一進一退 4
文化祭が始まるまでに始められることはしておく。今日は周囲の人への呼びかけと文化祭の寄付金の確認、食べ物を提供する場合の注意点確認、交通機関への申請書類提出。
「メンバーは2、1、1、2だな。で鶴とノアは周辺住民への声がけで決定。」
「……一応理由を聞いて構わねぇすか?ほとんどわかっちゃいますが。」
「そらー1番めんどいの声がけだもん。クレームおじさんは必ず湧くからな。そこに美少女2人ぶちこみゃおじさん歓喜。」
「理屈はわかるけれど気に食わないわね……。」
「……控えめに言って最低。」
「あぁ、鶴ちゃんのその表情なんかいいね。一部からすごい人気ありそう。」
今日も生徒会は活発に活動しています。
てっきり1番地味な食べ物管理に回されると思ったが、そこには自称料理が得意な春風さんが回った。料理はモテる必須科目とのこと。会長が寄付金の確認となり後は消去法で禦王殘と俺が交通機関に行くことになったが……。
「人選間違ってね?」
「なんか言ったか?」
だってコミュ障に近い俺とコミュにすらたどり着くかわからない禦王殘て。それならせめて鶴かノアを俺か禦王殘と交換しても良かったと思う。……別に俺が女の子と2人で歩きたいとかじゃなくて。それがバレたりでもしたらほんとに殺されるから。
「シャキッとしろ、大人相手だと舐められかねないからな。交渉は下に出た方の負けだ。」
ただ『文化祭で人の混雑が予想されます。その旨だけご了承ください。』って書類にサインしてもらうだけなんだけどな。
「な、なるほど。ここまで御足労ありがとうございます。今上に署名を貰ってきますね。あ、お茶飲みます?」
「いえ、お構いなく。」
お相手さんビビって脚ガクガクじゃねぇか。言葉は丁寧なそれだが溢れ出すオーラが圧倒的強者。……ちょっと羨ましい。
「あ、お待たせしました。こちらがその書類ですね。今日はお暑いですので良ければこちらもどうぞ。本日はありがとうございました。」
申請はすぐに終わった。
キンキンに冷えたお茶まで渡された。禦王殘が言うには水出し玉露。かなりお高いお茶らしい。
「一つだけ気になることがあるんだが聞いてもいいか。」
「え?ああはい。どうかしたの?」
禦王殘が俺に興味など持っていることに少し驚いたが、何となくその質問は俺の冤罪に関することだというのはわかる。お茶を少し飲んで次の言葉を待つ。
「そのカバンについてるミサンガは何だ?ボロボロだし、途中で切れて直した跡もあるが。」
そう俺のカバンに着いたのを指して言う。前に白花が拾ってくれたというミサンガ。今ではだいぶ汚れてしまっている。少し予想外の質問に、そしてやや答えづらい質問に「第一号の証らしいです」としか答えなかった。禦王殘は何を察してか、それ以上何も言わなかった。
そして文化祭の下準備が着々と進んでいき、やがて新学期が始まった。大半の生徒は「もっと続いて欲しかった」と嘆く反面、「文化祭楽しみ」などと言う人もいた。
しかし担任の遠井先生の開口一言目で一気にクラスの雰囲気が変わる。
「深見さんが転校することに決まりました。原因は伏せさせてもらいます。いきなりこんな話をされてもと思うでしょうが、本人もその事は謝っていました。」
俺はSNSをあまりやってはいないが深見の転校理由など簡単に予想できる。あの夏祭りの事件を誰かがSNSに載せたんだろう。その後誹謗中傷が降りかかったのも容易に想像がつく。そして俺と同じような末路を辿るくらいならと、どこか遠くに行ったのだろう。もとからあまり好感はなかった。いなくなったとしてもクラスのみんなはさして悲しんだりしなかった。……ただ1人を除いては。
「泣かないで小石ちゃん。悪いのはあいつなんだから。小石ちゃんが気に病む必要は無いよ。」
「そうだよ。私も動画見たけどあれはあいつの自業自得だよ。あれは……最低だよ。」
先生が去った後みんなが白花を取り込むように慰めている。俺の時もそうだったが、被害者の立場にあるにも関わらず加害者を庇おうとするところにみな惹かれるのだろうか。
「でも……でも、まだ半年も経ってないのに。何でこんな事になっちゃうの……」
俺たちの学校は学年が変わってもクラスが変わることは無い。3年間同じクラスメイトと過ごすのだ。つまりこのクラスが40人になることは誰かが転校でもしてこない限りない。
とりあえずこのままでは文化祭の話もできないので一旦白花を保健室に休ませ、その間にみんなで話し合いをすることにした。進行は文体実行委員の梶山が仕切る。クラス問わず人気でリーダー気質でもある。
「みんなも知ってるかもしれないけど、この文化祭で学年で最優秀を取ったクラスは毎年変わる豪華賞品が貰えるらしいんだ。僕はこれを取れたらいい記念になると思ってるんだけどみんなはどうかな?」
「「「うぇーい!!」」」
さっきのシリアスはどっか行ったのかな。
「ありがとう!!そこで文化祭で何をするか何だけど、とりあえずアイデアを出すだけ出して、そこから選んでいくって言うのはどうかな?」
「「「うぇーい!!」」」
「よし!じゃあやりたいことある人黒板にどんどん書いちゃおう!!あ、あとそうだ。今年の文化祭のスローガンも思いついたら書いて欲しい。」
「「「うぇーい!!」」」
……七面鳥かよ。声に反応して叫ぶ七面鳥かよ。