歪んだ三角関係 10
でもそれが分かったところで何か変わるだろうか。依然として犯行場所も凶器も具体的な時間もわからない。というか寧ろ計画的であればなおさら情報がないだろう。水仙を殺すつもりはなかった、というのも別にそこから何か発展するようなものがあるとは思えない。憎悪の大小の問題だ。問題は何で憎悪が生じたか。
しかしそこで本鈴が校舎から聞こえてくる。俺と鴛海は話を打ち切り、少しだけ急ぎ足で教室へ向かった。その際「ここまでヒントを与えれば少しは分かるだろう」と言われた。
教室に戻り先生から呆れられつつも怒られ、みんなから蔑んだ視線を浴びながら席に座る。途中足を引っ掛けられるも転ばなかったのでセーフ。一応形だけは授業を聞いている風だが、頭の中は勿論事件の事だけ。
ていうかなんだよさっきの言葉。分からんよ、ヒントって何よ。答えを知ってるんだったら教えてくれよ。残された予想時間は1日ちょっとしかないんだよ。
......いや、待てよ。この時間てもし犯人が水仙が生きてる事を知ったら、犯人が殺しに行くからその知らせを遅らせられる限界が3日ぐらいなんだよな。でも犯人が最初から殺すつもりがなかったとしたらその時間に意味はないよな?しかも事件は計画的と分かった以上、恐らく水仙は犯人に目星が着くはず。いや、それ以前に襲う際に見られている可能性もある。それを犯人は分かった上で殺さなかったとしたら?バレたら本当に退学では済まないレベルのことなのに。
「......水仙が絶対に犯人の名前を言えないよう脅されてる、とか?」
そしたらきっと名前は出さないだろうが、「あんまり襲われた時の記憶が無いんです」とか言うだろう。でももしそうなった場合、犯人に近い人に疑いが行くのは当然。そしてそれは勿論......。
ブルルと携帯がポケットの中で震えた。何となく嫌な予感がして、先生が黒板に何か書いている間を縫って携帯を開く。連絡は鴛海からだった。
『水仙さんが目を覚ました。明日にでも校長が話しに行くらしい。すぐに友人などには連絡が行くだろうが先に伝える。』
「......嘘だろおい。」
「授業中に携帯とは、随分私の授業が退屈なんですね。」
高校の授業なんて大抵の生徒がつまらないと感じてるだろ、なんてつまらない事考えてる場合じゃない。
「水仙が目を覚ましたようです。」
俺の言葉にゴキブリを見るような目をしていたクラスの連中からどよめきが走る。勿論嬉しい限りだろうが、発信者が俺であるからイマイチ信じられないんだろう。そもそもな疑問、なんで俺が誰よりもその情報を得られるか謎だしな。
「それは嬉しい朗報ですね。真っ先にあなたにメールが届く理由が分かりませんが。......でもあなたはなぜそのメールに対し「嘘だろ」なんて言ったんですか?まるでそうなっては困る、みたいに取れますけれど。まぁそれはさておき携帯は没収します。」
差し出される手に携帯を渡す。少しザワついた教室内を2回手を叩き生徒を黙らせ、授業が再開する。
予想が間違っていようが、正しかろうが犯人に水仙が生きているということがバレた。流石に今日の放課後に学生が会えるということはないだろうが、明日以降は分からない。
てことは期限は今日までってことだよな。いくらなんでも時間がなさすぎるだろ。でも「誰にも水仙に会わせないで」なんて俺の立場からは言えないし。可能性があるなら水仙の母親だけど水仙に会いたいと言う人達を全員拒否は難しいか。それも確証も期限もないんじゃあ。......こうなったら鴛海と一緒に放課後死ぬ気で犯人探しするしかないか。もう協力してもらってるのを隠す必要はないんだし。
時間がないというのに結局携帯は放課後まで回収させられたままだった。授業合間の時間に直接6組に伺ったが、移動教室らしくそこに姿はなかった。そこで冷静にノアに連絡を頼めばよかったものを、焦りからひたすら鴛海を探し、結果見つからなかった。
そして何も進展がないまま放課後になってしまった。
遠井先生の長たらしい説教を適当に相槌を打つ。「はい」「はい」「すみませんでした」ずっとこのループ。これを30分位繰り返した。
「聞いていますよ。あなたが今回の件で犯人じゃない証拠を集めていること。そしてもし水仙さんの口から一言でも『狐神にやられた』などと言えば校長は判決を降すと。さぞ私の説教など苦痛でしょう。早く言い訳を考えなくてはいけないというのに。」
なんだろう、いつも通りの嫌味なはずなのに、なぜだかこの時だけ違って聞こえた。
「だったら早く携帯返して解放してください。時間がないんです。」
遠井先生は少しだけ俺の目を真っ直ぐ見ると、溜息を一つつき、携帯を俺の前に寄越した。当然それを怪しむも、「早くしなさい」と更に俺に近づける。
「......あなたに謝らなければいけないことがあります。携帯を没収している間、鴛海さんからメールが来た時につい画面に写った文章が目に入ってしまいました。すみませんでした。」
「プライバシーの侵害ですね。起訴します。」
携帯の電源ボタンを入れると鴛海から2通ほど来ていた。短く要件だけ書かれた文章はイマイチ女子高生らしくないななんて思ったり。
「でも今は先にやらなきゃいけないことあるんでこれで失礼します。」
『事件の大凡が分かった』
『早くしろ。水仙さんを守るんだろう』