犯人の知らない事件 15
問題はどうやってこれを生徒に広めるか、そして信じさせるか。やはり真っ先に考えたのは白花を利用することだった。何よりも知名度とそれに比例する信頼をあいつは持っている。あいつは今、年始めということもあって特に忙しい様子だが、例えば俺が隠しカメラで一部始終を撮影しそれを白花に送信、あいつがSNSに一言でも添えて送信すれば勝ちルート確定。
「は?嫌よ。メリットがないもの。」
「そこを何とか。お願いしますなんでもしますから。」
「今でさえあんた私の命令に逆らえなのにそのお願いは意味ないでしょ。それに私が手伝ったらつまんないじゃない。」
......殺生な。
「待たせたわね。」
結局ろくな考えなど浮かばず、とりあえず遠くから小さいカメラで録画しつつ、ポケットにも携帯で録音してみた。もう一つ策は練ったが上手くいくかどうか。
「ほんとだよ、30分くらいオーバーしてんぞ。」
「知らないわよそんなこと。むしろここに来てあげただけ感謝しなさい。というよりなんでここの部屋こんな寒いの。暖房ぐらいつけときなさい、気が回らないわね。」
「......随分と威勢がいいな、五十嵐。お前今自分がどんな状況に置かれてんのかわかってんのか?」
教室の暖房のスイッチを入れると、そのまま俺を無視し窓とカーテンを全て閉める。そして後ろのロッカーを眺め、やがて何かを見つけると俺の目の前にそれを見せる。
「状況ってこうやって狡い手使って女の子の弱みを握ろうとしてること?わかってるわよそのくらい。本当に気持ち悪い。どうせポケットとかにも何か隠してんでしょ?......出しなさい。」
「んなもんもってねぇ「出しなさい」」
ポケットを強引に弄られ、すぐに携帯も取られた。そして素早い動作で電源を落とされると、自分のスカートのポケットに突っ込む。
「勘違いしないでほしいのだけれど、私が今ここにいるのは私の善意からということを忘れないで......もし次変なことしたら帰るから。」
すごい悔しいけれど確かに俺がこいつを足止めできるものはないに等しい。俺が仮に真実を全校生徒に暴露しようともそれが信じられるとは思えない。決定的な証拠を掴みたかったけれど、今は事件の全容を明らかにするので精一杯か。
「......わかった。じゃあ本題に入る。まずあの野球部暴力事件の犯人はお前だな?仮にもお前は野球部のマネージャーという立場だ。部室に入るなんてのは造作もないだろう。その後、被害者一人ひとりを部室に呼びスタンガンで気絶、その後暴行って流れだろ。どうやって呼んだかは別に大切じゃない。まぁ多分大会前だったから、スタメン一人ひとりに渡したいものがありますとかそんなんじゃないのか?」
「へぇ。」
別にここまでは誰でも少し考えればわかるような事ばかりだ。それにこいつを揺さぶるような重要な証拠なんて一つもない。でもまだ手はある。
「でも何で私がそんな事する必要があるの?そんなに部活が嫌ならやめればいいじゃない。それにそもそも宇野君も被害者の一人にいるのよ?彼氏にそんなことすると思ってんの?」
そこが分からなかった。どうして仮にも彼氏を襲ったのか。確かに事件当時は恋人ではなかった。しかし少なくても半年もしないうちに付き合うんだ。襲う対象になるとはかなり考えにくい。
「でもヒントだけあげるわ。」
昨日白花との電話終了間際、そう言われた。
「ヒント?」
「どうせ碌な恋愛経験なんかないんでしょう?あんたの腐った眼には見えなかったことよ。......宇野と五十嵐が合宿の時カップルになった時、なんであんたの頭ひっぱたいたかわかる?」
「?いつも通り気が触れたんじゃないのか?」
「......あんたがあんなのを告白と取ったからよ。本当の告白ってのはあんな綺麗なものじゃないわ。」
『必死に言葉考えて、でもいざ目の前にしちゃうと頭が真っ白になって、顔真っ赤にして言葉もろくにまとまらないで変な仕草まで出ちゃって目が泳いで......。そんな不格好にでも自分の思いを打ち明けてくれる姿に心は動かされるのよ。』
いつもなら皮肉の一つでも呟いているところだが、この言葉には何一つとして言い返せなかった。確かに思えばあれはとてもきれいな告白だったと思う。星が降り注ぎそうな空の下、好きな人と2人っきりで、綺麗な言葉で紡がれた告白をし、2人静かに抱き合う。うん、まさしく理想的な最高の告白だ。
「五十嵐、お前が宇野を好きじゃないことは見る人が見れば一発で分かるらしい。どころかお前、実際めちゃくちゃ嫌いだろ、あいつの事。」
この言葉でようやく俺を見てくれた。残念ながらそれは恋するような乙女の視線ではなく、ただただ憎悪と苛立ちからくるようなものだった。そんな視線を向けられるとついにやけてしまう。少しずつでも追い込めているのだと確信できるから。
さて、一気に攻めさせてもらうぞ。




