表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
16/592

一進一退 3

夏休みも早いものでそろそろ終わりが見え始め、今日から生徒会の仕事が始まる。実際やることがあまりにも無さすぎて暇さえ覚えていた。自分の趣味の無さに虚しさを覚えていた。

「1年は知ってか知らずかは知らんがうちの学校は文化祭、体育祭と交互にやっていく。今年は文化祭だな。……やっぱりめんどくさ。後は春風頼んだ、俺は保健室で寝る。」

そう言って部屋を出ようとする会長に男が声をかける。とはいってもこの生徒会室にいて俺の知らない人は1人しかいないが。

「会長。保健室で寝んのは構いやしませんけど、もしかしてこいつが庶務になる奴ですか?」

「禦王殘、お前はもう少しここに来いよ。……俺が言えた事じゃねぇが。」

「本当ですね。生徒会の男子にまともなのはいないんですか。狐神はこうならないようにしてね。」

「うす。」

生徒会もう一人の副会長、禦王殘という人。というかこの人怖すぎない?どっかの首領(ドン)とか(かしら)だろ。その顔の刺青(いれずみ)って偽物なんだよね?学校に刺青とか普通にダメだもんね。

「おい、何見てんだよ?」

「い、いえ。ただ、その刺青どうしたのかなと。」

やばい、これはこの後「なんか文句あんのかゴラァ!?」とか言われるパターンだ。俺のバカ、こういうのはとりあえず相手を持ち上げとけばいいのに。

「あぁ、俺がガキの頃に捕まって、そんときに無理矢理彫られたもんだ。まぁその後はきちんと落とし前つけたけどな。学校からの許可はもらってる。」

あはは。面白い設定ですね。

そして5人の生徒会で話は進んだ。春風さんは瀬田会長と同じく3年なので説明には困らなかった。けれどとても生徒会だけでは人員が足りないため、今後は文体実行委員会(文化祭と体育祭の時に働く委員会)も加わって動く。各クラス2人の計72人+5人の生徒会役員、しめて77人の大所帯になる。流石にこの人数が揃うのは最初の話し合いと文化祭当日だけらしいが。で、その話し合いをする日が今日らしい。

「俺は瀬田を呼びに行くから先にいってて。」と集合場所だけ伝え春風さんは保健室に行ってしまった。仕方なく何もわからない俺たち1年はその場所へと向かった。

「やっと来たのか、君が噂の犯罪者君だろ?生徒会も落ちたものだな。こんなのを役員として迎えるなんて。」

恐らく1番実行委員で上の人だろう。開幕早々嫌味を飛ばしてくる。その他大勢もヒソヒソ話をしたりくすくすと笑っている。なにわろうてんねん。

「随分と礼儀正しい連中だな。てめぇも挨拶の一つくらいしたらどうだ。」

1番遅く入ってきた禦王殘の姿を見て俺ら以外の全員が目を逸らすのがわかった。それは実行委員長も例外ではなく一気に静寂に包まれる。一言で全員を黙らせるこの感じ、何だかいい気分。俺もやってみたい。

「どうも、あらぬ罪で有名にされました、生徒会庶務(仮)狐神彼方です。みなさんと仲良く笑顔溢れる文化祭を作っていければいいなと思います。」

絶対無理な話だけどな。今更仲良く話し合って誤解を解こうとも思わない。無理矢理わかってもらう方が楽そうだしな。楽しい文化祭だ、お互い極力関わらず行こう。

「お前のって冤罪なのか?」

「もうその話はだいぶ前にしてるんですけど。まぁ......やってないと言っていいかと。冤罪ですね。」

......まぁ、強姦に関してだけは正直かなりグレーだが。

「悪いが俺は人を疑うように育てられたんだ。今はただてめぇが1人でほざいてる程度の認識しか持ってねぇ。あとタメだろ、固くなるなやりづれぇ。」

生徒会と書かれた席に順々に座っていく。最初は俺の席だけ椅子がなかったのでどこかから持ってこようと思ったが、それより先に禦王殘が小さな声で「……つまんねぇ真似してんじゃねぇよ」と呟くと委員会の1人が椅子を持ってきてくれた。それを受け取り座る。

「会長はもう少しで来るらしいんですけど、そちらがもし宜しければもう始めてしまってもいいですか?」

ノアの発言をきっかけに会議は始まった。

内容は文化祭の概要、日時、出し物、予算、申請書類、外部との連絡、周辺住民への呼びかけ、当日の動きなど様々あった。それら全てを鶴が記帳し、ノアと禦王殘が的確な確認と質問と提案を凄まじい速さで行っていく。とても1年生とは思えない動きと発言に向こうの委員長もついて行くので精一杯。かく言う俺も情けなくも2人の会話に追いつくのが精一杯。途中から来ていた瀬田会長と春風さんにも全く気がつかなかった。

会議は夕方頃まで続きその頃にはもうヘトヘトだった。みんなが教室を出た後、1人みんなの活躍を思い返す。

「……すごかったなぁ。」

このマシンガントークの会議を分かりやすくまとめ、そこにいなくても十二分にその内容が伝わる、とても綺麗な字で書き綴った鶴。曖昧になっていたところを全て洗い出し、問題となりうる全てに改善案を提示したノアと禦王殘。そして一瞬鶴のノートを見ただけで現状を全て把握し普通に会話に混ざる会長。春風さんは……春風さんは?。

「……どうしたの?」

もう帰ったかと思ったが心配をしてくれたのだろうか、鶴がわざわざ来てくれた。

「いや、みんなすごいなって。やっぱり生徒会にいるのならそれ相応の実力があるんだなって思ってな。」

「……うん。あの2人は本当にすごいよ。来年の生徒会長はきっとどっちかだと思う。統率力が並外れてるから将来は総理大臣とかになってても違和感とかないね。」

随分と謙遜してるけど鶴も十分2人に並べるほどすごいと思うぞ。けれどそう口にしてみたが、鶴の顔は喜ぶも照れもせずただ悲しそうにするだけ。

「……私は、誰かに指図されないと何もできないから。」

その憂いた顔に何も言えずにいると、式之宮先生に帰るよう言われた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