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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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それぞれのバレンタイン 2

「そう言えば京さんが誰かにバレンタインあげるって天羽たちが噂してたわよ。誰にあげるのかしらね。クラスの男子はみんなそれはそれは期待してたわよ。」

「へー。」


「で、誰にあげるんだ?」

「!!??」

あーあー折角のコーヒーが勿体ない。本当にこいつのあがり症というかはかなり深刻だな。

昨日、絹綿から京の名前が出た時に、『そう言えば京とまたあのお店に行くって約束をすっかり忘れてたな』と思い、今日も特に用事がなかったので京を誘おうとした。しかしあまりクラスでそういうところを見られるのはお互い良くないので、俺のアドレスをとりあえず渡しておいた。すると次の休み時間には京から連絡があり、誘うことができた。

そんな訳で今は前来た喫茶店に来ている。前ここに来たときは女装していたが、今回は勿論いつもの格好で来ている。これは傍から見たらなんか誤解生まれそうだな。高校生でレンタル彼女ってどうなんだろ。やばいのかな?一応個室空いてたからそっちにしたけど。

「まぁ京に好きな奴がいたのはだいぶ前から知ってはいたが、誰かまでは教えてもらったことないからな。無理にとは言わないが。」

確かこいつがチア部に入った理由もそこらへんだったよな。となると運動部の誰かだろうな。でもそれだけのヒントで誰かまでは特定できるわけもない。運動部の男子ってだけでも何百人といるからな。

「み......」

「み?」

「美桜ちゃんに......その......お見舞いも兼ねて......」

......。

「意中の相手は水仙だったか。これは分かるわけないわ。」

「違っ!?友チョコだよ!!」

分かってるよそんなこと。からかったのは悪かったがそんなに大きな声を出さないでくれ。あと近い。

京もそれにすぐ気づき、急いで距離を取る。顔は言うまでもないが真っ赤になっており茹で上がる直前になってしまっている。手で必死に自分を仰いでいるが、そういうものなのだろうか。

「でもちゃんと好きな相手もいるんだろう?そいつには想いを伝えなくていいのか?お菓子メーカーに踊らされるのは何となく嫌だが、バレンタインなんてもってこいのタイミングだろ。」

しかしそこで京は暗い顔をする。大方自分の自信のなさからくるものだろう。『自分なんかがお菓子をあげても迷惑がられないだろうか?』『美味しく作れるだろうか?』『きちんと渡せるだろうか?』。そのくらいあんまり恋愛経験のない俺でも何となく分かる。

「......こういうのが初めてなのかどうかは知らんが、何か俺にできることがあれば言ってくれ。こういった雑談だけでも少しはそのあがり症みたいなのも改善すんだろ。もし他に仲いい男子がいれば俺なんかよりもそっちに行った方がいいと思うけどな。絶対コミュ力も俺以上にあるだろうし、恋愛に関してもより的確なアドバイスもらえるだろうしな。」

「あのね.......」

はい。

「私の好きな人って......誰か分からないんだ。」

「......頭大丈夫かお前?」


それはまだ桜が綺麗に咲き誇る日の事。入学式を終え、様々な部活が我が部の部員を増やそうと体育館から出てきた生徒たちを狙い勧誘の渦が巻く。それはまるで魚の卸売り市場のようなにぎやかさで私は苦手だった。トイレに行って喧騒が止むまでいようと思っていたところに建物と建物の間に細い路地があるのを見つけた。そこには人はおらず、方向的に駅へ続いていると思った私はその道を進んだ。

「勧誘とかダルすぎんだろマジで。」

「でもお前んとこ新人勧誘しないと部員少なすぎてまたお前に雑務回ってくんぞ。」

「ざっけんなよ。ぜってーやだわそんなん。いーよなー、お前らんとこは多分何もしなくても部員来んだろ?」

「おうよ。だからここで適当に時間さえ潰してりゃあ......おい、何だあの女。」

そこは素行の悪い生徒のたまり場でした。入学早々ピンチです。私は女子中学校だったため、本当に男性が怖くて仕方ないのです。その克服も兼ねて共学に来ようと思いましたが、いきなりの男子がこれはハードルが高過ぎました。

