犯人の知らない事件 17
「なんか言ったか?」
「いえ、ただもし神様がいるのなら、こんな可哀想な俺を1回くらい救ってくれるのではないかと。」
当然神様なんて都合のいい存在は信じてない。神頼みなんてもってのほかだ。それでも自分がもしできることがなければ、友達を頼るのが普通なんだろうな。
窓辺に寄ると勢いよく窓を開ける。今日はとても風が強く、一気に教室内に流れ込む。
「けど一つだけ。京は苦しんでたぞ。」
窓の縁に体を預け、格好をつけてみる。
「他人の心配かよ。余裕ですってか。負けた時死ぬほどダサ……」
「あっ……」
安川が胸元からスタンガンを出した直後、突如として目の前の2人が倒れ込む。見ると首元と肩の当たりに何か刺さってはいるが、呼吸しているあたり、ただ眠っているだけらしい。そして改めて2人を見る。
「……どういうこと?」
直後、領さん含む2,3人の先生が教室に入ってきた。勿論先生など呼んではいない。
「……どげんなっとん?」
「どういうことかわかる?鶴?」
「……多分。」
場所は変わって会議室。前の春風さんの時と同じくコーヒーを全員に出してもらった。その面子は先程の先生共、領さん、鶴、安川、五十嵐、そして何故だか京と小淵までいる。いやほんと最後のはなんなんだ。
確かに鶴には声をかけた。一応作戦として『向かいの教室から証拠写真を撮りたい』と。けれどそれは五十嵐にカーテンを閉められた時点で無駄だと思った。だから最後の賭けとして、窓を勢いよく開けて、あの2人が怯んでいる間に鶴に写真を撮ってもらおうと思った。丁度その時に安川がスタンガンなどで襲ってきてるところなど撮れたら大勝利だったが。
「じゃあまず、今回の中心人物となる狐神君から話を聞こうかな。」
領さんからそう話を振られた。中心人物なんて言われたが、俺にも分からないことが多すぎる。
「今日は5月頃に起きた暴力事件の解決をしようとしてました。犯人はこの2人だと分かっていたので、2人を呼んで、『口封じ』とかいって襲ってきたところを向かいの教室に呼んだ鶴に写真でも撮ってもらおうと考えてて……。すみません、それ以上の事は分からないです。」
この直後、なんでこの2人があの暴力事件の犯人なのか説明をして欲しいと言われたので話させてもらった。領さんの手前、先生共も下らない言葉は挟まず聞いていた。俺が話を終えると領さんが2人に確認を取った。2人は黙っていたが、それが肯定を意味するのは言うまでもない。
「じゃあ次は蓬莱殿さんから話を聞かせてもらおうかな。」
「……最初に狐神君の作戦は確実に失敗すると思ってました。」
「鶴さん?」
「……別の作戦は思いつきました。でもそれを伝えてもきっと狐神君は足枷になると思ったので、作戦に乗ったつもりで何一つ狐神君の話は聞いてませんでした。」
「鶴さん?」
「……考えたのは安川さんがスタンガンを出したところで、向かいの教室から狙撃することでした。指紋でも調べれば安川さんのしか出ないと思ったけどからです。窓は閉めることは予想出来てましたが、最悪窓が割れちゃったら狐神君のせいにしようと……」
「鶴さん?」
「……カーテンが閉められること、そしてとても強く風が吹いていることは正直運次第のところはあり、案の定悪い方へ転がりました。だから彼に手伝ってもらうことにしました。」
そこですごい大きなため息を吐く小淵。
「運動部対生徒会ん時、負けた方が命令ひとつ聞くなんて約束しちまったんだよ。絶対勝てると思ったからな。それで今回は泣く泣くこれなんかの為に使われたってわけ。」
人指さしてこれとか言うな。なるほど、こいつがタダで働くわけないとは思っていたがそういう事か。
「にしても無理難題すぎるわ。カーテンは閉まってるから中の動きは全く読めねぇし、そもそもカーテンが開く保証なんてないし、仮に開いたらこの強風の中、男の首筋狙って撃てとか。ま、それでもやっちまうのが俺なんだが。」
……いや、普通にそれやばくないか?知ってはいると思うが俺が窓を開けたのは完全に俺の意思だぞ。それに距離もそれなりにある。どんな集中力と動体視力してんだよ。
「ま、俺の話すことはもうないから帰らせてもらいますわ。いいですよね?」
「そうだね。もう大丈夫だよ。」
小渕はそのまま扉に向かった。でもその顔は少し悔しそうに見えた。その理由は想像出来る。安川が撃たれた痕は首筋というより、肩に近い位置だった。それに比べが五十嵐が撃たれた痕は見事に首筋の血管に刺さっていた。恐らく安川を撃ったのが小渕、五十嵐を撃ったのが鶴だろう。
「小渕。」
「あ?」
こいつなんかに助けられたことは気に入らない。それにあくまでここに来たのは鶴との約束を守るため。決して俺のためではない。
「俺はお前のことが大っ嫌いだ。いつも蔑んだ目で見てきて人として扱おうともしない。正直人としてどうかと思う。」
「……喧嘩売ってんのか?」
「……だけど、今日だけは正直めちゃくちゃ助かった。ありがとう。」
非常に遺憾だが、紛れもない事実だ。鶴だけしかいなかったら狙撃がどうなっていたか分からなかった。相手にその気持ちはなくても、助けられたのならきちんと伝えておくべきだ。
「……やめろ、そういうの。俺はこの女との約束を果たしただけだ。それだけだ。」
そう言うと今度こそ扉を開けて去っていった。