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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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歪んだ三角関係 3

「うん。初めまして。」

それだけ言うとまた本の続きを読む。

何となく小熊から聞いていたイメージとだいぶ離れているな。冷たいという感じが多い。まぁ俺に最初から暖かく接しろという方が難しい話だが。ていうか普通に話してるけど小熊とも決していい関係ではないと思うんだが。

「すまないね、彼女は少し君を嫌悪しているのだよ。しかしそれは君の(ぬれぎぬ)ではない。」

俺この人になんかしちゃったっけ?

「そうさな、端的に言えば大鵠を打ち倒した故に、リーダーの僕らは皆から冷ややかな目を浴びるようになったのだよ。」

なるほど。ずっと恐怖で支配していた大鵠がいなくなって、その圧政の発散がリーダーに向かったという訳か。そしてそれは小熊も勿論例外ではない。その友達である穂積はそのきっかけの俺を嫌うのは道理と言えばそうなのか。

「八つ当たりですか?」

「まぁまぁ。今回は君が謝罪する事は本当に何一つない。君に比べれば僕なぞほんとに冷たい視線くらいだからな。」

「そうなんですか。......因みに今2年生は大鵠を失ってどんな風になってるんですか?」


大鵠を失った2年は二つに分かれた。ほとんどは1、3年生と同じように普通の何の順位もつけないで過ごすこと。そして極小数は大鵠の意志を継いで新たなリーダーを立てようとすること。しかしきっと後者は自然消滅するだろうと予測されてる。理由は単純。大鵠程の人物がいない。カリスマ性というか、リーダー性というか。

そのため今2年生は何をすべきか分からない状況に立たされている。訊けば大鵠の2年への支配は1年以上も続いていたらしい。だから今更普段通りに戻ってくれと言ってすぐには戻れない。


「そうなると新たな生徒会長のノアが2年も引っ張らなくちゃいけなくなるのかな。」

「後輩に引っ張られるのは恥ずかしい話だが、とりあえず目的みたいなものが2年生には必要と考える。長く束縛された環境から解放されると、何をするか分からなくなるからね。君も受験が終わった直後は何をしたらいいか分からなかったことがあったのではないか?」

「あー......めっちゃわかりやすいたとえありがとうございます。でもそういうのって時間が解決してくれるんじゃないですか?」

それも別に大して時間はかからないと思う。やりたいことができるようになれば、少しすれば勝手に各々動くだろう。

「大鵠をここから追い出したことを小熊先輩と穂積先輩はどう思いますか?」

俺の問いに2人の視線が集まる。

「間違ってると思うのかい?」

「......正直分からないです。」

「そもそも間違いか正解かの2つに分けられることなの?」

穂積は呆れたような顔を見せた。

「白黒ハッキリつけられることの方が少ないわよ。黒寄りのグレーとか、一部分だけ真っ黒の白とか、そっちの方が圧倒的に多いでしょ。そもそも間違ってたとしてあなたに何が出来るの?あなたに間違いを直すほどの力でもあるの?悔やむことを責めるつもりはないけれど、あなたが真剣に考え抜いた答えなら後悔ってあんまり生まれないものじゃないかしら?」

『ちゃんと考えたか』とか『精一杯努力したか』とかの言葉ってずるいと思う。そんなの主観でしかないじゃないか。本人は頑張ったと言っても、周りの受け取り方は違うかもしれない。それに胸張って『出来ること全てやりました』なんて言える人、そういるものじゃないだろう。

「......要するに彼女は『自分のやったことに責任を持ちなさい』と言っているのだよ。あくまで僕の主観だがね、君のやった事は間違いなくいい事だよ。それは彼女も分かってる。だからせめてもの嫌がらせに分かりにくい言葉を並べているだけさ。簡単なことだ、後ろを見て落ち込むのではなく、前を向いて空を見上げればいいんだ。」

「前も後ろも分からない、真っ暗な絶望の中にいる時は全く役に立たない言葉ですね。」

「その時は簡単だ。出来る全てを全力でやればいい。」

それって1番難しいことだろ。人間そこまで強くないと思う。きっとそれより先に心が折れてしまうだろう。違うか、折れている状態でそんなこと求められても応えられるはずないんだ。

「君だってこれまで何もしなかったわけじゃないだろう。1人で出来ないと思ったら誰かを頼ればいい。」

「結局他力本願ですか。」

「そう一言で済むほど言葉は簡単ではないのだよ。善意を利用した狡猾な施しを受けるのと、信頼から起因する共に困難を討ち果たさんする姿が同じなはずがない。......ま、君が今できることは次期生徒会にでも入ってみんなために頑張ることとかじゃないかな。僕は楽しいことが大好きだからね、応援はしてるよ。」

「ほんといい性格してますね。」

……でも、他人に頼ることで変わるものもあるものか。参考程度には覚えておこう。


その後「折角なのだから」と小熊に図書館を案内してもらった。何故だか穂積もついてきたが先程までと違い少しだけ柔らかくなったイメージ。

そしてある程度ここの施設のことも知れたので2人に別れを告げ出口に向かった。

「あれ、あんた何してんの。」

「牟田って図書委員だったんだ。なんか似合うな。」

「......どういう意味よ。」

「別に、ただ本を読む姿が似合ってると思っただけだ。他意はない。」


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