「あれ?もしかして新入生か?何だよ、めちゃくちゃ可愛いじゃんかおい。ちょっとこっち来なよ。そんな怖がんなくても平気だよ。ほーら。」

強引に手を掴まれた瞬間、私はあまりの恐怖に意識を保つことができませんでした。

しかし途切れる意識の中、優しい声が聞こえたんです。

「ほうほう、斯様な場所でも新入生の(いざな)っておろうとは。しかしいきなり女子おなごの手を掴む、か。それでは異性に好かれんぞ。」


「ちょっとまって。」


翌日、学校にて。

前みたく不和や本坊が俺の席を牛耳ることは無くなった。ただ遠くから睨まれているのは分かるが、もう直接俺に何かをするということは軽率にはできないだろう。いやー、実に穏やかなものだ。にしてもバレンタインまであと3日もあるのに明らかにクラスの男子がそわそわしているのが俺にもわかる。恐らく京もの話もあってその忙しなさは倍増だな。今なら絹綿の気持ちがよくわかる。

ほんとうざったい......。

「あ、あのさ。狐神君。」

何かしらの形で接触してくるとは思っていたが、分かってはいてもやはり嫌なものだ。

「なんか用か、白花。」

「一時間目の数学って宿題あったと思うんだけど......その、家にプリント忘れちゃって。ちょっとだけ見せてはもらえませんか?」

そんなあからさまな上目遣いされてもな。

「他の連中から見せてもらえよ。」

「えっと......その、狐神君の字ってさ、すごく綺麗に書かれてて、丁寧に書かれてて。何ていうか......好きだなー、って。......あっ!?今のはえっとそういう意味じゃなくて!!な、なに言ってんだろうね、私。」

「ほんと何言ってんの?」

結局白花が折れることはなく、渋々プリントを貸した。しかしこれで白花を追っ払うことはできず、隣の梶山の机を勝手に借りると、そのまま俺の机にくっ付けてきた。逃げようかとも考えたが、朝っぱらから便所に籠るのも嫌だし、朝練をしている部活も多くあるから安全地がない。ここでこいつの話を聞かされるほうがマシか。

「にしてもだいぶ疲れてんのな。いつもよりブスだぞ。」

「.......後で覚えときなさいよ。痴漢の件、ようやく学校側に認めさせられたのね。おめでとう。」

会話の中身とは似合わない笑顔でプリントに文字を書いていく。

「そんなことをわざわざ言うために、きちんと宿題を忘れるとは驚いた。」

白花の活動は勿論学校も認知しており、多少の融通は利く。例えば宿題を忘れても「昨日はテレビの出演で時間がなかった。申し訳ない」と言えばそれで済む。しかしそんな行動を見せればそれを良いと思わない生徒もいる。それを防ぐためにも、白花はどんなに忙しくても出された課題はきちんとやってくる。だから今日の白花の発言は実は少し驚いた。

「学校の生徒もさぞ困惑してるでしょうね。4つのうち半分の2つは冤罪だった。このままだとあんたが『冤罪だ』と言っていた4月、5月、そして選挙の演説の時の言葉が真実味を帯びてくる。けれど残す冤罪には私が大きく関与してる。あんたが解決した2つのものとはレベルが違う。どうやって解決するか見物ね。」

「ネットに質問でも投げてみるか。『冤罪』『証明』『強敵』」

実際どう解決したものかな。生半可な証拠じゃびくともしない。確固たる、言い訳のできないような証拠を集めてもまだまだ足りない。それを確実に信用できて、かつ影響力を持つ第三者に公開してもらっても足りるかどうか。他に方法がないこともないが……。それにもし冤罪を証明できたとして、そしたらこいつはどうするのだろう。こいつが何十年と必死に積み上げてきたものを、俺は間違いなく壊す。ある意味それは『白花小石』を殺すことにも繋がる。

「あの時に殺しておけばよかったのかな。」

「?」

「はよ書け。」

「うるさいわよ。……でも気をつけなさいよ。あんたが無実を証明しようと動くことをよく思わない生徒はたくさんいるわ。教職員関係だって例外じゃない。あんたは真っ先に私を倒したいでしょうけど、それを阻む連中に負けないでいられるかしらね。」

ラスボスかな?


そうして昼休み。

「......すっかり忘れてたけど、絶対にあれ伽藍堂じゃん。」

一応あの後の話は聞いたが、よくある展開で次に目を覚ましたら学校の保健室にいたらしい。で、その王子さまというかじじいの姿はもうなく、京はその人に運命感じちゃったという感じ。京も結構なロマンチスト何だななんか思いつつ、俺は事実を伝えようか迷った。

「なんで運動部だと思ったんだ?」

「あそこには6、7人いて......全部倒しちゃったのなら......運動部の人かなって。」

「そういやあの人何部なんだろう。聞いたことこないや。柔道と合気道は経験ありそうだけど。」

「え!?狐神君その人知ってるの!?」

いや、もしかしたら同じような喋り口調の人がいるかもしれないから......。

「あとで確認してみるわ。」


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