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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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集いし強者 9

「どこに行ったんだろうね、もうすぐ授業終わっちゃうよ。」

狐神の席を視界の端に眺めながら梶山は軽く呟いた。

「バックレたんじゃねぇの?まぁ俺としちゃあプリント回す際水仙と話せるから嬉しいけどな。」

そんな呟きに答える吉永。

けれど二人とも何となくは分かっていた。狐神はひどい扱いを受けていても、どんなにかったるそうにしていても授業はきちんと受けていた。朝からいなければ風邪や寝坊と思うだろうが、この時間になって急に消えた。しかもそれは狐神だけでなく斑咬も同じ。つまりあの二人が何かしているのではないかと。


振りかざされた机は勢いよくぶつかり、凄い音を立てて壊れた。みんなそれを呆然と眺める中、そこに1人の男が入って来た。

「いやはや、これはまた随分と派手にやらかしたなぁ。いくら旧校舎と役目終えた建物であれ、無為に壊してしまっては作り人も悲しかろう。」

扉を入って来た、もとい、扉だったものをくぐって来た伽藍堂がそう言った。そして俺が頭を殴られる直前、扉を破壊して何者かが入って来た。因みに俺はその何者かに寸前で助けられ担がれている。

「すまない!!!できれば三回ノックした後で「入っていい」と許可が出され後に入る予定だったのだが、緊迫した様子だったのでつい!!反省はしている!!すまない!!」

うるさいうるさい。誰だっけこの人。あー、ダメだ。全然頭が回らない。確かこの前のリーダー会議の時に見かけたような気はしたんだが、やばかったような感じだったからあんまり見なかったんだ。

2人の乱入により雰囲気は一気に変わる。どんなに馬鹿な斑咬にだって分かるだろう。『少なくてもこいつらは俺の味方じゃない』と。

「そうそう、先ほど主が言っておった『みんなの総意』の中に儂とその男は入っておらんぞ。付け加えて言わせてもらえばそれはサンプルセレクションバイアス、観測選択効果、というものだな。標本を作為的に選んではいかんぞ。」

そんなよくわからん話、今はいい。

「すまん、あなたの名前は分からないけど、助かった。多分クラスリーダーだろうけど、どうしてここにいるんだ?何で俺なんかを助ける?」

「失礼した!!自己紹介がまだだったな!!僕は1年3組明石焔と言う!!以後よろしく頼む!!質問に答えよう!!僕は伽藍堂に呼ばれたから来ただけで状況は全く分からない!!」

「......おい、おいおいおい!!扉ぶち破って勝手に話してんじゃねぇよ!!わかんねぇなら教えてやるよ、今の状況。ぶちのめされたくなかったらとっとと失せろ!」

いつ間にか他の連中も椅子や金属のパイプのような物を携えていた。目撃者が現れてしまった以上、もう黙らせる他ないと思ったのか、随分と短絡的である。

「これは困った。儂らは軋轢(あつれき)は好まぬ。主らの行動も他言する気はない。だから狐神殿だけ渡してはくれまいか?」

「あーいいよ、なんて言うわけないだろ。見られちまったもんはしゃねぇ。どこの誰か知らねぇが悪く思うなよ。やれ!てめぇら!!」

高らかに叫ぶとそれに応えるように周りの連中も叫び、俺を担ぐ明石と伽藍堂に襲いかかってきた。

「すまない、明石殿。面倒事に巻き込む。」

「ハッハッハ!!構わないさ!!」

俺が「降ろして」と言うより早く、一人が殴りかかってきた。しかし振り下ろされた金属の棒を明石が簡単に掴むと器用に肘で棒を絡めとるようにして相手の手から奪う。そしてそれをを片手に素早く身を翻すと反対から襲ってきた男の金属棒を防ぐ。その相手が手が痺れた一瞬の隙に棒から手を離すと素早く三発の拳が腹にめり込む。そしてその相手が倒れる前にまた後ろから襲ってきた男を回し蹴りで吹っ飛ばした。残り一人は2人がやられたのを見て勝てないと判断し、すかさず廊下へ逃げていった。伽藍堂の方を見ると向こうももう終わった感じでなんなら明石の戦いっぷりに拍手までする余裕っぷり。

「......つよ。」

結構な大柄な相手だったにも関わらず、しかも明石に至っては俺を担ぎながらで2人も相手取った。確かに明石もそれなりにガタイはいいが、それでもすごい運動能力だ。

「......この程度、あの人に比べれば全然だ。」

そんな小さな言葉が明石から聞こえた。小さな声でも話せるんじゃないかと突っ込みを入れようとも思ったが、それは俺などに向けられた言葉ではなく、独り言のように聞こえたので反応はしなかった。

「......して、残すは主一人のようだがどうする?向かってくるようであれば気は進まんが相手させてもらうが。」

「じょ、冗談じゃねぇよ!!このバケモノ共め!!」

斑咬は捨て台詞を吐くと急いで部屋から出ていった。とりあえずは身の危険は去ったのかな。......あ、だめだ。気抜いたら意識が......。


次に目を覚ました時はよく見知った保健室の天井だった。時計を確認するとあれから1時間くらい眠ってしまっていたらしい。状況は何となく分かっていたので、真弓先生に一言お礼を言うと教室に戻った。

昼休みにでも伽藍堂と明石にお礼を言いに行こうと考えていると、それより先に2人の方からこちらに来てくれた。そういえば2人は俺に要件があるといって助けてくれたんだった。

「さっきは助けてくれてありがとう。本当に助かった。」

「気にする必要は一切ないぞ!!むしろ僕の方が君に感謝を伝えたかったんだ!!」

「儂も右に同じでな、あの時に狐神殿を助けられて本当に良かった。」

俺なんかしたっけ?


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