集いし強者 11
他2人も言葉は若干違うけれど、同じ内容のものだった。昼休みもそこで終了のチャイムが鳴り、そこで解散となった。
「いやー、ごめんね?さっきの今で集まってもらって。......とは言っても全員は集まらなかったか。もしかしたら嫌われてたかな?それなら悲しいな……」
大鵠を真ん中として、そこにいた2年の顔はあんまり覚えていなかったが、恐らく2年の各クラスのリーダーなのだろう。その中には小熊も勿論姿があった。一方の1年は11人。山田だけ姿が見えなかった。その理由までは分からない。
「いないのは山田アリスだけか……声はかけたんでしょうね?」
夏川が一人の男子に問いかける。恐らく山田の担当の人だろう。その人は面倒くさそうに「さぁ?声はかけたけど来るかは知らん。でもやる?」と言う。
やる?とはどういう意味だろうか。何か会議でもするなら結果だけ伝えることも出来よう。それとも全会一致じゃないとできないことでもやるのだろうか。
「いや、構わないよ。無理強いは僕は大嫌いだ。それに彼女はそこまで大切じゃない。」
自分で選んでおいて大切じゃない、とは随分な言いようだな。にしても早く話を進めて欲しい。
「大鵠さん。俺らだって暇じゃねぇんすよ。山田がいなくて構わなきゃ本題入ってもらっていいっすか?」
「ごめんね、禦王殘君。……大丈夫、時間はそう取らせないよ。」
大鵠がそう言うと2年全員が一斉に席を立つ。その顔を見るとどうやら穏やかに済むことではないらしい。1年もそれに対し警戒心を一気に強める。その中で一人笑顔の大鵠を改めて怖いと感じた。
「君ら次第だけどね。」
「……どういう意味だ。」
禦王殘もそれ以上に殺意を剥き出し、先輩としてはもう見ていない。他の1年のノアや明石達も同じように大鵠を睨みつける。
「……どういう意味って、分からない君じゃないでしょ。1年のリーダーほぼ全員が悲しいことにみんな俺の考えに賛同してくれない。どころか俺を陥れようと策謀する始末。悲しいよ、俺は。だからいっぺん分からせるしかないかなって。」
やっぱりバレてないわけなかったか。でも今ここで肉弾戦でもやろうものなら分があるのは多分こっちだと思う。
「……まさか力づくでなんか言わねぇだろ。俺らはそこいらの一般人とは訳違うぞ。……喧嘩は好かないが苦手じゃねぇ。」
「ハハハ!!そんなの分かってるよ!!仮にもここにいる2年は優秀だけど、君らには到底敵わない。……だからしょうがない。」
「あいつさえいればなぁ……」なんて言葉が僅かに聞こえた気がした。
綺麗な指パッチンの音を響かせると勢いよく扉が開いた。……いや開いたわけではなく、勢いよく蹴り飛ばされ教室の端まで吹き飛んだ。
「少しだけお仲間呼ばせてもらったよ。血の気溢れる人から運動神経がいい人まで、しめてたったの90人。ホントは念の為300人くらい呼びたかったんだけど、さすがにそんなに呼んだら先生たちにバレちゃうからね。」
……一体何の冗談だよ。漫画とかじゃないんだぞ。いくら禦王殘とかが喧嘩に強いとは言ってもまんまる10倍の戦力差だぞ。しかもこっちは何人か女子だっている。
「……禦王殘。多分なんだけどさ、まともに戦うより誰かがここから逃げて、先生たちに伝えた方がいいんじゃないか?」
「あいつは、やっぱいねぇか。......あ?ああ、そうだな。本気でやるとなりゃあ救急車は間違いなく呼ぶだろうしな。だがそんなことさせてくれるとは思えねぇ。窓から飛んで逃げれる高さじゃねぇし、大きな音立ててもここじゃ気付かれねだろうし。」
あいつ?まぁ今はそんなの聞いてる暇ないか。
一か所しかない出入口からゾロゾロと二年が入ってくる。文化祭の時に会った橋本とその仲間もいた。何もできない俺達はそのままゆっくりと囲まれていく。考えは巡らせるが全然いい考えが思いつかない。視聴覚室を普段使ってるのは確か声楽部だったけど、確か最近は外錬とかしてたし、そもそもそこまで目が行ってない大鵠ではないだろう。ここから一番近くで活動してんのはどこだったっけか。......いや、二年が所属してるって時点で向こうの味方か。携帯を開かせてくれるような優しい感じじゃないしな。
「大鵠さん。この状況を鑑みるに、殴りあったところで僕らがボコボコにされるのは明らかだ。何か条件があるのならそれを呑みたいと思うのだが。」
鴛海の言う通り、今はその判断が最も正しいと思う。このままやり合ったところでボッコボコにされた後、要求を呑まされるんだ。それならせめて無傷のまま負けを認めよう。
「要求、ね。それは勿論呑んでもらうんだけど、ボコボコにするのは悪いけど確定事項なんだ。だから諦めて。やっぱり後輩に舐められるような先輩ってまずいと思うんだよ。ここは先輩の威厳を見せる時だと思うんだ。」
「ま、だろうね。あなたとは碌な話し合いができるとは思ってなかったよ。......さて、どうするか。」
「希望をなくすようなこと言っちゃ悪いんだけどさ、君らに選択肢はないんじゃないかな?」
「あなたもしつこいな。話し合いにはならないと言ってるでしょう。あなたたちなら尻尾巻いて諦める状況かもしれないけれど、お生憎様、戦ってもいない勝負に清々しく負けを認める生き方を、僕は知らない。」
鴛海の言葉にイラッとしたのか、僅かに大鵠の声のトーンが落ちる。
「さっき負けを認めるって言ったばっかじゃん。」
「そんなこと言った記憶はないな。この先の勝利の為に今は戦いを避けると提案したんだ。安心しろ、先の世界で笑っているのは僕たちだ。」
そんなめちゃくちゃカッコいい事を言うとポケットから何かボールの様なものを取り出す。そしてそれを勢いよく周りの連中に向け投げた。
「おっそ......」
「うるせー!!」
ああ、だめだ終わった。散々煽るだけ煽って結局ボッコボコにされるんだ。




