狼煙の種火 6
その後牟田にも声をかけたがこちらも口調こそ弱いが即答だった。
それはそうだ。こちらの目的などとうに見透かされているだろうし、そもそも俺なんかと話したくない。それに2人で話しているとあらぬ誤解が生まれかねない。俺もまた冤罪を食らうかもしれないのは嫌だがリスクなしでは進めない。そうなれば直接上に掛け合うしかない。
俺はてきとうな紙に文章を書きそいつの机にさりげなく入れる。
『話は聞こえてたろ。何とかあいつらと話がしたいんだが、お前から何とか言って貰えないか。』
そしてその手紙は俺がトイレに行っている間には既に俺の机の中にあった。
『いいよ、そっちの方が面白そうだし。じゃあ今日の放課後で。』
そして早速放課後、不満そうな顔を浮かべながらも2人はこの空き教室に来てくれた。不満というか、どちらかと言うと不安て感じかな。もしヘマでもしたら何されるかわかんないもんな。……でも上はただ娯楽のためにやってるだけなんだけどな。
「まずは来てくれてありがとうとでも言っとけばいいか?何で急に承諾してくれたかは全く分からないが。じゃあ早速絹綿から話を聞きたい。牟田は外で待っててもらえるか?」
2人は黙って俺の言いなりになった。まるで人形のように。すごく気持ちよかった。
「いくつか質問に答えてもらうぞ。ついでに録音もしてあるから精々気をつけてくれ。」
そういって机に置いた携帯を軽く叩く。沈黙を肯定と意味し質問を始める。
「まずお前がカンニングを見たと言うのはいつの事だ?日付、科目、出来れば時間も教えて欲しい。」
「2日目の数学よ。時間はあんまり覚えてないわ。でも問題を解き終わって少し首を回した時に見たからそのくらいの時間ね。」
「次、何で遠目から俺がカンニングと確信した?」
「簡単でしょ。最初目に留まった時は時計でも見てるのかとも思ったけど、若干向きは違ったしずっと見てるからもしかしたらと思ったらその延長にあの子がいたのよ。」
「次、どうして直ぐに先生に言わなかった?」
「あの子はテストをいつも全力でやってるの。それを極力邪魔したくなかったのよ。」
「それならテストが終わってすぐ言えばよかったろ。少なくても返却まで待つ必要がなさそうだが。」
「テストが終わった後あの子と相談したのよ。それであの子はあの通りあんまりハッキリとは物事言えない子だから無駄に何日も悩んじゃったのよ。」
なるほど、流石に準備してあってかなかなか崩せない。ちょっと趣向を変えてみるか。
「随分とあの子とやらと仲が良さそうだな。牟田とどういう風に出会ったのか聞かせてもらえるか?」
この質問に俺でも分かるほど動揺をみせた。これは打ち合わせをしてなかったと見える。
「そ、そんなの今関係ないでしょ!?ふざけてんなら帰るわよ!?」
......ふざけてる?
「こっちは退学、もしくはそれ以上のものかかってんだぞ。お前らには想像出来ないだろうが色々背負ってんだよ。そっちの下らないことのためにな。」
「……普通に、友達を介して仲良くなったのよ。ほら、白花さん。あの人人脈凄いから。それで趣味もあって。」
「趣味ってのは?」
「……映画鑑賞よ。」
こんなものか。
俺は「ありがとう」と一言礼を言うと、絹綿は勢いよく外へ歩いていった。これで去り際に情報交換されてはたまらんとその後ろをついて行く。結局絹綿はそのままどっかに行ってしまったので、今度は牟田を入れる。牟田は終始オドオドしていた。まぁこんなのと二人っきりは怖いのかもな。録音の旨を伝え始める。
「じゃあまず牟田のテストの点数について。ないとは思うがもし牟田が60点とか50点なら俺がカンニングしたって可能性はかなり低くなると思う。」
自慢じゃないが。
「えっと、94点かな。数学はすごい好きだから。」
「す、すごいな。……うん、まぁそんな簡単には行かないよな。じゃあ次に。テストを受けている時、周りから目線みたいなものは感じたか?」
「言われてみれば、感じたような気がしたかも。でも気のせいかもしれないし。」
まぁ気配なんてそんなものだろう。でもそもそもあんまり牟田には質問がないんだよな。あくまで被害者の立場になるんだから。
「ちょっと話は逸れるかもしれないけど、絹綿についてどう思う。」
こちらは先程とは違い疑問には思っただろうが普通に答えてくれた。
「私と違ってハッキリと物事を言えてすごいなって。私は静かに端っこで勉強してるのがお似合いだから。」
ここでカマをかけてみる。
「あんまり接点がなさそうだけどな。」
さてなんて答えてくるか。
「私もそう思う。知り合った理由は確か、白花さんを介して知り合ったって感じだよ。趣味も合ったから、案外すぐ仲良くなったんだ。」
「趣味ってのは?」
「映画鑑賞かな。」
質問は終わり、牟田が席を立つ。今も不安そうな顔をしているが俺にはそれだけには見えなかった。そして部屋に出る寸前で俺は思い出したかのように言った。
「そういえば俺は何の科目でカンニングしたんだ?」
その質問にピクっと指が反応したのが見えた。そして「何言ってんだろう」みたいな顔で言われる。
「数学じゃないの?」
「数学のⅠかAかってこと。多分Aだとは思うんだけど、絹綿も牟田と同じで数学としか言わなくてな。」
「じゃあAなんじゃないのかな。」
「ならお前の94点てのはどっちなんだ?」
違和感があった。話を合わせるのなら『数学』と曖昧に答えるのではなくⅠかAくらいは統一するはず。まるでそこがヒントだよと手を抜かれているようだった。
「Aだよ。あなたにカンニングされたのも。」
俺の返事を待たずに早足で帰っていった。