犯人の知らない事件 7
「まぁお前の愛の告白は駅前の居酒屋勧誘みたいに断るとして。ここの誰くんが俺の暴力事件解決のキーパーソンになるのか?」
「好きでも告ってもねぇのに振られるのは甚だ癪だが、まぁそういう事だ。あとそこは女子だ。視線を送ってたのもな。」
授業中見知らぬ女子から熱烈な視線を感じるなんて……どうなんだろ。喜んだ方がいいのか、怖がった方がいいのか。……俺の場合は怖がった方がいいな、多分。
「で、誰なんだ。この彼女は。言うて名前言われても『はぁ』って感じだろうが。」
一応生徒会にも半年くらいいる。何とかクラスメイトもまずまず覚えてきて、学年の人にも手を伸ばしてきた。
その彼女の席をトントンと叩く。
「京龍虎。」
「はぁ。」
そっすか。
資料では勿論知っている。とても特徴的だったので覚えやすかった。それに以前、確か春風さんとも一瞬その話題になったから覚えている。京はその顔面からうちのクラスの4大美少女に数えられるが、それをあまり多くの人は知らない。事実あの女遊び人だった春風さんですら聞いたことがないとの事だった。
理由は至極単純。春風さんも『京龍虎』ではなく、『チア部の可愛い一年』と伝えれば直ぐに分かったろう。つまりあいつは京龍虎としてはクラス外には全然知られてない。
じゃあそれは何故か。それはあいつの天性の資質のおかげ。龍虎なんて大層な名前がついてるから、さぞ恐ろしく暴力的な印象を受けるが事実はその正反対。めちゃくちゃ怖がり。というか極度の人見知り&コミュ障。多分俺なんかが近づけば、止めどなく溢れ出るこの迫力と面構えと負のオーラで卒倒は免れまい。そんな彼女は顔はとてもいいので勿論周りに薄汚い野猿が寄ってくる。それを彼女は嫌がる。それを見たクラスの連中などはそれを阻止する。つまり京は無自覚に自分の駒を作り、それらに寄ってくる者を近づけさせないようにしているのだ。「この子人苦手だからしつこくしないで」「可哀想だからあんまりこの子に近づかないで」そんな風に。こいつのクラス外での名前は『チア部の可愛い一年』『あの子』『怖がりな子』だいたいそのどれかだ。
その彼女が帰ってしまった以上、ここにいる意味もないので俺たち3人は帰ることにした。相川曰く、彼女はその性格からあまりみんなと合同練習を長時間できないと言う。ましてや誕生日パーティーなどに参加はしないから、もしかしたら1人で練習していた可能性はあるかもしれないとのこと。
「あいつはみんなと長時間練習できない分、遅くまで1人で練習してることがよくあるからな。」
「なるほどな。でもそもそもなんでそんな性格なのにチア部なんて入ったんだ?むしろ応援される側だろ。……あれか?前に鏡石が言ってたように『ふぇん、私怖がりだけどそれでも必死に応援してる私可愛いよ〜』ってか?自惚れんな。」
「今どきそんな絶滅危惧1A類レベルの女子いないと思うが。まぁ確かに気になるところではあるな。あと君がそう言うと鳥肌が立つからやめてくれまいか。」
「右に同じく。その理由はあたしも知らん。というかあいつとそこまで仲良かないからな。何となく分かんだろ。」
分かりみがマリアナ海溝。いつもこいつと話す時殴られないかビクビクしてるからな。DVの被害者ってこんな感じなのかな。
とはいえこれではあまり進展がない。唯一可能性のある京に俺が連絡して会ってくれるとは思えない。多分それは相川や小熊、その他ほとんどの人が同じ結果だろう。だから直接会って逃げられなくするのが一番いい手だと思ったんだが、チア部の活動は今日で最終日。しかもチア部は今日から新学期まで部活は休みらしい。つまり部活での接触は望めない。
「まぁ最悪生徒会室から住所見つけて訪ねることもできるんですけどね。でもそれじゃあ普通に拒否されて終わりか。……京がいなくなるまで家の前で待機して、いなくなったら『京の友達です』って両親に伝えて部屋で待ってる、なんてどうでしょう。」
「それはもう冤罪じゃなくて犯罪だよ。実刑だよ。だが代案は僕も上手く思いつかないなぁ。」
結局その後も俺の猟奇的な意見しか出てこなく、解散となった。最後の方なんかは相川に「本当にやめてほしい」とまで言われた。確かに女装はいくらなんでもありえないと思った。小熊は笑っていた。
12月30日、ダンボールが届いた。小熊からだった。箱を開けるとオシャレな服が入ってた。そして一筆。
『新たなる門出に祝服を。』
笑うしかなかった。
確かに悪い手ではないかもしれない(麻痺)。まず俺と分からなければ一般人レベルで話すことは出来る。そして知らない人だと思ってもらえば、きっかけを作りやすい。『道に迷った』だの、『何か落とされましたよ』など。案外人間あまり関わりのない人間の方が話しやすいものだ。俺は誰隔てなく話すのが苦手だけどな。
箱の中にはオシャレな服や鞄、靴、アクセサリーなどなど入っていた。前段階としてそれらを此方に着てもらったが、普通にオシャレでまた笑った。
「……え、なんでこんなシャレオツな女性服兄貴持ってるん?ちょいと遅いプレゼントってか?あざます。着る機会ないけど。」
此方の着替えを廊下で待っている間、そう訊かれた。「そうだ」と言ってやりたいが、仮にもこれは借り物。プレゼントと言い渡すことは出来ない。
「男友達がこれを好きな子にプレゼントしようと考えてるようでな。女子が着たらどんな風になるか写真を送って欲しいそうな。」
吐ける言い訳としてはこのくらいが限度かな。
「え?何もしかしてあたしが今着たこの服渡すん?しかも服渡すて『お前の服ダセェからこれ着ろ』って言われてるようなもんちゃう?いやーー……お察しだわ。ご冥福祈っとくわ。」
お祈りされた。別に事実じゃないから一向に構わないけれど。
とりあえず女子の目から見てもあの服装は問題ないらしい。しかしもし仮に俺の女装作戦が決行されたとして、問題はまだある。服やウィッグはまだどうにかなる。けれど化粧に関しての知識は本当に何にもない。小熊もその分野は詳しくないらしい。どこかに化粧とか得意で、ある程度俺の事情知ってて、無条件に協力してくれて、連絡が取れるようなやつがいればいいんだけどな。




