集いし強者 8
いつもと違う通学路を行けばいつもと違う事があると思ったが、別段そんなことはなかった。ただ無駄に時間を浪費しただけ。
授業はいつもと変わらず、のんびりとした先生の言葉が子守唄に聞こえてくる。
水仙とはあれ以降話していない。元より仲良くなろうとは思ってないから構わないけれど、後ろの席にいると正直気まずい。遠井先生はもう席替えなんて考えてもいない様子で、生徒もある程度自由に席を移動している。休み時間ともなればみんな活発になり、京も後ろの水仙と話している。
「友達になりたい人がいるの?」
「......うん。」
「それはすごい進展だよ!因みに誰か教えてくれたりするのかな。」
「......ちょっと......特別な人で......」
「特別って、そういうこと?」
「え??......あ!違うの!そうじゃなくて......その......」
そういやチア部にいる理由もそこら辺かななんて予想したこともあったな。応援は別にしないけどあの人間恐怖症レベルのをどうやって克服するのか見物だな。
「......えと、すごい優しい......女の人で。話しててすごい楽しくて......けど、本当は......男の人で。.......女装、してたらしくて......」
こっちかよ。
「......女装とかは、その、ね、個性だからね。トランスジェンダーとかも、今は認知されてるから。でも、そうだね、ちょっと複雑、かも。」
ここで「あれは俺の意向ではない」と否定したところで自分から死ににいくだけ。しかしこのままではあの馬鹿が水仙に言わないとも限らない。
とりあえず今、水仙が後ろを向いて、それに向かい合う京から俺の背中を見てるはず。そのため俺が振り返っても水仙からはバレない。ゆっくりと振り返る。
なに今更「あっ!!やっば!!」みたいな顔してんだよ。聞こえないわけないだろ。それとも単純に俺の影が薄くて忘れてただけか。それならしゃあない。
『それ以上話すな。話題を逸らせ。』とフリップのように提示してみる。
「......あ、でも......やっぱり、迷惑だよね?......こういう話......めんどくさいもんね。」
それはミスチョイスだ。話題を逸らそうとしてるのは分かるけど、そんな言い方すれば余計協力することなんて目に見えてるだろ。
「めんどくさいなんて思わないよ。私本当に嬉しいから、是非協力させてほしいな。」
「......美桜ちゃん。ありがとね。」
もういいわ、勝手にしろ。多分この調子なら何をしても無駄だろう。俺の名前を言った時の気まずくなるのは目に見えてる。流れ的に事情もある程度説明してくれるだろうから、俺はトイレにでも行くとしよう。
いつもと違うことがあるとすれば、学校の生徒の態度だ。俺の事を信じてくれたり、噂を信じない人は徐々に増えてきたが、あの演説から一つ冤罪が晴れたと、いい動きを見せる俺をよく思わない人も多くいる。......例えばこいつとかか。
「よぉ、狐神。ちょっといいか?」
「無理。話したくも......わったよ。ついてきゃいんだろ。」
斑咬の誘いを断ろうとしたが、その直後に大柄な生徒数人に囲まれる。確か別クラスの連中だったが名前は覚えてない。断ればどうなるかは考えるまでもないな。
連れてかれた先は旧校舎。まぁ人気のつかない場所といったらここだろうな。
「最近は噂の影響もあってここらには誰も近づかないんだよ。お前を甚振るにはお誂え向きってわけよ。」
「......でもほんとに誰も来ないんだよな?もしこんなところ見られたら。」
「......っせーよ!!平気に決まってんだろ!?それにもし見られたとしても俺は時期生徒会のメンバーだぜ?いくらでも改竄できるっての。」
どうやら他の連中は図体ばかりがでかく、心臓は小さい様子。逃げることも恐らくできないだろう。一応最後の言葉が少し気になったし一応訊いておくか。
「お前が次期生徒会のメンバーなのか?」
「あ?いや逆に俺以外ありえねーだろ。一度はメンバーに加えるか検討したほどだぜ?当然だろ。」
訊いた俺がバカだった。
「よし、いいぞお前ら、好きなだけやれ。」
その声と同時に周りにいた連中がジリジリと躙り寄ってくる。そして斑咬は一人安全地帯へ逃げる。その動きにもう何度かわからない溜息が出る。入って来た扉には2人立ってるから簡単には逃げられないだろうし、寄ってきてるこの5人を相手にできるほど強くもないし。交渉っつったって斑咬レベルの馬鹿相手にできるとは思えないし。
「どうせ正当防衛なんて通用しないよな。どうしたものか......。」
前までだったらこいつらが満足いくまでサンドバットにでもなったろうが、そんなのはもうこりごりだ。
「オラァ!!」
必死に考えを巡らせてる間に1人が殴りかかってくる。何とかそれを避けるも、一人が攻撃したことを機に、他二人も攻撃を始めた。勿論それらを全て躱して、反撃を入れて勝つなんてことできるはずもなく、一発、また一発と重い打撃が体にめり込む。結局これじゃあ前と大して変わっちゃいないか。
何分ぐらい経っただろうか、もう授業はとっくに始まっている時間だろう。しかし別に俺なんかいなくても、むしろ俺がいない方がクラスの連中は気分よく授業を受けられているのだろうか。そう思い始めるころには殴ってきた三人も疲れてしまい、しばしの膠着状態となっている。とはいってもこの状態から逃げれるわけもないが。立ってることだって、もう。
踏ん張る力すら残っておらず、地面に勢いよく倒れこむ。
「......五対一とか......卑怯だろ。」
「大鵠さんの権力を盾にして好き勝手やってるお前が言うかよ。みんな言ってるぜ?どうせ暴力事件も大鵠さんがなんかしてくれたんだろうってな。でももし何かお前に手を出したら大鵠さんが黙ってない。だから俺はそいつらの意思を行動に移してるってわけだ。だから勘違いすんなよ?これは俺個人の憂さ晴らしとかじゃない。みんなの総意だ。みんなの気持ちだ。」
......みんな、か。少なくても瀬田さんや鶴とか梶山とかは望んではいないと思うんだけどな。お前の言うみんなって、自分にとって都合のいい人間だけだろ。それにみんなの総意だとしても、それをお前が代表して、罰することこそ個人的なものだろ。
「......ざっけんなよ、カス野郎。前にも言っただろ。それならてめぇが来いよ。こんないかにも大柄な連中なんて引き連れないで。だからお前は大鵠に捨てられたんだよ。」
「......おい、今なんて言った。随分まだ余裕あるじゃんか、あぁ!?」
怒り狂った斑咬がそこら辺にあった机を持ってくる。そして俺の前まで来ると頭上まで持ち上げ一気に振りかざす。
「今度こそ死ねよ、お前。」