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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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集いし強者 15

「おいおい、この状況からどうやって「悪いけど多分時間だ。」」

重心を落とし思い切り足に力を入れる。そして渾身の力で橋本にタックルするとそのまま入り口の扉に突っ込んだ。前もってずらされた扉は二人分の体重を支え切ることはできず、南京錠はそのままに扉は外に倒れた。

そして丁度そのタイミング。

「これは、どういう事だね?」

領さんが上から見下ろしていた。


事情は解放された禦王殘達御一行が説明しに行った。怪我の具合が悪い俺と貓俣、そしてその介護に戌亥は保健室にて休んでいた。

「物置の扉は閉じ込められる前に抵抗するフリしてずらしてたのよ。だから育美ちゃんはあの時扉に目をやって『衝撃』って言ったの。」

「本当によくそこまで考えてるな。俺は外に目をやったから『校庭』って言ったのかと思った。」

「それで校庭に投げた金属球の事を思い出したのか。鴛海の言う通り、校庭でそれを拾った生徒が鴛海の指示通り職員室に訪ねる。けれど先生は全員一発目の金属球で全員出払っている。だから校長室の方へ行って、時間差が出来たことにより上手くタイミングが合わせられたって訳か。」

さすがにあの現場を誤魔化せるわけもなく、普段温厚な領さんもその時ばかりはマジで怖かった。教育者、というよりは別側面を見たような感じだった。

「にしても貓俣が殴られた時の戌亥もめちゃくちゃ怖かったけどな。」

「ばっ!?おまそういう事は言うな!!」

「はーん?そうなんだぁ。何?あんた心配でもしてくれたわけ?」

「んなわけねぇだろ!!雑魚が雑魚らしく死んだなって思っただけだよ!!」

「ちょっと!!誰が雑魚よ!!ていうか死んでもないわよ!!」

「っせーよ!!あんぐらい防げよ!!」

「何よ!!あんただってずっと寝転んでただけでしょ!!あたしは機転利かせて勝利に貢献したのよ。あんたとは貢献度が違うのよ!」

「!!......っこの!!怪我人は黙って寝てろっての!!」

「痛っ!?あんた今どついたでしょ!?信じらんない怪我した女の子に何すんのよ!!最っ低!!」

「そういう台詞はもっとか弱くなってから言え!!」

......居づれー。めちゃくちゃ居づれー。なんか凄い申し訳ないわ。何だこのラブコメによくあるお互いに素直になれない会話は。早くここから出たい。

「あ、あー......なんか調子良くなってきたわ。もう歩けそう。なんなら以前より調子いいわ。これなら普通に帰れそうだなよし帰ろう。」

「そんなわけないだろ。ほら、足に力入れたからもう血が滲んで来てるじゃん。本来なら救急車呼ぶレベルなんだぞ。何であんなに嫌がったんだよ。」

「えっと、それは......」


『お前のせいで......失せろ!!このクソガキが!!!』

『折角得たチャンスなのにねぇ。......もしこれでダメになったらあんたを一生憎んでやるわ。』


「......病院にはちょっと嫌な思い出があって、思い出すと、気分が悪くなるんです。」

水仙の時もそうだったが、やっぱり病院て聞くだけでも嫌なこおと思い出される。

コンコンコン、と軽快な3回のノックに真弓先生が「どうぞ」と声を掛ける。「失礼します」と扉が開くと、そこにはノアが立っていた。恐らく俺らを心配して来てくれたのだろう、俺らの顔を見ると少しホっとしていた。

「もう外も暗いからそろそろ帰ろうと思っていたのだけど、あなたその脚では帰れないでしょう?送ってあげるわ。」

ノアの手には前もって持ってきてくれたであろう俺のバッグがあった。確かに短い距離とはいえ歩くのはしんどいし、電車内でもたちっぱはきつい。ここはお言葉に甘えよう。

「あ、一言だけいいか?」

やや深刻な顔で戌亥に呼び止められた。


戌亥と貓俣に別れを告げ、真弓先生にお礼を言うと車椅子に乗っけられ校舎を出た。外には既にノアが手配してくれた車が止まっており、運転手さんとノアに手伝ってもらいながら車に乗った。

「なんかごめんな、一番足引っ張った奴を介抱みたいなのさせちゃって。」

「何言ってるの。狐神が最後頑張ってくれたから無事大鵠の悪事を知らしめられたんじゃない。......だけどそれに伴って、あなたには特に悪いニュースがあるわ。車を手配したのも落ち着いて話せる場を作るきっかけなの。」

悪い話。大鵠の悪事を無事暴き、恐らく生徒会長をやめ、多分学校も辞めさせられるだろう。次第によっては少年院とかに入れられるかもしれない。そこに何か悪い話なんてあるのだろうか。

「考えれば至極当然のことよ。瀬田会長から聞いた昨年の学年戦争。それは学校の体裁を守るために隠されてきた。でもそんなもの本来は許されない。そして今回、こうしてまた新たに事件が発生してしまった。......九条校長はここを去ることになるわ。」


「領さん!どうにかならないんですか!?」

「こればかりはね。去年の件は、私が大学の臨時顧問に入ってほしいと出張していた間に起こった件とは言え、本来はあの段階で責任をとって辞めるべきだったんだ。そして今回の件が起きてしまった。君が、君たちが傷ついた。ここまで自分を腹立たしく思ったことはないよ。」

「でも!大鵠の責任にすれば領さんがここを辞めるまでもいかなくてすむんじゃないですか?」

「我が身可愛さで自分の生徒を捨てるなど、それこそ慚愧に堪えない。例え素行の悪い生徒だとしてもそれを導いてこその教師というものだよ。それは冤罪を押し付けられた君ならよく分かることだろう。」

領さんの目は本気だった。その目に対して何も言えなかった。あんまり俺は学校の先生が何を考えているのかは分からないけど、領さんはきっと生徒をとても大切に考えていると思う。その人が自分の責で関係のない生徒が傷ついたことを許せない気持ちは分かる。分かるけど、嫌だった。

「......領さんがいたから、俺はギリギリで踏みとどまる事ができました。学校の先生なんてろくな人がいないと思ってました。我が身可愛さで、邪魔な生徒を排斥して、優秀な生徒を宣伝材料に使うだけだと思ってました。」

生徒一人の一存でこの件が揉み消せるわけがない。尊敬するこの人の意思も覚悟も邪魔したくなかった。

ふと周りを見渡せば領さんの私物はほとんど片付けられており、部屋の隅の鞄に纏められていた。

「できるのなら領さんに俺の成長を見届けて欲しかったです。それで卒業式の時に『お世話になりました』なんて言いたかったです。」

それが叶わないというのなら、せめて笑顔で、心配なんていらないと思えるような顔で、別れを告げよう。

「九条校長、僅かな間でしたが、本当にありがとうございました。俺、これから頑張ります。......いつかこの学校を好きになれるように、頑張りますから!!」

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