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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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冬眠への蓄え 5

その後は春風さんが持ってきてくれたお菓子をみんなで囲いながら時間を過ごした。この時にはノアと禦王殘の若干冷戦状態のも完全になくなっており、いつぶりかに全力で楽しめた。トランプやウノなどもしたが、大体俺が負けて、時々春風さんが負けるという構図だった。

『俺が高校入学の時に思い描いていた景色はきっとこんなのだったのかな。』

けれど楽しい時間というのは一瞬で終わってしまうものだ。気付けば外も暗くなり夢から現実に引き戻される。

最後に瀬田会長が部屋を出て鍵を閉めた。何度もその光景を見てきたがそれが今日を持って最後だと思うと感じるものがある。もう一度、瀬田会長の背中に心の中でお礼を言った。


「とは言っても俺らだって3月までは学校にいる。確かに自由登校だから今よか学校には来なくなるけど、必要とあればいつでも会える。だから泣くんじゃねよ狐神。」

瀬田さんにそう言われ俺はみんなと別れた。

そうだな、まだ瀬田さんがいなくなるまで3か月近くある。それまでに俺も成長して安心してこの学校を卒業してほしい。......大鵠がいるから安心しては難しいか。ま、頑張っていこう。

因みに大鵠のあのアドバイスは『狡兎死(こうとし)して走狗烹(そうくに)らる』ということわざだった。ウサギを狩る猟犬もうさぎがいなくなってしまえば人に食われてしまうという成り立ち。そこから能力を十分に発揮出来ない人は捨てられる、と派生された。


時刻は7時近くになっており、お腹が空いてきたころ。此方には帰りが何時になるか分からないからなんか適当に食べておいてと連絡はしてあるが、この時間だとまだ食べてないだろ。今日はとても寒いからシチューでも作るか。クラスの連中は今頃どんちゃん騒ぎしてお店に迷惑かけてるんだろうな。そういや集まってたクラスの後ろの方に見えた宇野、なんか顔赤かったな。本日中にゴールインするのだろうか。

そんなことを考えているうちに家に着いた。時間が経つにつれて段々と寒さも厳しくなってきている。早く家に帰って炬燵とエアコンに包まれたい。

「......。」

基本的に此方はあまり部屋から出ることはない。そのため玄関に付いてる覗き穴は真っ暗だ。時々リビング降りてきている時は中から光が見える。だから光が見えていること自体は何ら不思議はない。

けれどうちには鍵が2つついている。防犯用のためだ。俺は朝家を出る時両方閉めていき、帰った時も両方開ける。此方は家から出ることはないからだ。

「......なんで鍵が片方開いてるんだ。」

嫌な予感がする。

こう言っては悪いが此方には友達と呼べるような人は多分いない。最も親しい太陽だって直接顔を見ての会話で精一杯なはず。太陽を家に招き、その時鍵を片方閉め忘れたのなら鍵の件は納得出来るが、俺がいつ帰るか分からないのに太陽を入れるとは思えない。太陽だって此方の事を知っているからそもそも俺がいないと分かればすぐに引き返すはず。

とはいえいつまでここに立っていても変わらない。ゆっくりと玄関を開ける。家の中はいつも通りの静寂だったが、いつもよりずっと不気味に感じる。そして足音を忍ばせリビングに近づく。

「......音楽?」

リビングに続くドアに近づくと何やら今時な音楽が聞こえてきた。それに少し疑問を覚えつつもドアを少しだけ開ける。

「ドーン!!」

「うおっ!?......は?」

扉が反対方向から引かれ、勢いよく開く。前傾姿勢だったため転びそうになったが何とか手をつく。しかしその見上げた先には見ず知らずの女性が立っていた。......いや、正確に言えば全く知らないという訳ではなかった。最近までずっと生徒全員の顔と名前を一致させようと努力してきたため、大部分の顔と名前、あとクラスは知っている。そして確かこの人は瀬田さんに聞かされた話の中で、大鵠に友達と呼ばれていた。

「まーまー、そんな怖い顔しないでよ。君の知っての通り同じ学校の生徒だよ。」

「......確か2年の小熊さんでしたよね。なんでこんなとこにいるんですか。不法侵入で警察呼びますよ。」

2年7組で確か雑学部とかなんとかいった副部長……じゃなくて確か部長だったっけか。同学年の部長がやめたとかで。今はそんなのどうでもいいか。

「残念だが君の携帯はここだ。」

小熊は自分のスカートのポケットから俺の携帯を出した。それに驚き俺も自分のポケットを確認するが、そこには何も入ってなかった。

まるでマジシャンだな。なんて余裕抜かしてる場合じゃない。奪い取るか?でも相手の力量も何も分からないのに?というか此方はどこだ?鍵は今日も閉めて出てきたし、此方が玄関を開けるとは考えづらい。......となると強盗かなんかか?

けれどそんな俺の考えを他所に、小熊は俺の携帯を「ほれっ」と返してきた。そしてキッチンに行くとどうやら途中まで作っていた料理を再開した。

「安心してくれたまえ。僕は此方ちゃんのゲーム仲間だよ。オンでたまたまマッチして、音声で会話して、そこから親密になっていったって感じ。それで今日狐神君の家で遊んでたんだけど、今疲れて部屋で寝てるってわけさ。」

「まだ強盗で来たって方が信じられますけど。」

「ふむ、それもそうだな。......なら前にこの家に白花小石が来たことがあったろう。その時に最初にインターホンに出たのは此方ちゃんではなかったかな?あの日実は会う約束をしていてね。とても此方ちゃんは楽しそうにしていたよ。あの時は急遽予定が入ってしまい悪い事をしてしまった。」

......文化祭のすぐ後、俺が休んでいた時にそんなことがあった。確かに思い返せば不自然だった。俺がいるのに此方がインターホンに向かうことなどないし、『顔は知っているが、多分自分ではない』などと違和感のある言い方をしていた。それはきっとあの頃はお互いの顔を知らなかったのだろう。けれど当日来たのが現役アイドルでその人がゲーム仲間だとは思えない。それに兄の通う学校にはこの人がいる。そうなれば『多分』兄に用がある、となる。

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