犯人の知らない事件 3
「でも実際これ以上あたしが言えることはないんだよね。まーでも、これじゃ白花さんの命令無視になっちゃう系だから何なら場だけでも作ったげよっか?」
白花には相変わらず逆らえないんだな。まぁ確かにこのまま解散となれば白花にそう取られても否定は難しいだろうな。とはいえ正直場を作ってもらうのは嬉しい限りだが、俺と宇野、五十嵐が集まってもすぐに帰られそうなんだよな。可能なら2人がすぐに帰れなくなるような抑止力的な人や情報が欲しい。鏡石だとそれに欠ける可能性がある。
「......適当な女に金積んで、宇野に道を尋ねてもらって、それを俺が隠し撮りして、『宇野が浮気してました』とか?『これを五十嵐にバレたくなかったら......』ってか?」
「ここまでの馬鹿だったとは思わなかったし、失敗すればいい。」
流石に前にノアに注意されたからそういう事はしないけどな。とはいえどうしたものか。安川とかに使った白花を餌にする作戦も使えないし。
でも折角機会を得られるんだ。とりあえず場だけでもセッティングしてもらおう。
まだまだ年は開けないよ。一日置いた12月の28日。
何とか鏡石が宇野と約束をこじつけてくれた。鏡石はその場には来なかったが、役割は十分果たしてくれた。そして俺が指定されたカフェで待っていると、宇野とその腕にセミみたいくっついたセットのヒステリックもついてきた。お熱いこって。
にしても凄まじい剣幕だな。宇野は普通に睨んでくるだけだからいいけど、五十嵐に関してはシュメール人みたいなんですけど怖すぎるんですけど。ダメだ、マカロンとか本とか渡す空気じゃねぇ。
「……で?あの文章はどういう意味なの?ただのハッタリなら即座に帰らせてもらうけど。」
今回この2人を呼べたのはある可能性についてメールで送ったからである。とはいえその内容も少し瀬田さんにお力添えをもらったけれど。
そして今日ご同席いただいたのは小熊さん。傍からみたらダブルデートみたい。最初は瀬田会長……瀬田さんに来てもらおうかとも思ったが、やはり大鵠に見つかると厄介だと思った。それならこの課題のペアであり、仮にも2年のクラスリーダーをやっている小熊が1番良いと思った。因みにラッキーなことに、野球部2年を通し、2人も小熊の事は少しだけ知っているそう。
「まぁ、とりあえず座ってほしい。」
そう言い二人を席に進める。かなりの抵抗はあるようだが、メールの内容と、直接的な関係がないとはいえ先輩を前に直ぐに帰るという選択はなかった。
「先輩には悪いですけど、自分も凛も長居する気はないです。聞く価値がないと判断したら帰らせてもらいます。」
小熊を相手に随分と強気に出れるものだ。それほどなまでに俺と話したくは無いのか。
小熊は「了解した。」と一言。俺も別にこいつらと長居したいとは思ってなかったので早速話題に入らせてもらうことにした。
宇野に送ったメールの内容はこんな感じ。
『5月頃に起きた暴力事件について話したいことがある。五十嵐と一緒に来て欲しい。嫌だと断るだろうから早めに書いとく。今後、これ以上被害が出ない為でもある。真犯人は近くにいる。』
「こんな文章を送らせてもらった。これ以上被害が出ないた為、真犯人は近くにいる。その二つを聞きたいんだよな。」
二人は相当俺の事を嫌ってるらしく、何の反応も示さなかった。そのため勝手に進めさせてもらう。
「この件に関していくつか疑問がある。多くの生徒は『狐神ならやりかねない』と簡単に済ませるけどな。一つ、なぜ野球部を狙ったのか。二つ、どうやって俺がめちゃくちゃ強そうな野球部5人を相手に勝てたのか。三つ、どうして俺が犯人となったのか。四つ、動機は何なのか。この四つだ。」
「だから何?どうせ汚い手を使って襲ったり、頑張ってる姿を見て嫉妬でもしたんじゃないの?あんたならやりかねないでしょ?」
口悪いなこいつ。コバンザメみたいなくせに。
「抽象的すぎるし、何一つ確証もないようなことはここじゃいらないから。それに既に3つもやらかしたとされた後でこんな事しようとは思えない。」
「どうかしらね、あんたがまともな感性を持ってるとは思えないけど。」
全っ然まともに取り合ってくれないんですけど。とはいえこうなることは瀬田さんに相談する中で分かっていた。そうなった時は強引に話を進めるのがいいと前に習った。
「じゃあこの際俺がまともな感性持ってなくてもいい。宇野、俺が被害者5人を相手取って本当に勝てると思ってるのか?」
昨日学校の生徒会室に忍び込み、当時の事件についてまとめてあったファイルをお借りした。現場は野球部部室、時間は練習が終わった19時頃、第一発見者は野球部顧問の先生。被害者には全員首の後ろにスタンガンらしき傷があった為、意識を奪われた後に暴行されたとされる。金品は残っていたことから私怨によるものと考えられる。
この中でも既に何ヶ所かおかしなところもあるが、何となく犯人は見えてきた。
そのファイルを机の上に出す。
「いきなり襲われたらそんなの勝ちようがないだろ。」
「あのさぁ……君んとこの部室はそれなりに綺麗だろ。まともに隠れそうな場所もないだろ。そこでいきなり5人相手に襲うって無理ありすぎだろ。」
部室の写真を指でトントンする。野球部の部室は部室棟2階だから窓から入るなんて事はできない。
「じゃあ1人ずつ外で襲って部室の中に連れ込んだかもしれないだろ。」
「あのさぁ……俺ほとんど君らの活動知らないんだ。誰がいつ帰ってくるかも分からない、もしかしたら普通に中に誰かいるかもしれない部室でそんなことすると思うか?どう考えても俺には無理だろ。」




