冬眠への蓄え 4
二学期最後の集会も終わり、教室にて遠井先生が短い学活を行った。高校生としてどのように冬休みを過ごすか、冬休みの宿題がこれよ、大学に向けて勉強してる人も多くいるわ、といった耳の痛くなるような話ばかりだった。そんな話をウザったく感じつつも、ある意味これも高校生らしいと言えばらしい感情なのかもしれないなんて思ったり。
そして最後に成績表が個人個人に渡された。もう遠井先生から嫌な顔されるのは分かっていたことなので別に気にはしなかった。ついでに言えば別に行きたい大学もなかったので成績もあまり気にしなかった。今はそんなこと言ってても行きたいと思った時に備えていい成績を取っておいたほうがいい、と意見も多くあると思うけれど、今はもっと気ままに生きていたい。因みに一学期の成績は普通に悪くすぐに記憶から消した。その理由としてはたとえテストでいい結果を出そうとも、授業態度ばかりは教科担当の采配に依るものだからだ。率直に言って俺なんか見たいな生徒にいい成績をあげたいとは絶対に考えられない。
さて、では今回はいかがかな?
「......大体3の一部4か。」
5段階評価でこれならまぁいいか。てっきりもっと低いと想像していた。......お?なんだこれ?『担任からの一言』?ほー、そんなものあるんだ、初めて知った。
『一学期と比べ成績の向上が見られ嬉しく思います。テスト結果だけでは確かにあまり変わらないようにも見えますが、授業態度がとても意欲的に感じられました。何か目標の様なものが見つかったのであればとてもよい兆しと感じます。今後もより熱心に勉強に励んでくれることを心から願っています。』
「先生、嘘は良くないと思います。」
「は?」
さすが親が目を通すものだけあって絶対思ってもないこと書いてんな。誰だこの遠井ってセンコウ。......でも確かに一学期よりもより生徒会の役に立ちたいという気持ちは強くなって、授業も集中して受けていたかも。各教科でも意欲・関心の枠がどれも評価が上がっている。案外この教師もまともなところ残ってんのか?
「文句でもありますか。」
「いえ別に。」
ないな。
これで今日のスケジュールが終了した。荷物をまとめ始め、本日最後になる生徒会のところへ向かおうとした。
「さすがにやめようよ......」
そんな声が遠くから聞こえた。その方向をちらっと見てみるとクラスの大半の生徒が集まっていた。ハブられているのは村上や羽鳥、小淵といった嫌われ者。なるほど、それで今日が終業式でクリスマス、先ほどのカラフルな声と言えば何となく分かる。
多分こんな感じだろ?
「今日で学校終わりだし放課後みんなでどっか行かね?」
「いこいこ!」
「どっか店とか予約してさ、そこでパーティ的な?」
「それだわ!天才かよ!」
「みんなっていうと......やっぱり狐神君とか村上君とか誘っちゃダメかな?(アイドルボイス)」
「......まぁ最悪村上とかはいいけど、狐神は......。さすがにやめようよ。」
はいはい知ってる知ってる。話が変な方向に進む前に俺は出ていきますよ。
鞄に荷物を詰め込むとそそくさと教室を出た。すると後ろから追いかけようとしてくる一つの足音があった。だから俺はそれから逃げるように駆け出した。
生徒会室に着くと瀬田会長が窓辺から外の様子を見ていた。その後ろ姿には哀愁を感じさせられ、本当に今日で終わるんだな、と再度実感させられる。何となく声をかけづらかった。
「どうだった?この半年くらい強引に入らされたこの生徒会でお前の大嫌いなみんなのために東奔西走した感想は?」
「クソでした。そう言われるとほんとブラックだったと思いますね。何でこんなことやってたのかなって思います。」
「後悔してるか?」
そんなもの、ずっと前から答えなど決まっている。
「はい。」
「おい。」
確かにここは先輩を送る場面として『何一つ後悔なんてありません』とか言っといたほうがいいかもしれないけれど、俺はこんな性格だからな。それに変に嘘ついてもこの人にはすぐバレるだろ。
「しまらねぇ......。どうせだ、その後悔とやらをここで吐きだせよ。」と瀬田会長は不服そうに髪を掻く。
「では遠慮なく。」
まるで走馬灯のように、あの日から今日までの日々が思い出される。
「瀬田会長ともっと早く出会いたかったです。もっとみんなの役に立ちたかったです。もっとみんなといたかった。大鵠に勝ちたかった。あと少しで何もかも壊れて絶望できたのに......みんなが支えてくれたから......自分の弱さに気付かされて......情けなくなって......」
「おっけ、わかったわかった。どうせここにいる連中しか見てないんだ。思う存分泣け。」
「......すみません。......連中?」
振り返れば奴らがいた。何にやけてんだノア、愉快そうだな禦王殘、泣きそうじゃないか鶴、大爆笑ですか春風さん。全員ぶん殴ってやる。......絶対返り討ちだな。
「いやごめんなさいね。立ち聞きするつもりはなかったのだけれど、入ろうにも入りにくい雰囲気だったからね?あ、もしあれなら適当に時間潰してるから瀬田会長の胸借りなさいよ。」
「......いや...なんか、もういいわ。......あ、生徒会解散っすよね。お疲れっした。」




