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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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冬眠への蓄え 3

俺の意志の強さも汲み取ってくれたのか、一回大きな溜息をつくと鶴は事情を話してくれた。

「......私の家はちょっと厳しくてね。最近成績が落ちてきたんじゃないか?って言われちゃって。今は家でも色々勉強してるんだけど、今度の期末でもし成績が上がらなかったらどうなるか分からないの。......だから。」

「学校では勉強以外の事をするな。友達なんかと話してる時間があれば勉強しろってか。随分と厳しいご家庭だな。」

けれどそこは家庭の問題。俺があーだこーだ言える立場ではない。もしこれが勉強とかではなく、どうしようもない理不尽なことなら出しゃばらせてもらうとこだが、学生の本分は勉強だ。間違ってはいない。

その後鶴とは大鵠について話したが、結論として俺たちにできることはなかった。鶴は先程の話から少なくても新年までは碌に動けないのは明白だし、俺は動いたところで羽虫のような邪魔にしかならない。だったらせめて俺も期末テストに集中するとしよう。


翌日、クラスにいた永嶺と話をしたが、あいつはとても落ち着いていた。その原因は大鵠の言葉にあった。

『結果はどうあれ、人の恋愛にあんまり足突っ込まないほうがいいと思うよ。それとも俺があの女に優しくすればよかった?』

確かに永嶺のお姉さんは知らなかったとはいえ、自分の意思で動いた結果が今だ。騙された、だからお前が悪い、というのは違う。騙し合いというものは相手の策と自分の判断の勝負のようなものだ。それで敗北となれば少なからず被害者にだって責任はあると思う。厳しい言い方をするようだが自分の判断力不足だ。


テスト期間はあっという間に過ぎた。学校行って勉強して、家帰って勉強して。勿論その間もほとんどクラスメイトと話すことはなく、強いて言うのならいつもの白花との関わりのみだった。だけどそれもいつもとどこか違う気がする。

そして結果の方は前回よりも少し落ちている結果となった。時間でいえば前よりも勉強したけれど。


そして二学期の最終日。今日は授業はなく、午前のみ。そして25日ということもあってかみんな放課後の予定を確認していた。至るところで黄色い声やピンク色の声が聞こえる。

朝の全校集会では先ほどの勢いが完全に鎮火され、みんな静かに領さんの言葉を聞いている。領さんもあまり話を長引かせないよう慮ってか、5分くらいで話は終わった。

そして続くは瀬田会長の生徒会長最後の言葉と大鵠による新生徒会長としての言葉。様々な視線が向けられるなか、瀬田会長が壇上に立つ。

「あー、生徒会長の瀬田だ。つってもそれも今日までで三学期からはみんな知っての通り、2年の大鵠が会長になる。だからあんまり俺が話すことはないんだけどな、さすがに何にもなしはダメだと言われてな。」

相変わらずのやる気のなさからか、同学年の3年から多少の笑い声がする。

普段通り振る舞ってはいるが、先日、式之宮先生に掛け合っている姿を見た。『どうにかしてノアや禦王殘の力になってあげたい』と。それはその日だけではなかったらしく、式之宮先生も『何度も言っているが...』と零していた。生徒会長の立場として一方の生徒に権力を持った肩入れはできない、といったところだろう。正直大鵠も大きな権力を持っていると思うが、何せ瀬田さんと違い目には見えないものだ。......きっと大鵠の事を止められなかった自分を責めているのだろう。

「......そうだな、生徒会長として今まで働いてきて、正直めんどくさいようなこともあった。予算があーだの、企画がどーだの。何でお金をもらってるわけでもないのにこんなことしてんだって考えたりした日は少し沈んだりもした。」

三年の方を見ると先ほどとは少しだけ異なり、みんな温かい目をしていた。人によっては心のある野次を飛ばしている人もいた。

「でもいつからか、そのめんどくささが悪いものじゃなくなってた。笑いながら「しょうがねぇな」つって腰上げてた。最後の方なんて、自分から生徒会対部活みたいなものまでやり始末だよ。......そうだな、なんだかんだ言って、結局俺は楽しかったんだな。......なんか湿っぽくなっちまったな。まぁつまり、今までこんな生徒会長だったけどみんなついてきてくれてありがとな。んじゃ!」

短い言葉ではあったが、明るく瀬田会長が声を上げると大きな拍手が会場を包んだ。特に三年の方からその音は響き、どれだけ信頼されていたか何となく分かった。

会長と初めて会った時を思い出した。学校生活に絶望に塗れた俺の前に現れたとても気の抜けたような人。普段はやる気がないくせに、本気を出せばすごい人。少し子どもっぽいところがある人。たかだか半年くらいしか一緒に働けなかったけどとても楽しかった。まさに恩人と言うべき人。

「短い間、ありがとうございました。」

大きな歓声と拍手の中、小さな声でお礼を言った。


そして瀬田会長が去ると再び静寂が訪れる。理由など言わずもがな。そしてやはりと言うべきか、ステージの袖から出てくる大鵠はとても上機嫌に見えた。

「いやー、最後まですごい瀬田さんらしい演説でつい感動しちゃいました。今後のご健勝お祈りします。まぁ、そんなことは置いといて、新しく生徒会長になる大鵠柾と言います。生徒会長としての期間は年明けから夏休み前くらいかな?になると思うけどその間は楽しくやってこうね。......あぁ、3年生の皆さんとは僅か2、3ヶ月ぐらいですかね。」

3年に笑いかける大鵠だったが、当の3年は勿論不機嫌丸出しで睨みつける人もいた。しかし大鵠は全く気にしてない模様。最早相手にもしていないといった感じ。確かに選挙で大鵠が勝ったという意味で3年は大鵠に負けたと捉えることもできるのか。

「今後の詳しい展望などは三学期が始まった時のお楽しみにしておくとして......話すことがないな。あ、そうそう。ウサギも犬も食べちゃえば似たようなものだよね。」


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