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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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歪んだ三角関係 12

「......あー、なるほど。ゴミ袋か。」

それは多分海岸でゴミ拾いをする為の非常に大きな、灰色のゴミ袋だった。恐らくこんなものこの部活以外では使わないだろう。

「そう、この中に水仙さんを入れて殴ったとしても外に血が飛び散ることもない。その状態で7組まで移動させているうちに振動でもあれば全身に血が付いていたとしても何ら不思議はない。これならば例え7組に移動している最中、仮に誰かに見つかったとしてもまず外目からではわからない。あとは普通のゴミ袋だと翌日にでも証拠隠滅のために捨てたら君に調べられる可能性がある。ゴミ回収の時間はほかの地区のゴミの量にも大きく左右される。君に見つかる可能性も充分に有り得る。ただ僕の予想では犯行に使われたゴミ袋は恐らくこの一番下付近にあるだろう。」

そういって灰色のゴミ袋の入った袋から一枚一枚取り出していく。

「恐らく水仙さんは犯人の脅迫により犯人の名前を言えない。そうすれば君が犯人になるのは自明の理だ。それまでそのゴミ袋がバレなければいい。だから無理に早くゴミ捨て場に持っていくことはしないだろう。自分が持ち帰って捨てるのもいいが、もし誰かに見つかったら言い訳のしようがないからな。軽く洗えば他の物と区別がつきにくいからな。」

そっか、ゴミ捨て場を俺が調査することなんて簡単に予想できるからあえてゴミとして捨てなかったんだ。でも他の物と区別がつきにくいのならどうやって見つけるんだ?

「しかしどうしたって皺や水滴は残る。......こんなふうにな。」

鴛海が手にしていたゴミ袋はよく見れば他の物より若干皺が多く見えた。そして中を覗くとほんの少しだけ水滴が見られた。見事鴛海の言う通りになっていく。

「この灰色の袋はあるのはここだけなのかな。」

「あぁ。小さいのなら他にもあるかもしれないが、さすがに90Lほどの大きさはここにしかないだろう。この部はたまに老人の家を訪ねゴミ掃除もするそうだ。そこであまり他の人から見られないようにこの灰色のごみ袋をしようすることもあるそうだ。」

あ、海岸用じゃないんだ。


その袋を持ってボランティア部を後にした。これが物的証拠になるかどうかは怪しいが鴛海がいなければ得られなかった収穫だ。

そうして次探すのは犯行場所だ。俺は最初、水仙をおんぶとかで背負って移動していたと考えていたため、犯行場所を全く絞れなかったが、先ほどの鴛海の運搬方法だと背負うことなどはできない。台車などでは運べても、段差を乗り越えることは困難だ。となると同じフロアのどこかが犯行場所となる。

「そうとも言い切れないだろうな。滑車の原理などを使う、とか。」

「女子高生一人を持ち上げられるものなんてそう簡単にあるか?」

「バケツに水でも入れればいくんじゃないか?ま、でもそんなことしてたらバレるだろうな。同じフロアなら普通に台車で運ぶのが一番手っ取り早いだろう。しかし犯行場所はやはり人気がないところだと思う。故に僕は別の場所だと思う。」

同じフロアとなると各学年の5~8組になるのかな。確か上から各フロア1~4組、5~8組、9~12組となっていたもんな。でも教室棟だと放課後でも生徒はいる可能性は全然あるから俺も別の場所だと思う。だがそうなると運搬手段が分からない。エレベーターなんか便利なものはうちにはないし。

「何より肝心なことは誰かに見られないこと。一応袋はしてあるが、それでも怪しいことに変わりはない。そのため求められるのは必然的にスピードだ。では下に下ろすのと上に持ち上げる、どっちの方が早いと思う?」

「下ろす、かな。となると教室棟最上階?でもそれだと結局教室に生徒がいる可能性があるから同じフロアでやろうともかわらないんじゃないか?......あ。」

「よし、行ってみよう。」


職員室に行き、屋上の鍵を借りる。先生によってバラバラだが、鴛海は先生たちからの信頼も厚く「気を付けてね」と恐らく鴛海の担任から鍵を借りることができた。何となく屋上というだけでテンションが少し上がってしまった。我ながら子供だと感じる。

「今の時間だとここからの景色はこんなにも綺麗なのか。」

鴛海の背中を追い扉を開けるとそこには真っ赤に広がる空とそれを反射してキラキラと光る海が見えた。柵に肘を掛けその景色を眺めていると、どこか切ない気持ちが押し寄せてくる。どうやらそれは俺だけではないらしく、隣に立つ彼女も何か思うところがあるようだった。

「......僕には歳の離れた弟がいるんだ。とても病弱でね、できることは全てベットの上だけ。僕にできることは一日に起きたことを話したり、写真を見せることぐらいなんだ。」

そういって携帯をこちらに向けてきた。そこにはにこやかな顔で笑う鴛海と、人口呼吸器をつけてこちらにピースする、まだ小学生高学年くらいの男の子が写っていた。

「僕よりも全然幼いのにこれまで何度も危険な手術を受けてきたんだ。それである日訊いてみた。怖くないのか?苦しくないのか?と。......そしたらさ、『僕にはできることが他の人よりもずっと少ないから、その分できることは全力でやりたい。怖くても、苦しくても。』と言ってな。それが君と重なったのかな。最早まともな生活を送れない君が、少しでもそれを否定しようと奮闘する姿に。それが今回君に協力した理由だよ。」


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