集いし強者 17
「一つ、よろしいか?」
その一言でみんなの視線が伽藍堂に集まる。
「前に狐神殿と話したのだがな、あまりにも単純かと思わんか?事実、山田殿が謀反人としてもあまりにも昭昭たるものだ。」
「......そう思ったこたぁはあるが、山田が本当に生徒会の一員に加わる予定だったんならいんじゃねぇか。それともまだ裏切り者がこの中にいるってか?」
その言葉に一気に空気が重たくなる。こうなるとみんながみんな疑心暗鬼になってしまう。
「......なんて、こんな空気を作って仲違いさせることが目的かもしんねーぞ。深読みしたらキリがねぇ。あんなの戯言と捉えておきゃあいんだよ。」
確かにそれはそうだ。深く考えれば考えるほど大鵠の思う壷なのかもしれない。それならば禦王殘のようにスパッと考えるのをやめた方がいいのかも知れない。
そんな時、廊下から足音が響き、やがてこの教室の前に止まるとその扉が開く。
「狐神と貓俣はいるか?......いるようだな。大鵠と少し話し合いをしようと思ってな。さすがに全員で押し寄せる訳にはいかないから、被害者代表としてな。」
「さっきの話、どう思った?」
「んー......あたしもあんまり考えたくはなかったけど、確かに安直すぎるんだよね。大鵠の目的が分かればそれなりに推測もできるんだけどなー。」
「目的、か。」
「考えたくはないけど、仮にあたし達の中に裏切り者がいるとしたら誰だと思う?」
あの時、少しだけ嫌な言葉が蘇った。
『……私はいい人じゃないよ。』
『もし私がみんなと一緒にいられなくなったら切り捨ててほしい。』
かつて鶴がそんな事を俺に言った。もしあれらの言葉が今回の件に繋がるとしたら?大鵠と鶴の間には何か関係があった。それがもし関係あるとしたら?
「......!ごめん!嫌なこと訊いたよね、あたし。うわー......最低よね、ごめんなさい!」
「そんな気にしないでいいよ。正直全く分からないし。というか、普通に接してくれるだけで嬉しいから。」
「あー、色々言われてるもんね、狐神君。......正直言うとね、私も少し前までは噂の方を信じてた。選挙の時に『よくあんな事したのに学校居れるなー』って。でも演説を聞いて思ったの。『私は彼の被害者達に何かしてあげたか。私は彼から一度でも直接言葉を聞いたことがあったか。私は彼がどんな気持ちで今まで過ごしてきたか知ろうとしたか。』......何もしてこなかった。無関係な人間だった。それなのに被害者たちよりずっと狐神君を苦しめてきた。それっておかしいよね。被害者の人達が復讐みたいなのをするのならまだ分かるけど、何にも関係ない私たちがなんかするのって。」
正直そこらへんに関してはグレーなところだから分からない。過剰防衛というものと似てると思う。友達を守る分には全く構わない。けれどそれが行き過ぎて加害者を自殺に追い込むみたいなのはやりすぎだと思う。
やがて大鵠の待つ部屋の前に立った。不思議と恐怖といったものはそこまでなかった。一時は壬生や大鵠を酷く恐れた時はあったが、あの時と違い今は多くの仲間がいる。それにもう大鵠には何かできるほどの力も残ってないだろう。
ゆっくりと扉を開けると大きな欠伸をする大鵠がそこにいた。こうやって面と向かって話すのは随分と懐かしい。
大鵠と対面するように俺と貓俣が座り、式之宮先生はお互いの顔が見える少し離れた席に座った。
「ご無沙汰しています、大鵠さん。」
「やぁ、狐神君と貓俣さん。2人とも怪我の回復の方は順調かな?」
「ええ、もうほとんど回復してます。」
「それは良かった。女の子の体に傷なんて残したら罪悪感で死んじゃう所だったよ。」
どうやら俺らに負けたことはあまり気にしてないようにも思える。けれど一応確認はしてみるか。
「大鵠さんは今回の計画が失敗して、先生たちにバレたことで退学するんですか。」
ちょっと挑発じみた方が本音を話してくれるだろうか。
「嫌な言い方するなー。はいはい、そうですよ。敗者は大人しく退場しますよ。」
「......では、負けたあなたに勝った自分のお願い事を一つ聞いて欲しいんですけど構いませんか?」
大鵠は眉を一瞬ピクッと動かした。イラついたのか、気になったのかは知らないが、俺が逆の立場なら「調子乗んなよ」と怒りを露わにしてしまいそうだ。
「もしかして、妹さんの件について?」
「話が早くて助かります。黙ってここから去ってはもらえないでしょうか。」
どうせこの人のことだ。OKをもらえるとは思わないが、とりあえずお願いだけは「いいよ。」......え?
「お、お願いしといて何ですけど、いいんですか?『100発殴らせろ』とか『100万用意しろ』とか言われれると思ったんですけど。」
「まぁ先輩から一本取ったってことで最後の優しさだよ。甘んじ「そんな気持ち悪いこと聞きたくない。」」
大鵠の言葉を貓俣が強引にぶちぎった。だがそれはここにいる3人なら分かりきっていることだ。最後に善人に更生するわけなんてない。裏がないわけがない。
「最後の優しさと言うのなら、その優しさの根っこにある薄汚い考えを教えてください。」
「やだなー。俺の心はいつも慈愛と博愛に満ち満ちてるのに。」
そんな事を言われたのに大鵠は寧ろ嬉しそうだった。今なおろくな事を考えていないのは明白だった。
「気づいてるでしょ?君らの中の誰かが裏切り者だと。」




