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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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集いし強者

……多分この引きこもり生活の事言ってんだろうな。さて、なんて答えたものか。『正直に』と言われている以上、嘘を吐くのはよくない。でも何を言われても耐えうるメンタルを此方が持っているとは思えない。難しい線引きだな。

「……母さんはなんて言ってたんだ?」

「私より彼方の方がいいんじゃないかって。」

確かにな。母さんが此方を大切にしてないとかそう言う問題じゃなく、単純に過ごす時間の差だろう。そればっかりはどうにもならない。

「……此方の生活は、大部分の学生とは違うと思う。それはお前も自覚があるだろ。じゃなきゃ自分からこんな話題振らないだろうし。」

「……まぁ、そうね。」

「その上で、俺がお前をどう思ってるか。……そうだな、別にいいんじゃないか?」

別にふざけてなんかいない。至って真面目な結論だ。

此方から『なんで?』という目線が来たので言葉を続ける。

「俺はダメな人間だから、別にやりたくないことはやらなくていいと思うし、学校にも行きたくなきゃ行かなくていいと思う。」

「……でもそれって結局嫌なもんから逃げてるだけじゃん。」

「そう思えてる時点でお前はダメじゃないだろ。」

「だからって良いわけない。……こんなの迷惑でしか「誰がそんな事いった?」」

いかんいかん、冷静にならなくては。つい割り込んでしまった。

「一度だって、お前に対して迷惑だなんて思ったことはない。俺も、父さんも母さんも。絶対に。」

此方が自分を否定してしまうのなら、俺や、周りの人間がそれ以上に肯定と共感をしてやる。そうじゃないと此方はいつまで経っても自分を認められず、さらに殻に篭ってしまう。

「周りの人間とか、ネットの声とかで不安になる気持ちは分かる。でもさ、その言葉は俺や母さんの言葉より大切なのか?」

「……違う、けどさ……今この時も、励ましてもらってんのが、情けなくて……」

「情けないなんて言うなよ。やっと兄らしい事ができて俺は嬉しいんだから。」

「……キモいわ、ばか。」

口ではそんなことを言いつつも、涙は止められなかったらしい。今まで此方がどんな気持ちで部屋にいたのかは俺には全く分からないけれど、苦しんでいたくらいはよく分かる。『待っててあげた』なんて思わない。俺には此方に何をしてあげられるのか分からなかっただけだ。だから今こうして俺の前で泣いてくれていることに少しの安堵を覚えている。

此方の頭を撫でてみる。母さんみたいに出来ているかは分からないけれど。

「その涙は此方が進んでいる証だ。困難にぶつかったから、それをなかなか乗り越えられなくて溢れてきたものだ。……周りの歩幅なんて気にすんな。歩いていれば、いつか目的地に着けるさ。」

「え、今のカッコイイって思ってんの?」

やめろ、シンプルに傷つく。


しばらく泣いた後、此方は一冊の本を持ってきた。

「まぁ……なんつーか、あれよ。いい加減ゲームには飽きてきた的な。そろそろ本気だすかみたいな。」

その本は近くの高校が載った本だった。ページを捲るといくつか付箋が付いており、その中でも一際シワが多いものを見つけた。

偏差値、校風、人数どれをとっても普通の高校だった。欠席日数についての記載には『面接にて本人の意思を確認した後審議とする』と書いてあった。そこは本人に頑張ってもらうしかない。今の此方には普通の高校というのがとても合っているものだと思う。だからといってそれに染まれとは思わない。普通、標準、平凡、それらを知った上で、個性というものを磨いていって欲しい。

「ま、普通に応援くらいはしてやるよ。」

「受かったら何かプレゼント用意よろしく。」

「おう、母さんと父さんと買いに行こう。」


そしてようやく来たる新学期。3年生は受験に向けてラストスパート。どうやら春風さんも瀬田さんも大学進学らしく、二人ともボチボチ勉強を頑張っているそう。元から頭はよかったから心配はしてないが。

そんな中俺らのクラスはどんよりとした空気が流れていた。その原因は勿論五十嵐にある。事実五十嵐は教室で一人ぼっちだった。そして俺が入るとまた違う空気となる。演説の際、冤罪と高らかに公言してその一つがこうして証明されたのだ。みんなからは何とも言えない視線が集まる。

……これを機に痴漢の冤罪をばらすのもありか?

そもそも俺が痴漢の件を黙っているのは此方の事を勘づかれたくないからだ。けれど今となっては白花や大鵠、斑咬と何人かは知っている以上、あまり口封じも意味が無い。そのため寧ろ俺の冤罪が晴れた方がメリットが大きいように思える。それに此方の昨日の様子からも、豆腐メンタルは卒業出来たかな。もし仮に街中で何か言われても耐えうる心は持ってそう。

......いや、やめとくか。恐らく先生と俺、水仙、淀川を集めて話合ったら冤罪は証明できるとは思う。水仙は確かに淀川を脅迫とかしたり、俺への冤罪を無視したがあまり怒られはしないだろう。脅迫といっても事実なにもしてないのだし、事を知っていたのに冤罪と言わなかったのも、「怖くてそれどころではなかった」などと言っておけばいいだろうし。でもそこから淀川の動きが読めない。すごい雑魚臭漂ってはいるんだが、人脈はあるし、そういう弱い人間ほど吹っ切れてヤバイこと起こすこともあるし。......あとは単純に此方には受験勉強に集中してもらいたいしな。

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