犯人の知らない事件 8
「いや、確かにあたしは化粧バリ得意だし、協力もするけど。……そこまでの女装て本格的な逃避じゃん?」
うるせーよ。もうなりふり構っていられないんだよ。問題の解決ができるなら女装でも何でもやってやるよ。
「もう好きにしてって感じ。……でもなんで白花もいんの?」
鏡石に連絡をしたら近くの駅に呼び出された。寒空の下、数十分待つとやがて鏡石が助手席乗った車が来たので、よく分からないがとりあえず乗せてもらった。そして着いたのは大きなビルの前、その中の『白花小石様』と書かれた扉の前だった。
少し遠くに目をやると沢山の衣装が並んだハンガーラックの前にキラキラとした目をした白花がいた。
「いやだってそんな面白すぎる話聞いて見逃せるわけないじゃない。しばらく会えてなかったから私寂しかったの……。だから今日はいつもより奮発しちゃうね!!」
「やめろ。……てか何でこんな沢山服用意してあんの?2、3着あれば良くね?」
「あのさぁ……。あんたほんと女子のこと知らなさすぎ。普通は上下それぞれ10着以上くらいは持ってるわよ。」
そうなのか。確かに此方を女子代表として考えたのは間違えだったな。あいつは寝る用と真面目にゲームやる時用、予備くらいしか持ってないからな。それに女子は男子とは違いスカートなどもある。いい言い方色々遊べて楽しいが、その組み合わせなどは非常に難しそう。
「カラー、シルエット、素材、清潔感、カジュアルさ、綺麗さ、可愛さ、流行、他にも色々とあるけど、あんたにそんなんは期待してないからこっちで勝手にやるけどおk?」
「おけ。」
さすがは最先端をいくアイドルと自他ともに認めるギャル系JK。この2人が合わされば例え男の俺であろうとも、さながら都会を歩くイケイケ女子高生に大変身。
「ミニスカはやめよう。長めにしよう。あと黒のストッキング履こう。これはヤバい。」
「いや……これは……草生える……スネ毛……」
「最高に……似合ってるわよ……。ぷっ……クスクス…」
その後も1時間ほど弄ばれた。完全にギャグ路線に入り、大阪おばさんスタイル、魔法少女系、ナース、チャイナ、セクシー系。こういうの漫画とかで女性が着てるのは見るけど、男子が着てるの見たことないな。……あれか、青年の教育上観点から良くないからか。そらそうだ。
「白花さん、そろそろ。」
ここでようやくマネージャーからストップが入る。その声に大爆笑していた鏡石や、あまりの俺の姿に涙を流す白花が一気に覚めた様子。小さく零れた「もう……終わりか……」と言う言葉には反応しなかった。
とはいえこのまま時間だからと放り出される訳にはいかない。さすがに街中をミニスカポリスで走るくらいなら死ぬ。てかさっきから思ったけどなんでこんな衣装しかないんだよやる気あんのか?……時間の無駄にしかならなかった気がするし、自分の服に着替えて帰るか。
「ちょっと、どこ行くのよ。」
「俺の服取って帰るんだよ。これ以上遊びには付き合ってられん。お前も年末で忙しいんだろ?まぁ互いに頑張ろうや。」
「……随分安く見られたものね。」
そう言うとハンガーラックから素早く何着もの衣服をまとめると俺の前に叩きつけてきた。
「あんたが女装した時に合わせられる服なんて試着なんかしなくても分かるわよ。もう使わない服だから返却も結構。妹さんにでもあげなさい。……鏡石、後は任せたわよ。」
鏡石の「はい。」と短い返事に白花は何も反応せず、扉を出ていってしまった。残された俺と鏡石は素早く服を纏め、部屋を出た。
その後鏡石お気に入りのカフェに入り、先程渡された服を吟味していた。正直俺から見たら全く分からないけれど、鏡石の表情は険しかった。
「やっぱ勝てないわ……」
それが鏡石の結論だった。理由なぞ訊かずとも分かる。
「この時期だから厚手の服着れるからある程度誤魔化せるとは思ってたけど、こんなん上手すぎて。しかも普通に1週間ローテできるくらいあるわ。何なら私が欲しいくらい。」
渡された服は多種多様で、正直着方も分からないものも多くあった。けれどそこは白花に頼まれた鏡石が丁寧に教えてくれた。やはり直々の命令だからか、ここでは一切のおふざけはなく、まるで勉強を教えられてるようだった。合宿の時とまるで反対だな、なんて思ったり。
「しかしこうして準備をするのはいいが問題はどう会うかだよな。明日なんかは一応午前だけ学校は開いてるが多分来ないだろうし、年明け三賀日は無理としたら残すは4日だけだろ。それで解決まで持ってくのはなかなかキツイな。」
「そこまではあたしの知ったことじゃないし。でもクラスラインにもいないし、もち個人も知らないなら連絡を取るってのは無理くない?」
言うまでもないが俺はクラスラインという存在を初めて知ったし、そんなもので呼んだとしても彼女が来てくれるとは思ってない。女装した上でそいつと偶然会い、親密を深めることが必要とされる。一度だけの関わりから事の解決は難しいだろう。
「......あ、そうだ」




