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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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犯人の知らない事件 16

「お前が宇野を嫌う理由を探してみた。少なくても6月ごろにはそれは始まっていた。クラスではまだイベントみたいなものもなく、みんな高校生活を過ごす中で慎重に立ち回っていた。大部分は可能な限り良い人を演じつつ、誰が友達になり得るか審査していた。俺みたいなのがいたわけだ。普通なら5月とかそこらへんで警戒が解かれるのが普通だろうがな。宇野もその例に漏れず、クラスでもふつーにいい生徒だった。じゃあ考えられるのは部活のほうだな。」

五十嵐の顔により一層凄みがかる。挑発した方がうっかり口を滑らしてくれたりするのかな。

「なんと?宇野君は?野球が?めちゃくちゃ上手かった。全国トップクラスのこの高校でも入部してすぐトップ層になりました。完全実力主義の野球部では元々決まっていた3年を押しのけ、見事スタメンに入ったのです!!……正確には発表されるまでは確実じゃない。けど発表なんてされずともみんな分かってたんだ。動機はそこだろうな。」

確か宇野の他にもう1人1年がスタメン入りした。つまり2人の2、3年が抜けたということ。その1人はよく知る人物だった。

……確かに今まで努力してきてようやく掴んだ最終試合。それが急に現れた一年に取られる気持ちは想像に固くない。だからってそれを赤の他人である俺にぶつけたのは許せない。そして冤罪を被せ、あまつさえトドメと言わんばかりに文化祭泥棒として俺を追い出し、きっと宇野にも五十嵐を利用して心に残るような酷い振り方を用意してあるのだろう。

そもそも高校生が易々とスタンガンなど買えるものか。人を気絶させられるほどのものを。だけど持っている人がいれば借りればいい。それが彼氏なら簡単だろ。初対面から随分な嫌われようだとは思っていたが、一方的な関わりはあったわけだ。

「実行犯はお前、五十嵐。そして首謀犯はお前の彼氏でもある3年、安川だな。」


どうやら五十嵐は大層なメンヘラ気質があるらしく、彼に言われた命令なら何でもしてしまうそう。依存されることに悦びを見出すらしい。

廊下の方から突如拍手が聞こえ始める。どこかで聞いているんだろうな、くらいは予想できる事なのでとっとと出てきて欲しい。時間の無駄だ。

「久しぶりだな、狐神。相変わらず生意気な顔で安心したよ。」

「文化祭の時は白花にゾッコンだったあなたが実は五十嵐ともいい感じだったとは驚かされましたよ、どうすればそんなクズになれるんですか?」

もう二度とろくに関わらないと思ってた。けれど確かに時間軸としてはこちらの件の方がずっと先だ。ならば事件を解決しようと思えば会うのは必然だったのか。

苛立ちを顔に浮かべ、片手に例のスタンガンを持つ安川に「二度と浮気しないって誓ってくれましたよね?」と五十嵐が近づく。その顔に少しつったような笑みを浮かべる。なるほど、主導権はどうやら彼女にあるらしい。

「それでどうする気だ?今回は前と違いあんな狡猾な手は使えないぞ。だがらと言ってお前の言葉など誰が信じるかという話だ。」

それなんだよな。それを考えているが実際何も考えが浮かばないから困った。携帯も取られてしまっているし、誰かが偶然見つけてくれる可能性もかなり低い。そしてその人が俺の味方をしてくれるなどどれほどの可能性だろうか。けれど強がりくらいは言っておかないと。弱気になっては負けだ。

「その前に一つだけ聞かせて下さい。事件を見てしまった京に黙ってろと言ったのは五十嵐、事件解決に向け俺の動きを封じようと京を利用したのは安川さん。……彼女になんか思うことはなかったんですか?」

「なんでそんなこと今関係あるの?「いいから答えろよ。」」

別に大した意味のある質問ではない。これで何か変わる訳では無い。ただ純粋に気になっただけ。これであいつがどんな悪口を言われようと俺は痛くも痒くもない。ありえないとも思うが、申し訳ないという言葉が出てきても特に感情が揺れることは一切ないだろう。

「……そういえばそんな子いたわね。すっかり忘れてたわ。確か気は弱そうだったくらいしか覚えてないわね。」

「……あぁ、あの可愛い女の子か。確かにお前に好かれてるとか言ってまたお前の立場悪くしようと思ってたな。……他なんかあったっけ?」

態度を見るに、ろくに京の事を覚えていない様子。それに対して別に怒ったりはしない。大体イジメなどはそんなものだ。やられてる方は一生残るような傷でも、やってる方は直ぐに忘れる。それを今糾弾したからといって何が変わるとも思えない。

「もういいでしょ?どうだった、探偵ごっこは楽しかった?」

「あぁ、ミステリーや謎解きとかは嫌いじゃない。後は犯人の無様な顔が見れれば大満足だな。」

どうせ事件になったら事の次第を説明するんだ。そうすればなんでこの2人が俺と一緒にいたか当然訊かれる。俺なんかに呼ばれて応じる理由は普通ない。つまり呼ばれたからにはそれに応える大層な理由があると言える。逆に俺の嫌われようを利用できる。それをすぐに思いつき、二人の間で答えを一致させることは難しいだろう。そこで俺が領さんに本当の事を話す。そうすればきっと2人は罰せられるだろう。

正直こんな上手くいくとは思ってない。ただの願望でしかない。きっとこの期待は裏切られる。そう思った方がずっと楽だ。

「……不幸になる当然の道理がある連中、か。」


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