歪んだ三角関係 15
鴛海に蹴られた。
『話を出来るだけ引き延ばせ。情報を探れ』
カンペが出される。
淀川の言葉がはったりか本当か正直分からない。だから今はできるだけ相手に気づかれないよう、淀川がどこにいるか知る必要がある。風の音などがすれば外だと分かるし、他の人の声がすればもしかしたら相手は複数かもしれない。話を長引かせることが重要だ。
『無駄だろうが出来るだけこちらが情報を得てないふりで』
「それはまたお熱いことで。まぁ元彼といえば何とか水仙に会えなくもないんですかね。それで用件はなんですか?先程も言いましたが、俺は今水仙の犯人探しで忙しいんですけど。このままだと俺が犯人にされちゃうかもですし。」
「本当はもう俺が犯人て分かってるよね?応答が遅いから誰かに指示でも受けてるのかな?……悪いがこれから先のことをその協力者に話したら彼女の身の安全は保証しない。」
水仙は今意識がないだろうから声を聞かせろなんてのは無理だ。だからこの言葉も信憑性に欠ける。けれど流石にこれには従うしかないか。
鴛海から少しだけ距離をとった。鴛海も何かしらを察したのか、一瞬こちらに向かった足を戻す。
「助っ人には離れてもらいました。なんなら確認の為映像でも送りますか。」
お互いにビデオ通話になれば映像が送られてくる。それさえ見れれば一気にどこにいるか特定出来るかもしれない。
「いや、君を信じるよ。分かってると思うけどこのまま彼女を解放するつもりは無い。」
まぁですよね。
「俺にどうしろと?」
向こうで軽く笑う声が聞こえた。
「君と彼女の絆を試させてほしいんだ。もし1時間以内に僕たちのところに来れたら彼女を解放しよう。勿論君1人でね。でもそれが叶わなかったら……分かるよね?」
「そこらへんはドラマとかで予習済みです。……1時間て言うと6時くらいですか。何かヒントとかないんですか?先輩なんだしそのくらい器広くてもいいのでは?」
「残念だけどノーヒントだよ。」
「じゃあ一つだけ聞かせてください。……今回の件の動機を教えてください。」
「……まぁいいか。水仙さんが言ったんだ。『痴漢の件について、本当の事を全て話します。』って。そんなことしたら水仙さんの立場も怪しくなるのにね。何回も説得したのに聞かないから今回は少し強めに出たんだよ。それだけ。」
「……なるほど。」
パロロン、と機械音が鳴ると携帯から耳を離す。
動機の事はとりあえず置いておこう。恐らく再度かけ直しても向こうは出てくれないだろう。しかしたった1時間で近隣の病院駆け回って病室を特定なんてできるものだろうか。仮に水仙のいる病院に来たとしても、「水仙いますか?」といって「はい、こちらへどうぞ」とはならんだろうし。
別に淀川からは来るのは1人でとしか言われてないので、動機のこと以外の電話の内容を鴛海に話した。
「間違いなく周辺の病院を手当り次第なんかしていたら間に合わないな。……あれは計画された犯行だ。そして何となく水仙さんも気づいていた。となると水仙さんが何か残していた可能性があるかもしれない。何か心当たりは?」
「んー……。分からん。そもそもあいつとは別に仲がいいわけじゃないし。授業中多少話したり、しりとりなんかする程度で……」
もしかして……。
勢いよく駆け出し屋上の扉を開けるとそのまま全力で1年7組に走った。鴛海はどうやら運動の方はからっきしらしく、俺よりだいぶ遅く来た。
「……すまん、まさかこんなにも体力がない高校生がいるなんて。もしかして喘息持ちとかだったか?ならすまない。」
「はぁ……はぁ……はぁ……。うるさい、ただスタミナがないだけだ。それでそれは?……絵?」
そう、俺とあいつの繋がりといえばやはりこれだ。もし水仙が何か残しているのであればきっとそれはここにある。
これを最期にやった時、あいつは『よし』と言っていた。あれはきっと今回のことを知った上でのあいつの覚悟だったんだ。
「にしても君絵まで下手なんだな。丁寧に描こうと気概が見える分、より悲しいな。僕には何を書いてるか何一つとして分からないが。」
「無事水仙を助けたらそう伝えておくよ。」
「」
えっとこの時は解読に凄い次時間がかかったから量としては少ないんだよな。それになんか返信も凄い遅かったんだよな。俺が5個、そして水仙が6個。それで何故か「じゃあタンクの『く』から、はい」とか謎のワードから始まったんだよな。
多分俺の言葉は関係ないと思うから水仙の言葉だけ取る。
「『タンク』『いご』『ねじ』『るうと』『めも』 『おに』だけどこれを……並び替え、とか?」
「……じたく…いる……じたくにいる……思う。自宅にいると思う。」
「よく分かるな。……でもそれだと何文字か余らないか?『ご』と『ね』と『め』と『ん』……」
……ほんとどんだけ気にしてんだよあいつ。いいかげん重たいよ。そんな俺なんかに気回さなくていいのに……。全く。
「次は生徒会室か。」
「うん、先に行っててくれ。」




