それぞれのバレンタイン
翌日の学校はてんやわんやだった。俺の冤罪が晴れたこともそうだが、どうやら淀川は薬物にも手を出していたらしい。その結果、少年院に行くことはなく、精神科の方へ送られた。その為恐らく学校は退学という形になるのだろう。そしてお偉いさん方は校長が変わってすぐこのような事態になり、新たな校長を立てるかこのまま行くか話し合っているところだろう。かく言う俺は怪我が酷いため、嫌々病院に連れてこられた。入院すれば3日程で治ると言われたが、絶対入院なんてしたら悪化するので何とかお願いして通院にしてもらった。
水仙は必要ないと思うが、体に異常がないか調べるため、数日入院することになった。俺はどうしても気になることがあったため、許可をもらいお見舞いの品を持って水仙のところを訪れた。
「意識が途切れる直前に『ごめんね、狐神君』て言ったの覚えてるか?」
「うん。狐神君には迷惑かけちゃうからごめんねって。誰が駆けつけてきてくれたのかまでは分からなかったけど、それが狐神君に伝わればいいなって。」
このアマ、その一言でどんだけ俺が迷惑かかったと思ってんだよ......。とはいえそういう気持ちで言ってくれた言葉なら責めることなんてできない。
でも一つだけ言わなきゃ治まらないのでことがある。
「どんだけ謝れば気にするんだよ。はっきり言って重い。もう気にしてないから普通に接してくれた方が助かる。」
こうはっきり言えば流石に今回のようなことはもうしないだろう。……しないよな?
「……うん、分かった。これからは友達として普通に接するね。」
「そうしてくれ。」
「いやー、頑張ってんのな。おじさん嬉しいよ。あ、コーヒーおかわり貰えます?」
「おじいちゃん、まだコーヒー残ってるでしょ。あ、すみません。食後のデザート持ってきてもらっていいですか?」
「おばあちゃん、食後のデザートはさっき食べたでしょ?」
「食ってねぇよ。」
まだ刺激物のある物を食べると口が痛むので、パンケーキを頼んだ。最近できたというまだあまり有名でないこの店の名物らしく、フワッフワの生地にとても香ばしい蜂蜜がよく絡む。めちゃくちゃ美味しそうなもの食べるとつい笑っちゃうよね。
「美味すぎる……」
「気持ち悪い顔。」
「……なんでこいつがここにいんだよ、太陽。」
「あぁ、すまん。実はお前と約束した直後に牟田から連絡もらってな。どうせ顔も知ってるんだし一緒に遊ぼうみたいな感じ。」
なるほど、どおりで2人なのにわざわざ順番待ちのテーブル席を選んだのか分かった。それならそうと太陽も言ってくれればいいのに。なんかこれじゃあ俺がお邪魔虫みたいじゃないか。というか早めに退散しないと翌日あたり牟田になんて言われるか。……しれっと太陽の隣座ってるし。いやこっちに来られても嫌だけど。じゃあいいのか。
「失礼するわね。」
「絹綿までいんのかよ……」
なんで学校以外でもクラスメイトと顔合わせなきゃいけないんだよ。しかも絹綿とかマジで話題ないぞ。接点カンニングの時以外なんかあったっけ?あの時は2人は別に仲が良くなかったけれど、今では普通に遊ぶ関係なのか。てかなんでお前までそっちに座ってんだよ。圧迫面接か?まぁこっちに座られても困るからいいけど。
とはいえ流石にそれだと話しずらいので男女で相対するように座った。にしてもどうすんだよこのメンバー。お前責任取って話題提供しろよ、太陽。
「いい感じのお店だな。」
「そうだね。」
「な。」
「へぇ。」
……地獄かよ。
しかしここで「涼原君に訊きたいんだけど」と予想外に絹綿から話題が来た。
「あなたから見て彼はどういう人間かしら。」
何となく訊きたいことは分かった。2つの冤罪が証明されて、俺の事をみんな疑心暗鬼になってるんだ。「本当に全て冤罪だったのか?」「いやでも残す2つは本当なんじゃないか?」勿論答えは前者だが、半々ではまだこんなところか。寧ろここまで来ただけ我ながら頑張ったな。
質問された太陽はこちらに視線を向けるが、俺はパンケーキを食べたい。故に視線はパンケーキ一点。
……どうせ答えなんてしれてる。
「そうなー、女子力高い系男子って感じ。彼女さんは苦労しそうだなーって感じかな。……そんで自分の価値を低く見てる。そこに苛立ちを覚えたことも無いと言えば嘘だな。あと性格歪んだなーとも思う。……てめぇもその要因だよな、確か。」
確かにカンニングの時には命令された形とはいえ、こいつらのせいで退学しかけたもんな。前に牟田は謝ってくれたから構わないけど、絹綿は一切そういうのなかったもんな。別に気にはしてないけど。
太陽の豹変ブリに、絹綿は分かりやすくビクついた。
「……そうね。確かに命令されたとは言えその件は完全に罠にはめようとしたわ。狐神君、本当にごめんなさい。」
「パンケーキ食い足りねぇ……」
「……はい。」
残っていた絹綿の分のパンケーキが俺の元へ運ばれてきた。俺は別にそこら辺は気にしない派なので美味しくいただく。この香りと食感、癖になりそう。
その姿を見て太陽も苦笑いながらため息を吐いた。
「味も分かんないのによくそんな美味そうな顔するわ。」
「いや、香りと食感からもう味までわかる気がする。絶対美味い。調味料とかは多分たくさん組み合わせてるんだけど、お互いが喧嘩せずに中和してる感じ。蜂蜜も美味しそうにかかってるけどベタベタ感が全然ない。透明感が普通の蜂蜜よりもあるからか、重そうって感じもさせない。見た目もすごい大切なんだなって気付かされる。温度も多分これ以上冷えたら固くなるけど、でも熱すぎると嫌がる人もいる、そういうのも考えられてるのかな。味変とかも今は普通にあるけど、それらをしなくてもこんなに食べられるとか天才かよ。結論美味すぎんだろ……。後で店員さんにレシピ訊きに行く。なんなら働いて弟子入りするわ。」
「お前さんとこバイト禁止だろ。」
俺と太陽の会話の間、女子は何やらコソコソと話していた。その会話までは聞こえて来なかったが、何か企んでいるみたいな感じではなかった。
その後はなんと4人で買い物に行った。前にも絹綿ではなく水仙とカラオケに行った気がする。そしてその時よりも牟田は積極的になっていると思うが、太陽はそれに気づいているのだろうか。
気づけばもうすぐバレンタイン。ここでようやく牟田が太陽を遊びに誘った理由が分かった。どうせ「男の子に渡したいんだけど、どういうのがいいか分かんないからもし良かったら太陽君、教えてくれないかな?」とかそんな感じだろう。でも俺は知っている。太陽は基本食えれば何でもいいことを。男子高校生らしく、異性に興味はある様子。でも自分には特に関わりのないことと踏ん切りがある気がする。よくわかんないけど、俯瞰的というか、第三者的観点というか。まぁその理由は知ってるが。
「そういや絹綿は誰かにあげるとかないのか?」
「ないわね。どうも同い年の男子は子どもに見えちゃって仕方がないわ。」
年上好きか。




