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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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歪んだ三角関係 4

「あたしって人望ないのかしら......。」

生徒会室にて。机に突っ伏したノアからそんな声が漏れた。そんなノアに呼応するように、外の天気もだんだん悪くなる。天気予報では若干の雨が降ると言っていた。

まぁでも部屋には俺しかいないし、いつもカッコイイ姿からこうも女の子らしい姿を見るとなぜだか安心する。......親心かな?

「勧誘に失敗したのか?」

「禦王殘は何となく分かってたわよ。家の事情なら仕方ないことだし強制もしないわ。でも......鶴にまで振られるとは思わなかったのよ。」

「えっ、鶴入らないの!?」

その言葉には俺も驚いた。てっきりこのまま生徒会に入るものだと思っていた。だから続けるかなんて訊いたこともなかったし、それなら理由を訊かないと気が済まない。

「完全に断られたわけじゃないわよ。でもどうやらクラスで鶴が必要とされてるらしいのよ。ほら、2組は仲がいいじゃない?だからよく勉強会とかしてるらしいんだけど、その教え手に声が掛かってるらしくて......」

まぁスペックで言えば鶴は引く手数多だからな。寧ろよく今まで鶴にその役が来なかったのか不思議である。鶴ならたとえ生徒会辞めても他の部活でもやっていけるだろうし。

「じゃあ他のリーダー達は?実力なら申し分ないだろ。」

「勿論声をかけたわよ。でも「めんどくさそう」とか「利益がねぇ」とか「相済まない」とか「楽しいの?」とか。確かに言わんとしてることも分かるけれど......。他にも2年生の中からも信用できる人もね。けどみんな共通して言うのは『今学校が不安定だからちょっと怖い』ですって。」

不安定というのは生徒会の発足直後の解体とか、大鵠の退学とか、校長の交代とかだろうか。確かに不安定ではあるな。そしてその流れを断つのが恐らく生徒会となる。その自信がないのだろう。......なんかそう言われると俺も不安になってきた。俺も辞退しよっかな。

「あなたはいなくなったりしないわよね?」

「え?!あぁ~......それより締め切りはいつなの?それまでに集まらなかった場合も考えないと。」

「......明日よ。」

終わった。


そして来たる翌日の放課後。俺にはそもそも部活や委員会に入るという選択肢などないので勿論生徒会に入るつもりだったが、流石に昨日の今日で役員が集まるとは思えない。流石のノアの顔の広さと信頼を持ってしても、それは無理と感じた。

しかしそれは流石ノア。役員は無事5人集まった。

『ノア、鶴、兜狩、小熊、明石』


そこに俺の名前はなかった。


朝、学校に着き扉を開く。その瞬間周りから刺すような視線を浴びた。それは別にいつも通りなのだが、いつもより度が過ぎている気がする。誰かが後ろから近づいて来たが、間もなく遠井先生が扉から入ってきたので遠ざかっていった。硬っ苦しい先生の顔は苦手なのでいつも窓からの景色を見つつ、一応耳は傾けておく。いつもと何となく違う風景と感じたのは、窓に反射して映る彼女の姿がなかったからだ。『風邪でも引いたか?遅刻は考えにくいし。どうせ先生からなんか一言あるか。』なんて軽く思った。しかしそれに関する話はなく、朝の連絡を終わろうとした。勿論遅刻とかなら『水仙さんの姿は見えませんが、誰か知ってますか?』とか『水仙さんは遅刻ですか、珍しいですね』とか言うと思う。しかし何も言わなかった。そして朝礼が終わる直前、扉が勢いよく開いた。

「っべー!!セーフっ?!間に合った感じ?遠井ちゃん?」

「私は友達ではありません。そして遅刻はあなただけですよ鏡石さん。もう少し高校生という自覚を持ちなさい。」

「え?でもそこ、確かみおーちゃんもいなくない?どしたん?めずらし。」

しかしその声には最早答えず、到底生徒を見る先生ではない目で俺を睨んだ。

「狐神君、話があります。後で来なさい。」


昼休み、尋常ならざる遠井先生の姿に断ることなんか出来ず、その背中に着いていくとそこは校長室だった。3回のノックをした後、返答を聞くとゆっくりとその扉を開ける。そこには式之宮先生と新たな校長先生が座っていた。その顔はとても険しく、とても重苦しいものだった。

「座りなさい。」

そう冷たく声がかかると2人の先生の向かい側に座った。遠井先生はそこで部屋から出ていった。式之宮先生が俯きながら大きな溜息を吐く。そして言った。本当に辛そうに。


「狐神、お前に水仙への殺人未遂の疑いがある。」


昨日の放課後、水仙は京の何らかの相談に乗るために放課後、買いものとカフェに行くつもりだったらしい。しかしチア部の練習時間が少し長引いてしまったために集合時間の5時より20分ほど遅れてしまった。集合場所は1年7組。この時期5時を回れば教室はかなり暗く、誰かいれば光がともっているはず。しかし外から見てもそこは真っ暗だった。一応扉も開けてはみたが、やはりそこに誰かがいる気配はなかった。メールを一報飛ばすと今度は水仙の所属する料理部に向かった。中には片付けを終え談笑する穂積と何人かの一年生がいたらしいが水仙の姿はなかった。水仙のことを訊くと『クラスの人と待ちわせをしてるから20分くらい前にはいなかった』という。『もしかしたらさっきはトイレにでも行ってたのかな』と思いつつ、またも1年7組に戻る。すると途中、『先程教室に忘れ物をしてしまった』という式之宮先生と合流した。そして戻ってきた教室は相変わらず真っ暗だったが、今度は電気をつけて式之宮先生の忘れ物を取ることと並行して教室を見て回った。


「......教室の端っこだった、水仙の頭から流れた、フィクションなんかじゃないリアルな血はあまりにも衝撃が強かった。足まで血で染まっていたほどだ。普段は想像も出来ないが、あの京が凄まじい悲鳴を上げて意識を失った。そしてその声を聞いた校舎の生徒が集まるのに時間はかからなかった。私は近くにいた生徒に京を預け、真弓先生を呼ばせ、水仙に駆け寄った。そして一言だけ言葉を聞いた。」

『こ......がみ......君。......ゆるし...て......』


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