集いし強者 4
「制度自体は悪くない。競争意識は生徒の実力を大いに向上させる。......しかしあまりにもその程度が過剰と言わざるを得ないな、これは。」
兜狩の意見に大部分の人間が同意を示す。俺もそれには同意だ。例えばテストの結果が返ってきて『60点』とだけ書いてあれば「おっと?」で済むけれど、『600人中592位。偏差値29.5』などと書いてあれば流石に焦る。
「テスト毎にクラスを変えるのは意見の分かれる所だが大きな問題ではない。勉強以外でも様々な事が評価対象なのはむしろ良い点だと思う。だが何よりも『優秀なクラスにはあらゆる特権が与えられ、劣等なクラスには学校においてあらゆる権利が剥奪される。毎年最も劣っているクラス全員を退学とする。』こればかりは否定されて当然のものだと思う。」
「その与えれる特権と奪われる権利というのを、少し儂も聞いたことがある。その時ぱっと考えた物らしいが、与えられる特権は『学校に於けるあらゆる問題の抹消』『授業料、学食の無料化』。奪われる権利としては『上位クラスからの命令に対する拒否権』『自由に会話を行う事』『いかなる事情があれ、学校を休むこと』。随分なものだったな。」
学校に於けるあらゆる問題の抹消、上位クラスからの命令に対する拒否権。この二つが確立されれば本当にまずい。完全なる奴隷制度の完成だ。最悪最上位でない上のクラスに何かされれば拒否権こそないが、訴えることはできる。それが最低限の抑止力に繋がる。けれどそれすらも抹消されてしまったら、最早人としての最低限としてのものさえ失ってしまう。
もしこの制度が確立され、執行されたのなら、ここにいるリーダーたちは一番上のクラスに配属されることが決定されている。もし一番上のクラスに配属されればまさに夢のような生活が待っているだろう。けれど彼らだって大鵠の独断だが、クラスのリーダー的ポジションだ。そんな選択はしないと信じたいが。
「確か2組、6組、12組は大鵠さんに意見して話し合ってわかってくれたって聞いたんだけど。そこんとこどうなんだ。」
俺の言葉を受け、そのクラスリーダー達に視線が集まる。
「ああ、確かにあの男と話し合い、ちゃんと理解した。」
そう言って席を立ったのは俺のすぐ隣に座った6組の鴛海育実だった。彼女は一際身長がとても小さく、椅子に座ってる俺らとほとんど変わらない身長だった。
「......残念だが、あの男とは碌な話し合いにならないということがわかった。話合い、というよりひたすら言葉をぶつけられ続けた。それならば一度「分かりました」と言っておいたほうがずっと楽だったな。勿論賛同はしていない。」
多分今俺以外の人間からは、俺が腹話術をしているように見えているだろう。本人は気づいてないのか、どや顔なんかしちゃってるし。ここは優しさで前に行った方がいいと教えてあげるべきか。
「......ここにいんだよ!!」
本人もそれを察したらしく、机の上に身を乗り上げる。だが悲しいかな、それでも教壇に立つ禦王殘よりも身長が小さいとわかってしまう。身長140センチくらいなのだろうか、本当に同い年か?
「まぁまぁ、そうかっかするでない。幼きお嬢さんや。」
「喧嘩売ってんのか!!このジジイ!!」
「本当に血気盛んで結構。元気な子は未来を明るくするからの。「あぁ!?」......して、兜狩殿と山田殿も同じ意見ととってよろしいか?」
その問いに対し2人は無言で頷いた。山田は12組らしいが、俺も今初めてこいつの事を知った。なんというか、名前は随分と可愛い感じだが、顔は全然そっちとは対極にあるな。なんか、怒ってるのかな?
「単刀直入に訊く。」
低く響いた禦王殘の声にみんなが一斉に視線を向ける。
「大鵠の考えに反対で、生徒会長の座から降ろしてぇと考えてる奴、手ぇあげろ。」
結果は一目瞭然だった。手を挙げたのは俺1人だった。
「え」
マジすか。
「......なるほど、お前はそれでいいってか、狐神。」
いやだってあの人が本格的に動き出したら不味いじゃん。みんなもそれはよくないって流れだったんじゃないの。それとも結局はみんなビビってんのか?
「狐神、やるからには徹底的にやりましょ?」
「ごめん、ノア。分かるようにお願いします。」
「向こうは勝手な制度作って、何人もの生徒を退学にしようとして、何百人もの生徒を奴隷のように扱おうと考えてるのよ?そんな人を生徒会長の座から降ろすだけなんて全然足りないわ。」
......あ、なるほどね。そういうこと。流石はこの学校のクラスリーダーに相応しい連中だわ。飽くなき欲求が強さの理由って訳ね。
いいね、これで『更生して仲直り』みたいな展開だったら吐き気催す。こっちだって散々やられたんだ。全力でやり返してやる。
「じゃあやるこたぁ決まったな。全力であいつをぶっ潰して、この学校から追い出す。」




