冬眠への蓄え 6
「少しは信用してくれたかな。もうすぐ料理が出来そうだから丁度此方ちゃんを起こそうと思ってたんだ。何ならそこで本人に確認するかね?」
もしこの人が嘘をついていて、此方を起こしに行くといい何かするかも知れない。かと言ってこの人をここに一人にさせるのもどうか。
「一緒に此方を起こしに行ってもらいます。けれど言っときますけど、此方がもし『知らない』と一言言えば、あなたをここから追い出します。」
俺の必死の剣幕も小熊には全く気にしておらず、火を止め残すは盛り付けだけだった。
にしても前に会長から聞いた話だともっと気が弱そうなイメージがあったのだけれど。
「うん。それが現状の最適解だろうね。まぁでも?そもそも君が僕と勝負をできると考えてるところから怪しいけれどね。」
どうやら体術には自信があるらしい。確かに先程の携帯を奪った動作などは最早見ることさえも出来なかったけれど。......なんかうちの学校は喧嘩強い人多いなぁ。
小熊を連れて此方の部屋を訪れる。ノックをしたがやはり寝ているのか、反応がない。「開けるぞ?」と一言言ってドアノブを回す。そこは相変わらず色々なものが散乱しており、足の踏み場もほとんどない。そして部屋も真っ暗だからベッドに着くまでも一苦労だ。
「おい、此方。起きろ。」
多分此方の顔であろう部分を軽く小突く。「......なに?」とやや不機嫌な声が帰ってくる。
「何か小熊さんて名乗る不審者が家にいるんだが?自宅警備員である君は何をしていたんだ?」
「......給料が支払われたら考えますわ。あーそっか、小熊さんと遊んでたんだけど疲れて寝落ちしたんか。」
「まだ疲れは取れてなさそうだし、確認も取れたから寝かせてあげようよ。」
「まぁ、はい。」
此方はもう寝たらしく、俺と小熊は部屋を出た。
「途中までは一緒にリビングでゲームしてたんだけどね、やっぱりちょっと対面で何時間もはきつかったかな。せめてもの罪滅ぼしとして、此方ちゃんを部屋に寝かせた後、失礼させてもらってご飯を作っておこうと思ったんだよ。狐神君......彼方君が今日いつ帰ってくるか分からないと聞いてね。」
「......あれを気にしないんですか。」
「別に気にしないさ。」
その後此方の分を残し、小熊の料理をいただいた。その香りは大したもので、少しだけその秘訣を教わったりした。
けれどそんな事をしていても『本当に此方のためだけにここに来たのか?』という思いは消えない。
いい感じに話題が切れたところで切り出してみた。
「そうだね。確かに此方ちゃんと遊ぶのも理由の一つだよ。でも勿論君に会いに来た理由もある。今日はクリスマスだからね、これは大鵠君からのプレゼントだよ。」
想定してない方向から来た手紙に少し戸惑う。
「え?大鵠さん、から?」
嫌な予感しかしないが開けないという訳にもいかない。小熊さんはその内容を知っているらしく、「さぁ早く開けたまえ。」と急かしてくる。気は全く進まないがその手紙をゆっくりと開けた。
『メリークリスマス、1年生の各クラスを代表する諸君。まずおめでとうと書いておこう。この手紙を受け取った君は、俺の独断と偏見で決めたクラスのリーダーだ。そしてリーダーとしてこれからある課題に取り組んでもらいたい。期間は冬休みの間。詳しいことはこの手紙を受け取った者から聞いてくれたまえ。』
「......じゃあ続きをどうぞ。」
「よし来た任せろ。」
そう言って小熊は自分の鞄を漁り大学ノートを取り出す。
「まず最初に今の2年は独自の形態をとっているんだよ。勿論非公式だけどね。2年の各クラスにはそれぞれリーダーがいる。僕もその1人さ。そして今回、そのリーダーが1年生の同じクラスのリーダーに相応しき人物に接触し話をする。『今後実行されるであろう完全実力制度』について。しかし君はもうこれを知っていると聞いてるから省かせてもらうよ。ここまではOK?」
何となく概要はわかった。大鵠と愉快な仲間たちが一年の優秀な子を勧誘してるってことだよな。でもわからんことはある。俺のクラス1年7組は俺よりも優れた人物は多くいると思う。確か前に大鵠からは『努力家で成績も出してる』とは言われたがそれくらいで選ばれるとは思えない。
「何で俺が選ばれたんでしょうか?俺より優秀な人はクラスに何人もいると思います。」
「......顔、は別に言い訳でもないし。勉強、も上はまだ全然いるし。性格、はひん曲がってそうだし。運動、も目覚ましいものはなにもないし。やる気、は全然感じられないし。本当に何故だ?......あぁ、そうだ。一年で生徒会に入ることが確定してる2人は必然としてリーダーって言ってた。」
「どつきまわしますよ。」
まぁこの人をぶっ飛ばすのは外に出てからにして、1年の生徒会のメンバーが決まったのか。誰かは分からないが俺のクラスでないことは間違いない。少し気になるが今できることは特になさそうかな。




