犯人の知らない事件 5
「へー、思いの外ちゃんと解決に向かってるじゃない。それで?犯人は?」
「そっから先どう動いたらいいか分からないから連絡してるんだよ。正直手掛かりが無さすぎて困ってる。動機はもしかしたら大会が近かったからそのメンバーに選ばれなかった、とかかと思ったけど、メンバーはまだその時には発表されてなかったみたいだし。」
宇野と五十嵐を前にあんなでかい口叩いたくせにあれから全く進展がない。終いには白花に愚痴みたいなものを零している。情けないったらありゃしない。
「それで惨めったらしく私に縋ってきたのね。可愛らしい子豚ちゃん。……大会が近いって言ったわね?」
「え?はい。」
「だったらチアリーディング部には行ってみた?」
「?なんで……あー、もしかしたら目撃者がいるかもしれないな。」
我が校のチアリーディング部は運動部の大会にはほぼ全て参加している。そのレベルは高いらしく、巷ではそれ目当てに大会を見に来る人もいるらしい。野球部の大会が近かったからもしかしたら野球部の練習の近くにいた可能性はある。その中にもしかしたら目撃者がいるかもしれない。
「サンキュ、白花。小熊さんに相談してみるわ。」
「貸1だからね。正直この時期は忙しくて死ねるからストレス溜まりまくってんのよ。年明けは期待して尻尾振って待ってなさい。」
そう言う白花の声はわずかだが、本当に疲れているように聞こえた。確かに今見てるテレビでもあいつが映っている。テレビの中ではそんな素振り全く感じさせられないので、どうしても違和感がある。
今回の課題、出来るかどうかは置いといて、窃盗と強姦を解決しようと動く事もできた。結果としては確かに選ばなかったが、そちらを選んだら俺とあいつは真っ向から対決することになっただろう。それが今では協力してくれてるのだからおかしな話だ。……俺とあいつの関係は今後どうなっていくのだろう。
もう少し続くよ12月29日。今日は運良くチアリーディング部の年内最後の部活日らしい。因みにほとんどの部活は今日で終わる。一応明後日までは学校はやってるが、明日、12月30日は毎年いくつかのクラスが忘年会みたいなのを学校でやるらしく、明後日は午前中のみ学校が空いてるらしい。
そして今日も今日とて小熊を連れ部室を尋ねた。
「え……あれって狐神じゃない。なんでここにいんの?」
「うわ、もしかして着替えとか覗きに来たんじゃない?最低。」
「なんで最終日にあんな奴の顔見なくちゃいけないのよ。初詣の時にめちゃくちゃ厄除けしよ。」
俺は慣れたが小熊は少し情けをかけてくれたのか、何やら言葉を探しているようだった。別に俺なんかに情けをかけてくれなくても気にしていないんだがな。
「……ほ、ほら。女の子ってつい好きな人には素直になれないとこあるから。それに女子にキャーキャー言われるなんて男冥利に尽きるじゃないか。」
「もっと馬鹿になればその言葉を鵜呑みにできるんですかね。」
いやもうめちゃくちゃ素直ですよ。素直な嫌悪と罵倒ですよ。『キャーキャー』とかじゃないんですよ。『チッ…』とか『……ねよ』とか『……すぞ』とか、JKって可愛いレッテルじゃ隠しきれない殺意なんですよ。
「……よぉ、何してんだてめぇ。」
部室の扉を叩こうとする直前、俺の横から声が聞こえた。
とてもチアリーディングとは思えないようなドスの効いた声だなぁ。なんかめちゃくちゃ気性荒そう。
「やっぱり相川だよな。俺チア部に用あるんだけど。あれ?お前ってバスケ部じゃなくてチア部だったっけ?……ププッ……んなっわけ……なっ、ないよな……」
やばい、こいつの応援姿みたら笑いが……。ボンボン持って、満開の笑顔で、可愛らしい服着て、高い声音で「ファイトだよ!!」とか……。豚に真珠じゃないけど、こいつの場合はゴリラにボンボンて感じだな。
「……お前を殺すのは後でにして、本当に何してんだお前。用がないのにこんなとこ来るとは思えないが。」
少しチア部の部室から離れ、相川に事情を説明した。とはいっても言ったのは俺がまた冤罪解決に向けて動いているだけ。大鵠の課題とかは勿論伏せた。こいつはそこまでは興味がないらしく、俺がチア部に害をなさないと知ると「どうだか」と一言だけだった。一方の相川は先日行われた女バスの大会にチア部が応援に来てくれたからそのお礼で今日来たらしい。因みに小熊の事をなんと言い訳しようか考えていたら「あれだろ?レンタルだろ?」と言われたのでとりあえずそれにしておいた。よくわからんけど。
しかし相川との接触は今回は良かった。いきなり俺がチア部の連中に「質問させてくれ」なんて言っても掛け合ってくれないのは明白だし、小熊もここに知り合いはいないらしい。てなわけで比較的関わりがある相川が間に入ることで平和的に事を進められるのだ。
「にしても俺にはお前に支払える対価みたいなものがないからな......。」
「......今回だけだ。」
「?」
「前にあたしの勘違いで思いっきり殴っちまったことあったろ。ほら、お前が生徒会入った時くらいに。その詫びに、今回だけだ。」
「……。」
???
「……!あれめっちゃ痛かったんだよな。あの後病院行ったら顎がズレちゃってて矯正までして……すまん、嘘ついた。いや、痛かったのは本当だけど、俺にも非がないとは言えないから。今回だけ頼みたい。」
俺のくさい演技にも関わらず、相川からは本当に申し訳なさが伝わってきた。仮にも人情はあるタイプの人間らしい。その顔を見て、さすがに冗談は続けられなかった。
確かにこいつはクソ短期馬鹿力のネアンデルターレンシスみたいな女だけど、友達が傷つけられたからああいった行為に走ったと思う。大切だから。しかもそれがこんな根暗ぼっちにされたとなれば。