狼煙の種火 5
「副会長っていったら会長のサポートとか言いつつ、本当はあんまり仕事してなさそうって思ってる?……まぁだいたいの所はそうよ。でもうちはほら、会長が、ねぇ?」
「心中お察しいたします。それで2人いる副会長のもう1人は全然来てないと。……お悔やみ申し上げます。俺がもし入れたら微力ながら手伝いますよ。」
「!!あなた……いい人なのね。噂なんてやっぱりあてにならないわね。」
うわぁあいきなり手ギュッとしないで。こういうのいつぶりかわからんから急に来ると勘違いしそうになる。落ち着け、虚無になるんだ。そう、これはこの人なりの距離なんや。好意ではなく厚意なんや。
「それでこの後は一体何をするんですか?」と話題を逸らす。ついでに目線も逸らす。それに気づいたかどうかは分からないが握られた手は離れ、「もうすぐ着くわ。あと敬語はやめてほしいわ。」とまた歩き出した。
議題は園芸部の育てたハーブ畑が臭い。byブラスバンド部。ということでそれぞれの部長、副部長その他1人ずつの3人同士で話し合いが行われた。ちなみに園芸部の植物は学外からの評判もとてもよく、育てきれなくなったものは特別に一般に向け販売される。その価値も高いらしく、ブランド化されてるらしい。さらに一番大切に育てているというソメイヨシノは国の重要な文化財にも登録を考えられているとかなんとか。一方のブラスバンド部は夏休みなどの長期休暇でよく海外に呼ばれ講演をしている。前は確かオリンピックの開会式にも呼ばれたとか何とか。お互いとてもすごい部ではあるのだが......。
「雑草育てるスペースあるんなら少しその土地寄越せ!」
「だったら無駄にそこらへんを千鳥足のように歩いたりせず座って演奏すればいいじゃないか。」
「躍動感と演奏の迫力で人を魅了するんだよブラスバンドは!んな事もわかんねぇのか!」
「ならハーブはその芳醇な香りと効能で人を夢中にさせるんだ。その香りを「臭い」の一言で終わらすなど愚かで仕方ない。」
こんな会話が延々と繰り広げられる。話し合いというか、罵り合いというか。お互い妥協はしないらしい。このままではいつまで経っても埒が明かないと思い口を開こうとした時、それより先にノアが動いた。
「この学校は海に近く海陸風の影響を強く受けます。ですからそれぞれの風上に立っていればさほど匂いはしません。日が出てる時は海と畑の間で、沈めば海より離れた畑側でやれば今よりマシにはなると思います。」
まあ限りあるスペースで上手くやりくりしていくにはそうしたりする他ないだろうな。
「俺たちに引けってのか!?」
ブラスバンド部の部長と思わしき男子がまるで勝負に負けたかのようなリアクションをとる。一方の園芸部もほくそ笑んでいる。それは違うと思うんだけどな。
その言葉にノアがイラついたのが俺でも分かった。声のトーンが少し落ちた気がする。
「あなた方は一体何をしたいんですか?」
その声にみんながビクつく。確かにこの人は上に立つ人間だと思わさせられる。
「この話し合いはあくまであのハーブの匂いをどうにかならないかというもの。勝ち負けじゃないでしょ。くだらない見栄の張り合いなんかに付き合ってあげるほど暇じゃないのよ。それだけなら各人で勝手に好きなだけやってなさい。」
もう話し合いを聞く気はないらしく椅子を戻し部屋を出る。俺も一応頭を1回下げ、ノアの後を追う。誰も呼び止めることはおろか、みんな俯いて何も言わなかった。
「ごめんなさい、つい感情的になってしまったわ。初めてがこれじゃあ悪い見本ね。本当はあんな一時凌ぎのじゃなくてもっといい案があったのだけど言う気が失せたわ。」
そうやって笑ってみせる。確かに感情的かも知れないが怒る気持ちはよくわかるし、変に媚び諂うよりずっと好感を持てる。思ったことを真っすぐ言うのって案外難しかったりするし。
「間違ってる事をきちんと指摘できるのはすごいと思うし、それが先輩相手なら尚更かと。かっこよかったよ。」
「ありがと、じゃあそう受け取るわ。そんな事より狐神のほうが大丈夫なの?終業式までに反論の材料集めないと高校中退になるかも知れないのよね。」
そうなんだよね。でも何をどうすればいいかまだよくわかんないんだよな。まともに反論することって受け入れるより苦労するものなんだな。
「とりあえずの方針としては矛盾点を探してそこを突くって感じなんだけど、如何せんまずその情報をどうやって得たものか。」
そこで頭を悩ませていると『仕事の報酬』として助言を一言いただいた。
「だったら当事者を質問攻めにしたら?」
前に言ったが恐らく、いや、十中八九絹綿と牟田は誰かに指示されて動いた。まぁその誰かも何となく想像はついてしまうが。つまり絹綿と牟田を単独にし、指示が来るまでの間に情報を引き出し証拠とする。もしかしたらもう「こんな質問来たらこう答えろ」などと指示があるかもしれないが、そしたら違う角度の質問をしてみよう。
てなわけで翌日。
「ちょっと時間いいか?」
「嫌。」




