犯人の知らない事件 12
「だからそういう精神論的なの嫌いだっての。」
「ワハハ、すまんすまん。お、丁度飯できたか。」
久しぶりに大人数で囲ったご飯はとても美味しかった。2人で食べるご飯も最近は慣れてきたが、こちらの方がやはり好きだ。此方もいつもよりご飯を食べている気がする。
それからは年末の番組を見て盛り上がり、少し早めに寝て初日の出も見に行った。クソ眠たいし、クソ寒い中山頂を目指している時は『来年は絶対来ない』なんて思ってても、いざその景色を見てしまうと『来てよかった』なんて思ってしまう。新年のテレビ番組はどれも面白いものばかりで、みかん食べつつ、談笑してれいれば、気づけば夕方や夜になってしまっていた。そしてそんな時間はあっという間に過ぎた。
「ほんとにもう行っちゃうの?まだ学校が始まるまでは少しあるのでしょう?」
「明日から少し用事があるから。......もしあれならそのコアラみたいなの預けとくけど。」
明日、3日にはもう京と会う約束をしてある。何とか取り付けたチャンス。惜しいが今日帰らないと間に合わない。
「......いや、あたしも帰るわ。やることもあるし。」
そう言うと母さんの体にしがみついていた手をゆっくりと離した。これには正直かなり驚かされた。絶対ヤダヤダ言うと思ってた。しかし母さんは何か事情を知っているらしく、「頑張って」と一言言うと、此方も「うん」と強く頷いた。どうやら俺の知らない間に何かあったらしい。とはいえそれを訊くのはやめておこう。
名残惜しくはあったが、俺と此方はまたあの家に帰った。
そして迎えた1月3日。今日も鏡石に協力してもらい対京用戦闘服に着替える。今日のコーデは白のタートルネックに、落ち着いた色のケープコートを羽織り、黒パンツと黒のロングブーツ。女性らしさを出しつつも、ケープコートである程度体格を誤魔化せるらしい。ブーツなんて勿論履いたことなどなかったが、歩き方などのコツを教えてもらってとりあえず形にはできるようになった。
「......なんか、あんたを女として見たほうが友達になれる気するわ。こう......ファッションに目覚めた年下の女子に教える的な?自然とバイブス上がるわ。」
「なんて?」
「テンションガンアゲ的な?」
「なんて?」
「エモエモのエモみたいな?」
「なんて?」
「死ね。」
「なんつった?(低音)」
「声。」
「ごめんね、なんて言ったの?(高音)」
「よし、いけ。」
「うす。」
時間は集合5分前。待ち合わせは駅より少し離れた静かな公園。駅前や駅中だと人通りが多いため、疲れてしまうだろうという判断。多分だけどああいう感じの女子は待ち合わせよりだいぶ早く来る気がするし。そしてその予測は見事命中。
「ごめんね、待った?」
フルフルフルと大きく三回首を振る。しかし彼女の手を見ると、その華奢な指先は赤く、そして小さく震えていた。一体どのくらい前からここに居たんだろうか。
意識的に彼女の手を取る。
「嘘。こんなに冷たくなってるよ。......手、繋いでいこっか?」
はいどんどんあざとく行こう。
向こうはだいぶテンパっていたが、聞いた情報によると女子同士では結構体の接触が多いらしい。確かに廊下などでも「おはよー」とかいって抱き合ってる姿も見るしこのくらい普通やろ。にしてもこいつの手ちっさ、やらか、弾力すご。たまこんにゃくかよ。
お店はネットで調べたりしてすごい良い感じのお店があったのでそこにした。......恥ずかしながら、いい感じのお店を探している中で、今回の目的関係なく普通に行きたいと考えてしまっていた。そして昨日、帰ってから事前調査の名のもとにここのお店に来ていた。
『......ええやん。』
落ち着いた店内で静かに音楽が流れている。コーヒー豆を挽くコリコリした音が適度な雑音となり、とても心落ち着く。店の端っこのほうにはいくつか本棚が並べられており自由に見ることができる。席もカウンターとテーブル、1人用個室と団体用個室に分かれており用途により使い分けできる。噂によれば有名人も通ってるとか何とか。今日は周りの視線に敏感な京もいるし個室の方がいいかな?とは思ったが、大したコミュ力も持たない俺と2人で個室は危険と判断した。......まぁ、あと一番隅っこのカウンター席からだけは海を一望できるのでそれを誰かに見せたかったってのがないこともない。昨日来た時にそんなことを考えており、本日はそこを予約させてもらっていた。今日も天気は良く、冬の澄んだ空気から海の向こうの島まで見ることができた。
「......ごい、きれ......」
「ね?私この景色大好きなんだ。確かに学校からでも海は見えるけど、またそれとは違うっていうか。静かな場所で見るとまた違って見えるっていうか。」
......こいつの顔を見るにここまでは正解のようだ。
とはいえ残り時間も少ない。タイムアップになる前に話を進めなければ。
「とりあえず、まずどうしてその狐神君が京ちゃんを好きって思ったのかな?誰かに聞いたとか?」
この質問はイエス。確かにこいつが何か行動してそこで知ったとは思えないから、当然ちゃあ当然か。
「じゃあ次、京ちゃんと狐神君は何か接点を持つことはあったのかな?」
これはノー。そりゃあそうだ。俺だってないもん。
「うん、じゃあ次に。......ん?どうかしたの?」
何だかすごい申し訳なさそうに手を挙げた。別に学校じゃないんだから普通に声をかけてもらっても......難しいか。にしても俺が発言中に意見するようになったのは仲が進展したと考えていいのだろうか。
京は「ぁぅ......ぁぅ......」とアシカのモノマネを急に始めると、今度は携帯を取り出す。見かけによらず素早い動作で文字を打つと俺に見せてくる。
『何だか穂積さんの言い方ですと、狐神君が私を好いているの対し怪訝的に感じます。まるで穂積さんが狐神君が私に対して好意を持っているのが誤解だと言っているように感じます。』