犯人の知らない事件 6
てなわけで、相川がチア部と顔を繋げてもらいようやく話を訊く場を設けることができた。勿論全員と話すわけではなく、部長と副部長、相川、小熊、少し離れたところに俺という形で席を囲んだ。
「いやなんでや。」
少し離れたところっていうか、俺だけ外なんだけど。大丈夫?これ俺遠目から見たらチア部の部室覗いてる変質者にならない?なるよね?
「悪いがお前とは何か物体を間に挟まないと生理的に無理と言われてな。でも別に構わないだろ?」
まぁ別に構わないけれど。会話も小熊の携帯のスピーカー越しだから問題ないし。生理的に無理って気持ちも分かるしな。俺も斑咬みたいなストレートにクズな人種は無理だし。資料は小熊に渡してあるから進行も問題なさそう。
「OK。じゃあ早速。俺が暴力事件を起こしたとされた日、この日のチア部の活動について知りたいです。そこから目撃者とかを探したいと考えてます。」
そういうと部長は棚に置いてあるノートを3、4冊持ってきた。そしてページをパラパラとめくった後、やがて目的の箇所を見つけた様子。
「あ、そうだ。その日は丁度部活がなくて、部員に誕生日の子がいたからその子のお祝いしてたんだ。近くのファミレスだったんだけど。一応写真とか見る?」
その後、小熊と相川が写真を確認したが、その話は紛れもなく本当だった。
他の運動部もその時期は夜遅くまではやっておらず、唯一可能性があるのがチア部だった。そのチア部もその日はやってなかったとするといよいよ不味い。
「なんていうか......クソかよ。」
「空振りだったのは残念だが、やさぐれる間もひねる間もないよ。次の手を考えなくては。」
「......ですね。もっかい考えてみますか。あ、相川ありがとな、わざわざ時間まで割いてくれて。まぁこんなこと言われても嬉しかないだろうけど。」
「ん、あぁ。」
うわぁどうしよ。これから先何すればいいんだ、なんにも考えてなかった。テスト前日みたいに『なんかどうにかなる気がする』的な考えだった。野球部の誰かが犯人だから無闇矢鱈には訊けないし、かといってあの日残っていた人を探すなんて現実的じゃないし。
……そうだ、今小熊は完全に俺の協力者になるわけだよね?てことは小熊を目撃者にしちゃえばいいのでは?それでなんか適当な野球部員を犯人に仕立てあげられるのでは?嫌われてそうな奴とかなら案外いけるんじゃないか?別に真実なんてこの際どうでもいいわけだし、みんながそう認知すれば俺はいいわけだし、俺だって同じようなことされたんだし。
「小熊さん、少し提案が「却下だ。」……部下の意見も聞いてこそできる上司だと思うんですけど。」
「君に鏡を貸してあげたいくらい悪い顔をしていたからだよ。」
「これはデフォです。」
眼には眼を歯には歯を、冤罪には冤罪を。当然の摂理だと思うんだけどな。ま、でもそんなことしたらノアとかに怒られそうだからやらないけどさ。
チア部から何も情報が得られない今、ここにいても寒いだけ。家に帰るなり、近くのファミレスで話し合うなり、とりあえずここにいる意味はない。小熊と足を動かし始める。
「おい、狐神。」
「なんざんしょ。」
「……本気でこの件を解決したいと思ってるか?」
……お?
その後相川はもう一度チア部の方に向かうと間もなく帰ってきた。そして「場所を変えたい」と言うと、今度は校舎の中、俺たち1年7組の教室へと向かった。
俺と小熊はどうにか打開策を考えようと黙り込んでしまっていたため、校舎は本当に物音一つしないような静けさだった。つい足音まで気にしてしまう。そしてそろそろ教室の前に着くかという時。
『ガラララバァーン!!』
俺たちが入ろうとした入口とは反対の扉から凄まじいスピードで何かが飛び出した。制服を着た人の形をした何かは俺達には一切目もくれず、さらに加速しながらどこかへ消え去っていった。
「……何だね今の魚雷みたいな彼女は。あれが七不思議の一つの『徘徊者』かね?」
「あいつはほんとに……まぁしゃあないか、とりあえず入れ。」
言われるがまま教室に入ると何となく自分の椅子に着く。その流れで何故か小熊が俺の隣に座った。相川は教壇に立った。
「さっき飛び出してった奴をお前に会わせたかったんだけどな。まぁ無理だろうとは思っていたが。……狐神、お前よく美桜に話しかけてるよな?」
「後ろから視線を感じた時は振り返って話すくらいはするかな。乙女ゲーとかならそろそろお出かけイベントとか発生するはずなんだけどな。」
「君はホモなのか?」
「ヘテロです。妹に時々手伝って欲しいと言われるんです。コンプリートの特殊映像は見たいらしいんですけど、興味のない男を落とすのはめんどくさいらしくて。」
まぁゲームとしてそれはあんまりよくはないだろうけど、楽しみ方なんて人それぞれだからな。本人は楽しんでたし、誰に迷惑もかけてるわけじゃないからいいのかな。俺もあの程度迷惑なんて思わないし。
「で、水仙と話すがそれがどうかしたのか?」
「その際お前は後ろを振り向くと思うが、お前の席の右後ろ、誰が座ってるか知ってるか?」
「知らん。確かに後ろを振り返る時、基本右に首回すから何となく見てはいるだろうが意識なんてしたことない。何となく視線を感じたら振り返って、少しの間水仙と話すって感じだし。」
というかそんな事訊かなくても分かるだろう。俺がそんなクラスメイトに興味がないことを。
「視線を感じたら振り向いて話すっつったな。あたしはお前より後ろの席だから見えてるが、その視線は水仙のものじゃないぞ。」
「……『あたしだ。』ってか?」
「『何で気づかねぇんだよ……ばか。ずっと好きだったのに……』みたいな感じなのかい?いやはやこれは青春。」
「......」
「痛っ!?なんで俺だけ?」




