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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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集いし強者 14

とは言えこの状況からどう動いたものか。縛られた手足。口にはガムテープ。ナイフを持った何人もの監視。音の響かない物置。ろくな光さえ入ってこない扉。

......無理だろ、こんなの。

寝返りを打つようにみんなの方を見る。最後に入ってきた俺はみんなの顔がうっすらと、けれど全体をよく見渡せた。

彼らは何とも言えない目をしていた。

「ほへんへ。」

一番手前にいた貓俣に多分『ごめんね』と言われた。しかし貓俣が謝ることなんか一つもない。それなら何一つとしてできずにいた俺なんか「痛っ!?」

突然思い切り貓俣にお腹を蹴られた。いや、蹴られたというよりかは押されたという方が近い。びっくりして反射的に痛いとは言ってしまったが、実際あまり痛みはあまりなかった。つい叫んでしまったが、勿論その叫びが外に届くことはない。しかし勢いよく転がったことにより、入口近くにいたナイフを持つ監視にぶつかった。そしてすぐ後ろに入口の扉があるため後退出来ず、監視は前に倒れる。俺が足元にいるせいでろくなバランスが取れずに、両手を地面に付いた。その際、ナイフが両手を離れ、戌亥のすぐ目の前に落ちた。

「ん!!」

事前にそれが分かっていたように、戌亥は何とか後ろで縛られた手でナイフを掴むと、予め待っていた貓俣が戌亥の手に自らの手を近づける。そして戌亥が素早く貓俣の手首の縄を切ると、貓俣がナイフを取り、自らの足の縄を切った。このまま全員分の縄を切れたらいいが、勿論そうはいかない。

「このアマッ!!」

「あっ.......」

女にも容赦はなく監視の1人が後ろから貓俣を殴った。その手には重そうな台座のようなものが握られていた。頭からは血が滴り落ち、床に倒れる。死んではいないと思うが、まさかそこまでのことをするなんて思ってなかった。

「ーーー!!!」

俺らがそれを見て怒りを顕にするより早く、一人の男が激昂した。言うまでもない戌亥だ。その姿と呻き声は味方である俺でさえ凄まじい恐怖を覚えた。固く縄で縛られ口を塞いでいるから決して暴れられないが、今にでもそれをぶちぎって噛みちぎる勢いだった。それに監視もビビり、少しの隙が生まれた。

「......外のひとに......」

視線が一瞬外れた間にナイフを離さなかった貓俣が俺の手の縄を切る。このまま足も切れれば一気に駆け出せる。そうすれば......。

「まだ意識あんのかよ、めんどくせぇ。」

入り口横にもう一人隠れていたらしく、俺の行く手を阻む。貓俣はもう限界らしく、後ろで倒れる音が聞こえた。急いでその手からナイフを取り、足の縄を切る。

「準備は万端かぁ狐神?」

「橋本......」

「今回は本気で来ることをお勧めするぜ。なんせお前がここで負けたら後ろの連中が浮かばれないもんな。ま、本気で来たところでナイフを持った程度のお前に負ける気なんか微塵もしないがな。」

そらそうだ。例えナイフを持っていても全く勝てる気がしない。むしろ『これで人を刺したら殺してしまう』なんて考えが過って体が硬くなってる。......考えてる暇なんてないか。

とりあえずナイフなんて持ってても邪魔なのでノア達に向け軽く放る。これで少しすればノア達も自分で逃げられるだろう。だけどそんなのを待ってはいられない。

「俺だって一回くらい大鵠に報いたいんだよ!!」

橋本の勢いのいい拳を何とか避ける。続く2、3発の拳も痛いながらにも何とか受け流した。けれど何となく分かる、こいつ絶対に楽しんでる。わざと俺でも受けきれる程度に。

「ならその油断を突かせてもらう!」

ギリギリで橋本の懐を潜り抜け、何とか扉の前のありつけた。これで......!!

「あれ!?開かない!!」

「んなの外側から鍵かけてるに決まってんだろ。......まぁもう外にセンコウもいないようだし、その錠もでっけぇ南京錠だからまず鍵がないと開かないぜ。......もうちょっと遊ぼうぜ!!」

逆に俺の方が思い切り油断していて、後ろから思い切りぶん殴られる。その刹那、他のみんなが脱出できず再度捕まっている様子が見えた。流石に2回も同じ方法は通してくれなかったらしい。そして俺も情けなく床に倒れる。

......さて、とりあえず一回状況を整理しよう。唯一頼りの先生方はもう帰った。こちらの頼りになりすぎる味方は全員動けない。俺はそもそも碌な戦力じゃない上、負傷中。部屋からも出れない。向こうは喧嘩慣れした人が10人くらい。どうしたらいいもんか。

「んーー!!んーー!!」

「......すまん鴛海。大変可愛らしいが今はお前を褒める元気もない。」

「ん!ん!ん!ん!」

『ど・う・て・い』?ぶち殺すぞクソガキ。誰が童貞じゃボケ。まだチャンスはあるかもしれないだろ。最悪金積んででも......あ、そういうことか。すっかり忘れてた。まだチャンスはあるじゃないか。まだ会って碌に付き合いも長くないが、一緒に修羅場を迎えた仲だ。一度くらいなら賭けてみるか。

最後の力を振り絞り、何とか立ちあがる。もう拳一発避けられる気はしないが、こんな成りでできることはある。

「そんなボロボロの体で一体何ができるんだよ。悪いけど俺は自分より弱い人間を虐めるのが大好きなんだよ。」

「......じゃあ俺はそうやって勝った気でいる奴の鼻っ柱へし折ることが好きかな。」



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