集いし強者 13
「応援はしてる、ですか。その言葉大っ嫌いです。ろくに興味もないくせに……痛っ!?……とりあえずの言葉だけ飾って、体裁だけはイイ子ちゃんぶって。」
「ひどいな、君は。ちゃんと勝ってほしいと願ってるよ。そして更なる困難にぶつかって欲しいとも。」
更なる困難?
高みの見物をする小熊は続ける。
「僕は凡常より劇的を求める。君が謂れのない罪を被せられ、それに抗う姿はとても好奇心唆られるものだった。だからこれからもどんどん不運に苛まれて欲しいと思うし、その数だけ踏破して欲しい。勿論、君が今よりも素晴らしいもの顕してくれるのであれば、今この瞬間にでも君の味方をするよ。」
……なんだ、この女もどっか壊れてるんじゃないのか。代わってあげられるのならこんな立場今すぐにでも代わってやりたいよ。めちゃくちゃ劇的だぞ。平穏も退屈もしないと約束できる自信がある。逆に俺はその凡常というやつにどれほど憧れたか。……お互い自分の持たないものに憧れて、持つものに気づいてないんだ。俺も、こいつも。だけど、少しだけ今のこの生活も「つらい」の一言で片付けられるものではなくなってきた。
ダメだ、なんだが頭がフラフラしてきた。考えも上手く纏まらない。
「こんな俺には何もあげられるものなんてないですよ。けど、強いて言うのなら一緒に冤罪を解決してくれたこと、たとえ一瞬でも此方と遊んでくれたこと。それだけは本当にありがとうございました。」
俺の言葉が小熊にどう届いたか、その顔を見る前に俺の意識は刈り取られた。
争いが起き始めてから3分。1年生の残りは5人となっていた。禦王殘、伽藍堂、明石、ノアは未だ抵抗を見せている。しかしそれでも決して余裕はない状態。向こうは人数が圧倒的なので360°から攻撃出来る。それに少しでも疲れたと感じれば後ろに下がり体力も回復出来る。また何人かは金属パイプの様な武器も持っている為、防御出来たとしてもダメージはかなり通る。そして極めつけは相手の躊躇の無さである。元々喧嘩っ早いものや血気盛んな連中の上に、『もし失敗すれば大鵠から何されるか分からない』という恐怖が一番にある。その為流血させようが、骨を折ろうが、まず第一に無力化を目指している。
「あと残ってんのはこんだけか。っクソが。」
「すまん!!兜狩守れなかった!!この人数を庇いながらはちょっとキツい!!」
「致し方なかろう。向こうもそれなりの手練と見える。情けなくも儂も代永殿を守れなかった。」
「でも、もうあんまり時間だってないでしょ。最後の辛抱よ!!」
さすがは肉体戦には覚えがあるメンバーなだけ、ここからがなかなか崩せない。勿論このままこれを維持出来ればやがて体力切れで大鵠の勝ちだろう。けれど残り2分くらいなるば、たとえ今の倍近い戦力差でもきっと折れないだろう。そうなれば方法を変えるしかない。
「……はーい、全員注目。少しでも動かれると怖くてこれ刺しちゃうかもだから。やめて欲しかったら大人しくして、ね?」
意識のない狐神の無理矢理叩き起こし、その首元にナイフをあてる。切れ味も相当あり、僅かに触れただけでも首筋から鮮やかな赤色が流れた。
……あれ?俺何してたっけ?確か大鵠達と争いになって、ノアと組んでたたかってたけど、思い出せないや……。というか俺今、後ろから掴まれてるのか。全然体が動かない。首にも何か当てられてる気がする。
「大鵠てめぇ……分かった、降参する。だから今すぐ狐神を離せ。それでいいだろ。」
「そうだね、理解が早くて助かるよ。……でも動くなって言ったよな。」
「痛っ!!?」
突如痛みのする太腿を見ると、とても切れ味のよさそうなナイフが深々と刺さっている。ぼやけていた意識が強引に覚醒させられる。何となく状況は分かったが、非常に不味い。
大鵠がナイフを抜き、それをまた首筋に立てる。首で『物置に入れ』と合図を送ると、大鵠の仲間に連れられ残った人も全員手首を縛られ口にガムテープを貼られ物置に詰め込まれる。そして俺も同じようにされた。
「ごめんね、足刺しちゃって。大丈夫、死にはしないから。それに先生を誤魔化したらちゃんとアフターケアもするから。だから今は大人しくここに入ってて。」
そう言われみんなと同じく物置に閉じ込められた。扉は厳重に閉められ、何人もの生徒が横になっている俺らを見下ろす。『少しでも騒ぎ立てのうものなら容赦はしない』と。
そして次の瞬間複数人の足音が入口から聞こえてきた。
「職員室にこの金属が窓を突き破ってきたが、方向から見てこの教室だと思うのだか何か知らないか?」
この声は……確か教頭か。ダメだ、使えない。
「すみません、自分たちのせいです。自分が生徒会長になったのを祝ってもらっていて、それでついテンションが上がってしまいまして……。えっと、詳しい事情ですよね。一から話すと……えっと、そうですね「あー、今はいい。とりあえず職員室で話を聞く。そうだな、壬生と夏川も来い。他の生徒はそこの窓を片付けなさい。」」
あのジジイまんまと大鵠の罠にハマりやがって。見事に自然と追い出されたな。このままあいつらが帰ったらきっと二度とチャンスはない。何とかして俺たちの存在を知らせないと。




