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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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犯人の知らない事件 14

「失望、ですか。」

自然と目付きが厳しくなる。

「あぁ。だってそうだろ。自分の目的のために人の気持ちを考えず、あまつさえそいつを傷つけてまで本懐を達する。大鵠と何が違う?」

......随分な言い様だな。俺とあの人なんかをくらべないで欲しい。どれだけ俺があの人に苦しめられているか、知らない瀬田さんではあるまいでしょう。

「あの人のは遊びでしょう。悪いですけど俺にはそんな余裕ないんです。守らなきゃいけないものだってあるんです。」

「ほら、人の気持ちを考えてない。それっぽい道理があればいいのか?確かにあいつは見た感じ遊んでいるようにしか見えない。......でもな、見てるものだけで判断するなよ。例え遊びだとしても、本気でやってる奴だっているんだ。」

じゃあなんだ?実はあの人も根はいい人で仕方なくああやって演じていると?なんだその一昔前の漫画みたいな設定は。現実にはどうしようもない屑が沢山いるんだよ。

「なぁ狐神、昨日京はどんな顔して帰った?笑ってたか?楽しそうだったか?確かその子はすごい顔に出るってお前言ってたもんな。......どんな顔してお前と話してた。」

「あ......」

......見なかった。見ようともしなかった。俺の中で敵と定まってしまってからは何も。......馬鹿だ、俺。京がいつ向こうに加担してるなんて言った。いつそんな顔をした。俺が思いつくくらい簡単な事だったんだ。事の全てを知ってるあいつは既に犯人に脅されてるかもしれない。『この事を言えば容赦しない』なんて言われてるかもしれない。......俺はその上から更に脅迫しようとしていたのか。

「......きっとお前の考えてることもあくまで可能性でしかない。人との関係性の難しさって言葉と気持ちが必ずしも一致してる訳じゃないところだろ。本心で全て語るって簡単そうで実際めちゃくちゃ難しいからな。」

......はー、ほんと嫌になる。なんで俺はこう馬鹿なのか。なんで優しさとか善意とかを全力で疑って、都合の悪いことだけ鵜呑みにしてんだよ。どうせなら全部疑えよ。その中から本物を見つけ出そうと努力ぐらいして見せろよ。馬鹿でろくに頭も回らない俺には丁度いい泥臭さだろうが。

「......瀬田さん、本当にごめんなさい。ちょっと用事ができたので失礼します。」

いても立っても居られなくて席を立った。

「今度は間違えんなよ。」

「はい、ありがとうございました。」

荷物を急いでまとめると全速力で走った。


チア部は今日から部活があるらしく、京もその中にいた。練習をずっと眺めていたがやはり変装した姿だと全然騒がれることは無かった。やがて京がこちらに気づき向かってきてくれた。

「ご、ごめんね。何の連絡もなしに尋ねてきて。どうしても話したいことがあって。」

ろくに何を話すか決めてなかったせいで言葉があやふやになる。そんな言葉を探していると、京が急に頭を下げてきた。

「...めんなさ...たし、...のう...嘘...ついて...。話...したい...です。」

部活の方は午前練らしく、時計を見るともうすぐ正午だった。部活直後だろうしということで購買で飲み物でも買って京を待った。

部活が終わり、俺と京は1年7組に移動した。外ではいくつかの部活が始まってるらしく、威勢のいい声が響いていた。こんな寒空の中よくそんな動こうと思えるものだ。

「えと、最初に京ちゃんの話を聞いてもいいかな?」

俺は梶山の席に座り、後ろにを向き京にも席についてもらうよう仰ぐ。京は一礼すると自分の席に座った。しかし話題の切り出しが難しいらしく、そこは俺からした。

「……多分だけど、あの日本当は1人で練習してたんじゃないかな。努力家で真面目な京ちゃんのことだもん。」

まるで豆鉄砲を食らったような顔をしている。まぁそりゃあスケジュール帳を見させてもらったしな。間違えようがない。

「……そう……です。……でも……えと、それだけ……じゃなくて……」

そこでまた黙ってしまった。けれど言わんとしてることはわかる。ここで俺が代弁しても構わないのだけれど、それは何か違う気がする。

「……大丈夫、ずっと待ってるから。」

何だか此方を思い出すな。必死に何か伝えようとして、でも上手く言葉に出来なくて。子どもの頃の俺はそれに何だかイラついて「もういい」なんてどこか行こうとしたけれど、母さんはそんな俺を止めて、此方の頭を撫でてたっけ。「少しだけ、待ってあげて」って。そしたら何か、「なんか出た」とか言ってお菓子の当たりくれたっけ。照れくさそうに。

当時を思い出しながら、京の頭をそっと撫でる。直後に「やっちまった」とも思ったが、嫌そうな顔はしてなかったので良かった。

「実は……私……」

「うん。」

「……あの日……事件……たまたま……見てて……」

「うん。」

「……犯人も……見てて……」

「……それってもしかして、京ちゃんに狐神君が君を好きって嘘ついた人と同じ人?」

今にも泣きそうな顔で、顔を真っ赤にしながら、1回、首を横に振った。

「野球部の……」


「そっか……」


1月5日。昨日京が犯人を教えてくれたので、そのまま直接犯人と昨日話したかったが、どうしても予定が合わないと今日になった。「お前があの事件の犯人だろ」と言ったらあっさりと認めた。様子としてはあんまり興味のなさそうな感じだった。


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