集いし強者 10
前に大鵠が『3組と10組は期待に応えられなかった』と言っていた。明石はどうやら元々3組のリーダーではないらしく、別の人がなる予定だったらしい。その人に与えられた課題が七不思議の一つの『旧校舎の奴隷』の正体の判明。結果としてその課題は達せられなかったため、他の課題を達成した明石がリーダーとなった。そしてリーダーになれなかったその人は永嶺に代わる生徒会メンバーの予定だったらしい。
つまり全く何をしたわけではないが、それでも間接的に大鵠の計画を俺が阻止したことになってるらしい。......。いやまぁ確かに白花との関係性を誰かに知られては不味いから、本当に慎重に慎重を重ねた結果、ほとんど情報が出回らなかったってのはあったけど、事実として噂になるくらいには広まってしまっているからなぁ。それ俺本当に感謝される謂れなくないか?
「新学期から『徘徊者』が活発化したと聞いたことあるかな?」
「まぁ、噂程度には。」
「それは儂から少し明石殿に頼み事をしててな。3組のもう一人のリーダーが生徒会の新メンバーと予想できてたゆえ、先に明石殿に『旧校舎の奴隷』と接触し、新学期までは活動を控えるよう言伝頼んでおいたのだ。つまり明石殿と元7組リーダー候補の2人が主を探してた、という感じになるな。狐神殿の活動を自粛してもらい、明石殿をリーダーにしたかった。」
結果として二人とも俺と接触することはなかったけれど、もう一人を落とせたからオッケーみたいな感じだろうか。
「というと明石が『徘徊者』なのか?」
「そうなってるな!!雨の日など、衝動的に走りたいと感じ走っていたら教師から注意されたことがあったのだ!!そしたら『旧校舎ならいくら走り回っても構わない』と言われてな!!やはり全力で走れるというのは気持ちがいいぞ!!」
なるほど、この人の運動神経なら白花と一緒に居た時みたいな超スピードの物体の正体と言われても納得できる気がする。......でも先ほどの話で良くないこともあった。
「俺が『旧校舎の奴隷』って知ってるんですね。」
あまりこの人達が口が軽いとは思わないけれど、もし俺と白花の関係性をしているのであればそれは正直まずい。もしそれが世間にバレれば俺は勿論ダメージを受けるが、きっと白花はそんなレベルじゃない。芸能界引退は当然だろう。......それは、嫌だ。
「後でわかったことだがな、確か新学期当日だったと思ったが、明石殿が旧校舎の端の教室にて、色んな嗜虐道具と共に狐神殿が隠れてる様子が見えたそうでな。」
「なるほど。」
あの日か。確かに俺らが一瞬明石の姿が見えたってことは、向こうからも見えてる可能性はあったわけだ。一応隠れたつもりではいたんだけどな。確かあの時は俺の方が隠れたのは遅かったけれど、白花まで見られてたらやばいな......。
「人に見られて恥ずかしい気持ちは分かるが、あまり斯様な場所に一人でいない方がよいぞ。此度の件でよくわかったろうがな。」
「.......はい。」
俺にはそんなマゾヒズムな考えはもっていない。だけど上手く白花の事が誤魔化せているのなら真実は黙っておくしかないか。
しかし話はそこで終わらず、むしろここからが本番のようなものだった。
「大鵠殿が想定していたメンバーがリーダーに選ばれんかったのは少し予想外と思う。しかしそこに保険をかけていないとも思えん。それゆえ儂はこう思う。期限の日に3組のリーダー候補が課題を達せられなくば、他の人を生徒会メンバーとする。つまり課題の達成が明石より遅い者がその人と考える。」
「ていうと俺が知る限りの情報だと1、6、10、12組の誰かってことか。4組は一藤がいるから考えにくいし。」
「儂の知る情報も重ねれば6組の鴛海殿と10組の戌亥殿も除いてよい。さすれば1組の貓俣と12組の山田殿のどちらか、か。」
戌亥と貓俣は前の会議の時には一切話してなかったけど、真面目な印象だった。とはいえ1回会っただけの人達についてこれ以上考えても何も始まらない。
「伽藍堂はある程度の検討はついてるのか?」
「なに!?そうなのか!?ついているのか!?どうなんだ!!」
......この人うるさいんだけど。話し合いとか絶対に向いてないだろ。助けてもらった恩はあるけど素直に好きになれなさそう。
「昔、戌亥殿に尋ねたことがあってな。どうやら貓俣とは幼子からの馴染みらしい。本人同士は互いをライバルと思っているようだが、深く信頼はしてるようだった。『あいつは気に入らないが、絶対に汚い手や曲がった事をしない。』と。」
うわ、めちゃくちゃラブコメやん。幼なじみがいる時点で勝ち組じゃないか。妬むわ。
「となると山田が新生徒会のメンバーか!!ちょっと話を聞いてく「まぁ待たれよ。」」
犬の首輪のように襟を掴む。扱い慣れてんなぁ。大型犬のベテラントレーナーみたいかな。
「狐神殿もそう思うか?」
「......些かわかりやすいな、と。罠っぽい気がしないでもないかと。」
「儂も同じ考えでな。時間があまりないとは言っても、急いては事を仕損じるとも言う。」
「僕もそう思っていた!!」
嘘つけ。
その時同時に3人の携帯が鳴った。それが何を意味しているかは何となくわかる。
『小熊 急で悪いんだけど、今日の放課後時間あるかな?1年のリーダー達も決まったって事で2年のリーダー達と一度顔合わせしようって話なんだけど。もし来れたら視聴覚室に来てほしいな。』