ってかなり不安定ですからね。触らぬ神に祟りなしってやつですよ。」

「狐の神だけに、とうわけか。......いいか、社会に出たらどんなに上の者が低次元な戯言を言おうと笑わなければならない。僕はそれを君に身をもって教えたんだ。さぁ、感謝の意を示せ。」

「言い訳だけは一級品ですね。国会の答弁とか向いてますよ。」

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